第二話"自傷衝動"④
天壌にとって、他人に関心を抱いたのは二度目だった。
一人目は、向笠華恋。不器用で甘えんぼで、そして人一倍慎重な彼女は、その友好関係がめっぽう広く、めっぽう浅い。
そのために誰の傍にいても孤独を感じてしまう。
適切な距離感を保てず、近づかれることに極度に緊張する彼女は、親友もいない。
そんな彼女こそが、天壌にとっては重要だった。
彼女の状態を知れば知るほど、その精神状態の危うさを識れば識るほど、天壌は彼女を愛しく感じていた。
きっと、私が手を差し伸べねば、この子はどうにかなってしまうのだろう。……いや、もう、とうにどうにかなってしまっているのかもしれない。そう思うと、天壌は自然と笑みがこぼれる。
彼女が《私のもの》だと、そう認識できるからだ。
そうであれば、彼女は天壌を欲するだろう。
天壌だけを欲するようになるだろう。
向笠は、天壌無しでは生きていけなくなるだろう。
最終的には、そこまで堕ちて欲しい。
どこまでも、どこまでも深く。二度と立ち上がれないほどに深く。
彼女を自分だけのものにしたい。
天壌はそんな想いで人間倶楽部を設立した。
天壌が愛する人間を観察、保護するための倶楽部活動。それこそが人間倶楽部なのだから。
だが。
今までは向笠と出逢うまで、ついぞ見掛けることのなかった美しい少女が、またも天壌の前に現れたのだ。
女子トイレに立ち竦む、片手から血を滴らせた少女。
細く不健康な体型。病的に白い肌。小さい身体によれよれのセーラー服。
きゅん、と胸が疼いた。
思うほどに焦がれた。想うほどに焦がれた。
赤く滲んだ傷跡が思い返される。
天壌は漏れる吐息を殺すようにして、足を進めた。タイルが乾いた音を鳴らす。
角を曲がる。そこには。
目を見開いた彼女がいた。
天壌は背筋を凍らせるような美しすぎる微笑を浮かべながら、一歩だけ彼女へ詰め寄った。
「みぃ~つけた。あなたを、探してたの。……硫崎茉水さん」
二度目の出逢いです。
しっかり名前も洗い出してるところはさすがのミコト様です。