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いやな予感は尽きることなく

作者: 志紅


本当に若干の痛い表現があります。



思い出したのは、お風呂に入ってるときでした。




あ、そういえば、書きかけのノートをリビングに置きっぱなしだったなあと。ぼんやり思ってから、ハッとして。グッときてー。パッと目覚めるこi・・・ってそれはどうでも好くって。やばい、って青ざめましたよ、ええ。それがなんでやばいかというと・・・、うちの母、リビングに置いてあるものは中身を確認して、家族それぞれにリビングに置くなって渡すんですね?人に隠さなきゃいけないようなことするな残すなっていうのが母の言い分でして。プライバシーも何もあったもんじゃないですよね、今思えば。・・・それでですね、そのノートがただのノートなら、よかったんですけれども。



――――――――私の創作BLの、メモノートだったんです。










嫌な予感は尽きることなく










BL?ああBLっていうのはですね、・・・うんと、平たく言うと男性同士がいちゃいちゃしてる話のことです。――――――・・・なんですかその目は。BLは文化なのですよ?・・・まあいいでしょう。話が先に進みませんからね。それでええと・・・、どこまで話しましたっけ。―――――ああそれで、湯船から立ち上がってリビングへ直行ですよ。うちの母怖いですから。特に隠しごとに関してはね。


元の世界では私、物書きをしていたんですけれど。さすがにカミングアウト出来なくて、趣味でそういった話を書いていることは伏せて、ふつうの本だけを出しているフリをしていまして。…それがいけなかったんでしょうね。堂々と話していれば何も言われなかったでしょう。だけどまあ、もう遅くて。リビングに入った途端、こちらに背を向けて正座した母が、座んなさいって言った時の恐怖、あなたに伝わります?伝わりませんよね。そりゃもう恐ろしかったですよ。背を向けていても分かる、怒りのオーラといいますか。そんなの抗える訳がないでしょう?大人しく座りましたよ。正面にきっちり正座して。全裸で。父も弟も家にいなかったのが、唯一の救いでしたね。――――……それで、まぁ、勘当を言い渡されました。とりあえず着替えてこいと。合い鍵返せと。勘当だと。…返事?イエスに決まってるじゃないですか。言い訳なんぞした日には、私は飛来するナイフを背に家を出ることになってましたよ。


お世話になりましたと三つ指ついて家を後にしました。まぁ私もいい大人でしたしね。自分で稼いでるんだし、さっさと一人暮らしすべきではあったんです。学生じゃあるまいし、第一私はそこそこ売れてましたから、それほどの打撃じゃなかったですよ。…経済的にはね。それで、さあこれからどうしようかとフラフラ道を歩いてたらね、うん。引っ張り込まれた訳です。こちら側にね。


……不甲斐ない話ですが、考え事に夢中で周りを見ていなかったら、なんだか灰色一面の私の世界から真緑の世界に変わりまして。さすがに昼夜まで逆転したら気付くに決まってるでしょう。ここはどこだとキョロキョロしてたら、なにか見たことのない生物が襲いかかってきたんです。びっくりしましたねぇ、アレは。――ま、このミカンさんが助けてくれてことなきをえたんですけれど。いやいや、お狐さんがまたたび好きとか、こんなに小さいミカンさんが化け物ぷちっと倒した時はさしもの私も呆然としましたよ。ええ。五秒ほど。…いたっ、こらミカンさん、噛まないでください。小さいって言ったのは別にバカにした訳じゃありませんってば。納得しました?ミカンさんはかわいいんですからそのサイズでいいんですよ。あんなに大っきくなんてならないで下さい。


あぁそれで、紆余曲折ありまして。ミカンさんに色々教わって、結果、






「この王都革命軍に入ることにしたという訳です。」



言って首を傾げると、彼らに一歩近づきます。すると、それまで割と普通よりの態度で話を聞いていた勇者サマが、カタカタと震える剣の切っ先を私に向けました。


なるほど、私と同じく安全大国日本出身の、しかも私より年下の少女のハズですが、環境が変わり危機察知能力を上げざるを得なかったのでしょうね。だけれどしかし、



「?…なぜ私は危険と判断されているのでしょうか。」

ふむ、と一瞬考えてから、思い当たる節があってポンと手を叩きます。それによってガランガランと音を立てて―――血の付いた剣が手から滑り落ちていきましたが、構いません。警戒されるのは困り物ですからね。


けれど…私の予想とは違ったのでしょうか。彼女の顔色は少しよくなったようですが、警戒心はあまり薄れていません。はてと心の中に疑問符を浮かべると、少女は青ざめ震える唇で何かを呟きました。


「…はい?」

「――…れ、それ…。何、ですかっ…!」

それ、と言われ少女の視線を辿ると、…あったのは我が国の宰相殿の、生首。


「あぁ、警戒の原因はこれでしたか…。まぁ今となっては必要ないですし、そーれっ。」

「――え、」


気の抜けるような――意図的にですが――声と共に指を振って、生首をパッと消します。別にどこか違う場所に送ったのではありません。単純に霧を手で払うように、消したのです。ちなみに手のフリは必要ありませんでした。…どうせなら、ちちんぷいぷいってやれば良かったですかね。


「幻影ですよ。ここに押し入らせて頂くのに、一瞬怯んでくれないと難しいと思いまして。―――我々革命軍は、無駄な殺生を嫌うのです。…あなた方と違ってね。」


ちらりと隅に縮こまる国王夫妻並びに王子殿を見やると、奥方と王子はヒッと肩を震わせました。奥方は仕方ないとしても…王子殿は愚息ですねぇ。確か第二王子は割と根性のある方だと記憶していますが、この人は王子なのは見た目だけですか。両親を庇うような体で女の子を前線に立たせるなんて、乙女の夢をぶち壊してくれますね。国王は単なるタヌキオヤジと思いきや意外と肝が据わっているようですが。


「革命軍というのは、勇者サマはただの難癖を付けてくる集団と教わっていたやもしれませんが、意外ときっちりした組織なのですよ?王政や王宮の周辺情報など、かなり充実している訳です。…だからね、私はココへとばされた原因を掴もうと革命軍に入ったのです。」

「とばされた…?」


不思議そうな表情をする少女に、思わず胡乱な目をしてしまいます。…いけません、私たるもの、常にポーカーフェイスであらねばならぬのに。


「――先ほどの話を聞いていましたか?…私が収集した情報から考えて…恐らく私は、あなたが召還される少し前に、国が実験に失敗し生じた時空の歪みによってここにとばされてしまったと、そういうことになります。」


段々ヒマになってきたので、指から色とりどりの煙を出してくるくると飛ばします。…普通のも使えますがひねくれた魔法ばかり得意な私は、あまり火を出したりとか上手ではないのですけれど、こういった大道芸じみた技は上手いとよく言われます。――いえ、一通り使えるのですよ?ただ、普通に縄を結ぶはずが永久に解けない縄にしてしまったり、さっきの幻影もそう、あれは生首の幻影しか出せません。あと、料理をしようとして一度悪魔を召喚してしまいました。―…結果的にミカンさんが食べようとして逃げていったので、まぁ結果オーライですよね。


「私の、せい…?」

「いえ、あなたのせいではありません。やったのは全てこの国の人間です。まあだから、お気になさらず。」

「…貴様まさか、この世界にとばされたことを恨みに思って…!」

革命軍として我らを殺そうと、とわざわざ話の流れをぶったぎってこちらを睨みつけるのは、ご苦労様な長男の彼。だから、話を聞いていましたか?そして睨みはすれど動かぬあたり、やはり小物ですね。


「――そのこと自体を恨んでなど、いませんよ。私が呆けていたのも悪いのです。…情報収集は王宮内でもできたでしょうが、ここでは名家の出でないと面接をパス出来ませんから。」

「っしかし…!」


「うるさいですねぇ。こういえばいいですか?…そのこと自体を恨んでなどいない、しかしこの国国としての有様にはほとほと呆れ果てたと。」


指から出る煙をとび回ってぱくんとくわえ、けれど捕まえられずに首を傾げるミカンさんに口元が綻びます。実にかわゆい。――…ってああ、今日は何やら表情が崩れやすい日です。これまでの皆のがんばりをやっと実現できると、やはり気持ちが昂ぶっているからでしょうか。


貴様…!とかなんとか王子がいってますが、ガン無視。とりあえずまだ向けられていたお嬢さんの剣の切っ先をそっと手でよけてミカンさんのもとへしゃがみ込みます。さらさらと美しい毛を撫でるとミカンさんは目を細め、クウンと声を漏らしました。昔は動物はそんなに好きではなかったのですが、ミカンさんはかわいくて仕方がないです。賢いし、美しいし、かわいいし、かっこいいし、強いし、かわいいし。


ていうか、いい加減思い出話するの疲れました。

最終的には勇者の彼女に関しての目的と関連してくるので、ただの時間稼ぎというだけでも無いんですがね。もうそろそろよくないですか。私は早く帰りたい。そして幹部の美少年ツインズの絡みが見たいのです。




ぼんやり思いながら色んなことを総スルーでミカンさんの頭を撫でていると、ピクリとミカンさんの耳が反応しました。ちらりとこちらを見上げてくるミカンさんに頷き、失礼します、とその右瞼に触れます。


目を閉じる必要はありません。頭に流れ込んでくるデータと画像と、あと最後に添付された俺すごいでしょ的なメッセージに適当に目を通して、3…じゃなかった、4人に向き直ります。



「さて、お喋りはここまでにして。――――マクリアド・リーン・アレキサンダー王。」


ありがとうと呟き手を離すとミカンさんがクルル、と満足げに喉を鳴らして肩に登ったのを確認してから、先ほどより幾分堅い声音で国王に声を掛けました。








「申し遅れました。―…私、王都革命軍リーダーなどつとめております、(フォン)と申します。」

「…なんと。」


驚愕の眼差しで見てくる国王に、皮肉げな声で残念ながら、と返してやります。…もちろん私も彼の立場なら驚くでしょう。それ程年嵩な訳ではありませんし、私がここへ来てまだ三年もたちません。そんな新参者を、と思うのは自然なこと。しかし私のこの物言いは、王の言葉に違うニュアンスを感じたからです。そう――女がか、という。


「これでも私、卑賤の生ながら元の世界では神童と言わせしめた女でして。ご納得頂ければ幸いに存じます。―――さて、」

女、という部分を強調して言って、目を閉じます。あぁ、私はどうやら思っていた以上にこの王が嫌いなようです。



目を閉じたのは、先ほどの情報を彼に転送するため。逃れる術はなく、脳に直接送り込まれるというのは殆どの人が体験したことのない感覚でしょう。案の定、王も眉をひそめ、そして驚愕に目を見開きました。


「―――いかがでしょう?」

「…どこで、これを。」「あぁ、この部屋には防音魔法を掛けたから、お気付きになりませんでしたか。…今この城には、」



革命軍が乗り込んできています。



静かに告げた言葉に、部屋の者は皆呆然としました。だあれもここに来ないのを、不思議に思わなかったのでしょうか?


「な、んだと…。」

「そんなことをして、ただですむと…!」

「―――思ってはいませんよ。だから、物的証拠を、今、提示しました。」

「は…、」

「っ!」


「…商人から賄賂を受け取っての人身売買の黙認、違法逮捕、絶滅危惧種の虐殺と密輸入エトセトラ。――――まさかこんなに証拠が出てくるとはね。」

「なに、を…。」

「父上…?」

「国王、様、どういう…。」


一気に顔面蒼白になる国王陛下と、奥方。それに反して呆然とする息子殿と勇者サマ。あぁ、やはり奥方は関与していたようですね。


「―――私の仲間たちが、地下の隠し部屋や陛下の寝室などからそれらの取引の証拠を大量に発見いたしました。全国民に配ることも出来るくらいの、貯め込まれた金品もね。」

ガクリと床に膝をつく、国王を見下ろし笑います。こういった役はあまり好きではないのですが、向いているし避けられない事なので仕方がないですよね。


「既に周辺国そして“世界の天秤”にはコンタクトをとりました。もうまもなく先ほどの証拠もあちらに転送されるでしょう。」


なるべく余裕綽々な感じでそう言い切ると、床にくずおれた王の肩が揺れ始めました。


人の感情をある程度予想するのは得意です。この後のきっと陳腐な展開は、大体予想がつきました。







「ぜ、なぜ…。異世界から来たお前が、そのような余計なマネを…!お前が、お前さえ来なければっ!!」


がチャリと床に落ちた私の剣を拾った彼は、私に猛然と向かってきます。鬼の形相で、もはや人とは思えぬ奇声を上げて。







数秒の後、ブシュ、というイヤな音と女性たちの悲鳴が聞こえ、私は閉じていた目を開きました。腹部に、鋭くも鈍い痛み。


「―――やめてください。」


ハッハッと荒い息で固まる国王の体に、血液を通して練り込んだ麻痺の毒を流し込み、その身を軽くトン、と押すと、王は為す術なく床に倒れていきます。――あぁこれでは、私の声も聞こえないでしょうか。あなた!と叫ぶ奥方の声が、どこか遠くに聞こえました。




「この痛みは滅びゆく王国の怒り。それは変革者の長として、甘んじて受け止めましょう。しかし…どうかせめて、愚かしくも堂々たる王として、我らの記憶にあってください。ただの愚者にはならないでください。――王国最後の、王として。」


静かに言い終えた私のお腹を、ちろりとミカンさんが舐めてくれます。ゆっくりとふさがってゆく傷を眺めながら、やはりぽつりと呟きました。


「王よ…たとえ私がこの世界へ来ずとも、きっと変革は始まっていましたよ。城下町より外の様子など、あなたは見たこともないのでしょうけれど。国という巨大な陰に脅かされし人々を私はずっとこの目で見てきました。その渦中にいた人々は、とても多く…密かに存在していたのですから。」


実際私もその影響で狙われましたよ。いえ、私が、というよりミカンさんが、ですが。


ミカンさんはこの世界ではエトロと呼ばれる超希少種でけっこう色んな人に狙われるのですが、力が強大すぎて捕まえるなどまず無理なのだそうです。けれどエトロは人になかなか懐かない分、誰かに懐けば命を賭しても守ろうとします。加えて頭がいい。だから、私を人質にミカンさんを脅したのです。多分…商人に雇われた人間でしょうね。生け捕りは難しいですが、エトロは死した体にも凄まじい魔力が宿るといいます。私と引き換えにミカンさんを殺す気だったのでしょう。



―…まぁミカンさんはどうやら、分かったわ、私の命で助かるなら…!という健気タイプではなく、死ぬなら一緒よ!ミカン、いっきまーす☆という無謀タイプだったらしく。



――――勝算はあったのですよね?私は信じていますよ?あとついつい女性口調になってしまいましたが、ミカンさんは女の子なんでしょうか。男の子なんでしょうか。調べてないのでよく分かりませんが。まぁとにかく、それ以来私は超希少種のミカンさんが狙われる…つまりそういった生物を買う人間がいるこの国の実態をしり、暴力的な魔法も覚えようと。強くあらねばと思うようになり、革命軍に入ることを決めたのです。




そんなことを考えながら勇者サマへと向き直ると、少女…と王子殿は、驚いた顔で私、正しくは私の腹部を凝視していました。……あれ、勇者はともかくなぜあなたまでびっくりしてるんです?エトロの力は有名でしょうに。――――…ってあぁ、そういえばミカンさんにちょっと目くらましの術をかけてましたね。まぁ触ればわかる程度の幻覚ですが。面倒くさいので説明はしませんよ?


「さて、勇者殿…名をなんと?」

「…コマチ、と。」

「なるほど…ふむ。小町さんですか。」

「――え、」

パチンと指を鳴らして、小町、の所から日本語に切り替えると、小町さんは驚いた顔をしました。いえ、何やら片言で話しづらそうでしたのでね?会話の中でも先ほどから単語ばかりでしたし。ちなみにまたしても指を鳴らしたのに深い意味はありません。

「な、なんで日本語を…!?」

「嫌ですねぇ、とばされたと言ったじゃないですか。しかも私は黒髪黒目で、彫りも深くないでしょう?加えて、この子“蜜柑”さんですよ?」


名を呼ばれたとフサフサしたしっぽを振るミカンさんもかわいいですが、戸惑った表情の小町さんも何やら動物的でかわいらしいです。

「言われてみれば…。で、でも、お名前、フォン、って…。てっきり中国人辺りかと、」

「ああ、それは偽名ですね。」

「偽名!?」

「?ええ、戸籍はないので偽る必要はありませんが、五十嵐颯椛(いがらしかぜか)と名乗ったら、皆さん発音しづらそうでしたので。元の世界では一度も初対面で呼べる方がいなかったので少し残念でしたが、“嵐”と“颯”の風からとって、(フォン)と。」

「…なるほど。」


納得した表情を見せる小町さん。なるほど、確かにかわいらしいです。取り巻きがいるというのも理解できますね。ところで日本語では何を言っているのか分からない王子がうるさいですが、放っておきましょう。あなたも母上を見習って大人しくしていなさい。これから真面目な話をするんですから。と口封じのまじないをかけると、…なんか視覚的に更にうるさくなりましたね。まあいいでしょう。



「――さて、と。小町さん。」

「…はい。」

「我々は、あなたが魔王を倒し、帰還するときまで待ちました。何も知らせないままあなたが信じるこの国を滅ぼせば、あなたはきっと復讐に生きてしまう。それにあなたは賢い方です。下町の悲惨な現状も、うすうす気付いているだろうと思っていました。」

「…すみません。」

「いえ、謝らなければならぬのは、むしろこちらの方です。私たちは押し付けられた理不尽な要求からあなたを救うことすらしなかったのですから。あなたがそんなことまで背負い込む必要はないのです。―――それで、あなたが戻って来れば王国側の強大な戦力になろうという意見もありましたが…。それでも私はあなた方が戻って丁度2ヶ月後、と決めました。」

「…なぜ、ですか?」


「――理由は、2つあります。」


そう言って私は指を2本立てました。その片方をミカンさんがあぐあぐかじっているので何とも格好がつきませんが。


「1つは、図らずもこの王国のために、年端も行かぬ少女が命を賭して魔王と戦ったということに、国王が改心するのではないかと…少しだけ、期待したのです。」

「……。」

「そして、もう一つは。―――あなたの意見を真っ向から聞き、怒るならそれもよし、それを受け止めようと。そして出来るならば、…あなたのこれからを共に考えようと、思ったからです。」


じっとやや色素の薄いその瞳を見つめても、小町さんは目を逸らしませんでした。賢くて可愛いだけでなく、強い子です。私と向き合うのは緊張すると、よく言われるのですけれど。


「あたしがどちらに着くのかと、そういうことですか。」

「端的に、言えばね。」

「…私が、国王に着くといったら、」

敢えてなのかクリアリオ母語で云われたその言葉に、王族の皆さんがパッと顔を上げます。こんな若き少女に頼って、恥ずかしくないでしょうか。


「――その時は、革命軍リーダーとして…私が全力でお相手します。」

「―――…そうですか。」

「…こんなやり方はずるいと、分かっています。けれどあなたは、ずっと国の満たされた場所にいて、そちらの方の言い分だけを聞いてきた。だから、そうでない所もあると知って、そして…、」



「こちら側で、これからも生きてほしいのです。」




背を向けて私に向き合う小町さんの表情は、彼らには見えていないでしょう。けれどその言葉から、王は何かを察したようです。王子は未だに顔を希望にきらめかせていますが。



「…なぜ、」


震える声。唇を噛んで目を閉じた小町さんは、一体今何を思っているのでしょうか。


「なんでしょう。」

「なぜ、あたしが戻って来ると…?みんな、ダメ元って感じで…。万一倒せればラッキーなんて、そんな雰囲気だったのにっ…!どうして、」

「そうですねぇ、敢えて理由を挙げるのなら、日本人という民族が与えられた職務は必ず全うするからでしょうか。―…というか、まぁ…、」

決意を込めた瞳に向き合って、私は静かに笑いました。






「あなたが帰って来なければ…、革命は起こさないつもりでしたから。」



「え、…。」

「今言ってもifの話ですから、信憑性などないかもしれませんが。――…でもね、私は、我々は。あなたを見殺しにした国の一員として、幸せになる訳にはいかなかった。」

「――っ!」


「子供たちには罪はない。だからそれだけ申し訳なかったのですが…。――あなたは、私とは違う。望まず異世界に来たのは同じでも、あなたは望んで先導者となったのではない。国の誰もが、どうにかしてあなたが命懸けで戦うのを、召喚されるのを、防ぐことが出来たはずだった。…誰もそれをしなかったのに。結局異界の少女一人を見殺しにしたのに。のうのうと幸せになる訳には、いかなかった。」




ただ、それだけのことです。




充血した眼は、見ない振りをして。私はそっとまだうら若き少女に手を差し出しました。この腕が切り落とされようと、もう覚悟は出来ているのです。



「―――一緒に、いきませんか?」




細く白い少女の手がこちらに伸ばされるのを見て、私は微笑みました。





どうしても補足したいのでしておくと、颯椛は小町が帰ってこなかった場合、王族を巻き込み自爆する予定でした。


そんな話まですると押し付けがましいかなぁ、と思い、颯椛は小町には言っていません。


以上、予想外に長く&余白が少なくてすみませんでした…;



追記:続編兼楓椛の過去を「シュレッダー予備軍」に置いております。色々と背景が分かりますので是非。

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