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新たな家族は無口っ娘。



「……ん、くぁ……はわぁ」



気の抜けた声が漏れる。

くぅっと体を伸ばすと関節がぽきぽきと音を立てた。

昨日即席でやった割には、付呪も効果的に働いているみたいだ。

椅子で寝た時特有の変な凝りや痛みは毛程も感じない。

さて、昨日の娘はどうなったかな?

ベッドに視線を向けようとした所で、お腹の辺りに掛かっていた圧に気が付く。

背中にタオルケットを背負った幼女が僕の服を掴んでいた。

小さな手にはタオルケットの端っこも一緒に握られていた事から、多分夜中に一度目を覚まして僕にタオルケットを掛けようとした所で力尽きたんだろう。

なんて健気で良い子なんだろう。

自分の想像に胸を打たれる。

やや青み掛かった銀髪を指で弄びながら梳いてあげると、もぞもぞと胸板にほっぺを擦り付けてきた。

ふにふにした感触と微かに広がる冷たさが心地良い。

安らかに眠る姿はミナや美由里よりも幼く見える。

外見は6歳前後って所かな。

でも昨日転生……いや、誕生したばっかりだから赤子と同等なのかな?

人間と比べて成長速度もだいぶ違うだろうし、一概に人間の感覚を当てはめるのも適切じゃない気がする。

そう言えばナギさんは純正種だからいいのかもしれないけど、美由里は幾ら肉体が竜族のものだと言っても中身は普通のかわいい女の子だったからなぁ。

やっぱり僕の知らない所で苦労してたんだろうなぁ。



「……ん……ぅ」



しみじみと意識を飛ばしていた所に、幼女の身動ぎ声が飛んできた。

おっといけない、今はこの娘の事を考えてあげないとね。

優しく頭を撫でてあげると、長い睫毛の間から金色の瞳が姿を見せた。

始めは虚ろだった瞳も徐々に焦点を合わせて、真っ直ぐに僕を見上げている。

撫でる手を止めて笑い掛けてみる。



「おはよう」

「……ん、おは……よう」



余り感情の乗らない、抑揚に乏しいハスキーな声が返ってきた。



――これはっ、まさかの無口っ娘!?



無口っ娘特有の低めの声に内心で小躍りしつつガッツポーズ。

何を隠そう、無口っ娘は大好物です。

普段からイマイチ考えの読み取れないポーカーフェイスな無口っ娘が、ふと気付いたら僕の服の裾を掴んでじっと見上げてきてる所を想像しただけで賢者タイム一歩手前まで逝ける。

それも余裕綽々で。

こんな素晴らしい出逢いが有るなんて、人生まだまだ捨てたもんじゃない。

神様、いや闇さんありがとう!

心の中で闇さんの評価を上方修正しつつ、手の動きを再開した。

撫でられるのが気持ち良いのか、幼女は目を閉じてほわ~っとした雰囲気を醸し出す。

予想以上のかわいさに思わず手を止めると、目を開けてじっと僕を見上げる。

なんとなく催促された気がして撫でるのを再開すると、また目を閉じてほんわかタイム突入。

手を止めると、またじっと見上げる。

なでなで、ほんわか。

ぴたっ、じ~。

なでなで、ほんわか。

ぴたっ、じ~。



――正直言って辛抱堪らんです、はい。



鼻から萌えオイルと言う名の真っ赤な体液が噴き出しそうになるのを根性で押し止めて、小さな体をひょいと抱き上げる。

僕も体を起こして真っ直ぐ座り直し、膝の上に幼女を座らせた。

感情の起伏に乏しい双眸で僕を捉えたまま両手を後ろに回し、むぎゅっとしがみ付いてきた。

ぽんぽん、と優しく背中を叩くと僅かに目尻が下がった。



「ユーリ、起きてる?」



かちゃっと静かに扉を開けて、ミナが部屋の中を覗き込んだ。

僕と目が合って、嬉しそうに微笑む。



「おはよう、ユーリ」

「ミナ、おはよう」

「あ、もう仲良しさんみたいだね。ユーリったら手が早いんだから」

「各方面に誤解を招く発言しないでよ!?」

「でも合ってるでしょ?」

「……うぅ、お嫁さんがイジメる」

「にはは、ゴメンゴメン」



わざとらしく落ち込んでいたら、頭にぽむぽむといった感触が生まれた。

視線を下げれば、幼女が背伸びして僕の頭を撫でてくれていた。

視線が合うと一旦手を止めてじっとミナを見つめ、また僕に向き直り頭をぽむぽむと撫でてくれた。



「な、なんか強敵っぽいかも……」



打ち拉がれるミナはさて置き、僕は幼女に笑い掛けた。



「慰めてくれてありがとう」

「……ん」

「僕はユーリ、あっちの娘はミナ。宜しくね」

「ゆー、り?」

「うん、ユーリ」

「ゆーり、おぼえた」

「それじゃ、君の名前を教えて?」

「……ない」

「んぅ?」

「なまえ、ない」



そう言うと、ちょっぴり寂しそうに目が一瞬下に揺れる。

寂しさを払拭出来るようにほっぺをつんつんしてみると、また一瞬目尻を下げて僅かにほっぺを突き出してきた。

……もっとして欲しいのかな?

両手でほっぺをぷにぷに弄びながら、僕はどうしたもんかと考え込んだ。

予想以上にこの娘の知能は高い。

余り喋らないだけで、少なくともミナと同等には言葉を知り理解しているように見受けられる。

まだ誕生して1日も経っていないのにも関わらず、他人を心配して慰める、という一連の思考が出来る辺り最低限の知識や教養は身に付いているらしい。

口調や行動なんかは今の所見たままの年齢に近いっぽい。

そんな事をつらつらと思い浮かべ……再度、どうしたもんかと頭を悩ませた。



――この娘の名前、決めなきゃなぁ。





取り敢えず朝ご飯をみんなで食べて、そのまま居間で家族会議を始める事に。

良いねぇ、家族会議。

言葉の響きが重めだけど、みんなが家族だって改めて認識出来るからかな?



「じー……」



みんなの自己紹介も終わり『この娘の名前を考える』という議題を提示した所で幼女が一言「ゆーり、きめて」と仰ったので僕は再び頭を悩ませる事に。

言っちゃあ何だけど、僕にネーミングセンスは欠片も無い。

なんとか良い名前を付けてあげようと無い知恵を振り絞ってみる。

からからからから、と景気の良い音を立てて回る頭。

うん、今日も良い空回りだ。



「じー……」



……うん、そろそろ幼気な視線に耐えられなくなってきたし逃避は止めよう。

僕の膝に乗って背中を預けながらじっと見つめてくる幼女。

普段ならミナか美由里が乗ってくる所なんだけど、今日は我慢してもらってる。

というか、この娘の眼力に負けただけなんだけどね。

ミナは苦笑と共に、美由里はすごすごと引き下がってくれた。

後で埋め合わせしないとなぁ。



「じー……」



あ、はい、すいません。

真面目に考えます。

とはいえ何が似合うかな?

この娘のイメージに合いつつかわいくて可憐で口ずさんで気持ちの良い発音の名前を考えてみる。

……んー、思い付かない。

もっと別の角度から攻めてみよう。

ちっこいからチビスケ……いやいや、ペットじゃないんだからダメだろう。

肌がぷにぷにしてるからプニエ……うん、無いな。

あーでもないこーでもないと脳みそをフル活用していたら、はたと思い浮かんだ。



「ニア」



僕の側を離れないし、僕もこの娘の側に居てあげたい。

そんな事を考えたら出て来た名前。

しっかりと目を合わせて優しく微笑み掛ける。



「に、あ?」

「ニア。それが君の名前だよ」

「……ん」

「気に入らなかった?」



ちょっと不安になって尋ねてみたら、すごい勢いで首を左右にぶんぶんぶんぶん。

ほっぺに指を押し当てて首の動きを止めたら、向き直って両手で僕の胸元にむぎゅっと抱き付いてきた。

見上げた顔は一目でそれと解る、大輪の花が咲いたような眩しい笑顔。



「あり、がと」

「……ぐふっ」



かわいさクリティカルです。

あっさりと理性やら体面やらをかなぐり捨てた僕はニアを抱き締めて、全身を撫で回したりむにゅむにゅと摘んでみたりぷにぷにつついてみたりとバーサーカーモードに突入。



「あぁっ、ニアかわいいよぉぉぉ!ぷにぷに!ほっぺぷにぷにしてる!あぁ、髪の毛もサラサラで良い匂いがするよぉ!くんかくんかしてもいい?いいよね?くんかくんかするよぉぉぉぉ!くんかくんか!くんかくんかすーはーすーはー!」

「ん……ゆーり、はずかしい……」

「ふにゅおぉぉっ、その恥じらう顔もかわいいよぉぉぉ!ニアかわいいよニア!」



未だかつて無い壊れ方を披露する僕を見て思わずニアと美由里以外引き気味だ。

でもそんなの関係ないね!

僕はニアを愛でるので忙しいのサ!



「あー、お兄ちゃんが壊れるの久しぶりに見たなぁ」

「ミューリちゃん、ユーリ、なんかおかしくなっちゃったけど……」

「あれは不用意に近付いたら、こう、フシャァァァッ!って全力で威嚇されるよ」

「あ、あらあら、ゆーくんも随分アグレッシブなのねぇ」

「ナギ君が動揺しているとは……!」

「流石にあの状態のご主人様を見たら誰だって動揺しますよ」



そんな評価をBGMにひたすらニアを愛で続ける。

また無表情に戻ってるけど、若干ほっぺに紅が差してる。

その照れた顔もかわいいっ、って、あら?

急に頭がくらくらし始めて平衡感覚が失われ、体が左右にふらふらと揺れる。

勝手に揺れる体は徐々に振れ幅を大きくしていき、気付けば前方に倒れ込んでいた。

咄嗟にニアを抱き締めて無理矢理体を回して背中から倒れるようにする。

少なくとも、これでニアは怪我をしない。



――あ、両手で抱き締めてるから受け身取れないや。



気付いた時には後頭部から床に落ち、強烈な衝撃が脳を揺らしていた。

ゴッという音が頭の中から響いたような感覚が走り、そのまま僕の意識が弾け飛ぶ。

一気に白くなった視界の端で、みんなが慌てているのが見えた気がした。


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