閑話――私の好きな人。
突然だけど、私は今好きな人がいるの。
その人はやさしくてカッコ良くて……ちょっぴりえっち。
顔はかわいくて、髪の毛を伸ばしたら女の子に見えそうなの。
その人の周りの空気もやわっこくて、えっと……にゅ、にゅーわ?日向ぼっこしてる時みたいにぽかぽかしてるよ!
その人の事を思い出すだけで、ちょっと幸せな気分になっちゃう。
……あ、いけないいけない。
ぼーっとして部屋を通り過ぎるところだった。
そっと扉を開けて、中をのぞき込む。
うん、まだ寝てるみたい。
最近の私の楽しみは、毎朝その人を起こす事。
「ユーリぃ、朝だよ」
体をゆすってみるけど、すやすやとかわいい寝息を立てたままのユーリ。
パッと起きるのは苦手みたい。
だから私は毎朝、ユーリにちょっぴりいたずらするの♪
「ていっ」
いきおいを付けて指をユーリのほっぺに伸ばす。
むにっとやわっこい感触。
もちもちのほっぺを触ってると何だか癒される。
そのまま指を下にずらすと、ユーリのくちびるに当たる。
朝だからかな?ちょっと乾燥しててカサカサ気味。
私は振り返って部屋の入り口を見る。
……うん、お姉ちゃんに見られてない。
最初にユーリを起こした時はお姉ちゃんに見付かって、後で怒られちゃったからね。
同じ失敗はしないのっ!
私はドキドキする胸を押さえながら、ユーリのくちびるに顔をよせた。
舌を伸ばして、よだれをくちびるに薄くぬるように舐める。
チロチロ、ぺろぺろ、時々ちゅっちゅっ。
そんな音を立てて、ユーリのくちびるを味わう。
「はふぅ……♪」
今日はこれくらいかな。
最後にくちびるを舌でなぞって、ユーリから離れた。
「にへへ、ちゅぅしちゃったぁ♪」
うれしさや恥ずかしさでほっぺが熱い。
ユーリにちゅってすると、ぽわぽわした気分になって、心が気持ちよくなっちゃう。
ちょっと癖になりそうなくらい。
やんやん、ってくねくねしてたらユーリがもぞもぞ動き始めた。
体をやさしくゆすったら、閉じてた目がゆっくり開く。
「おはよう、ユーリ。朝だよ?」
「……んぅ……」
「起きないといたずらしちゃうよ?」
もうしちゃったけどね。にへへ♪
ユーリはまだ寝ぼけてるみたいで、すぐに目を閉じようとする。
だから私は布団をひっぺがした。
でもあんまりやったらかわいそうだから、はがすのはお腹の上くらいまで。
「うぅ……寒いよミナ……」
「ほら、起きたらあったかいよ」
寒そうに体をよじってるユーリ。
そしたら、急に腕が伸びてきて捕まった。
「わわっ、ユーリ!?」
「んぅ……ミナは暖かいなぁ。……よし、今日からミナは僕の抱き枕に決定」
そのまま布団の中に引きずり込まれて、ユーリに抱きしめられる。
あ、ユーリのにおいだ……。
ちょっぴりほっぺが熱いけど、なんだか幸せな気持ちになっちゃう。
「……にへへ、ユーリの抱き枕になっちゃったぁ」
胸板に顔をこすりつけて深呼吸。
鼻の中いっぱいにユーリのにおいが広がる。
前にユーリが私にしたのと同じ事をしてみたけど、これはなかなかすごい。
全身にユーリのにおいがついちゃう気がして、すごくえっちだ。
「わぁ……私、ユーリのせいでえっちになっちゃったかも……」
って、ユーリ起こさないとお姉ちゃんに怒られちゃうよ!
このまま一日中くっついてたいけど、お姉ちゃんのげんこつは怖いもんね、うん。
ゆーわくを振り払って、私は体を離そうとする。
「わひゃぅっ!?」
逃げようともぞもぞ動いたら、がしっと強く抱きしめられる。
そして、ユーリの右手は私のお尻をつかんでた。
そのままむにむにと揉まれる。
「やっ、ユーリっ、んっ、んぁっ」
変な声が出る。
なんだか恥ずかしくなって、ユーリに文句を言おうとして顔を上げたら、目を閉じてくーすか寝てた。ほっぺを叩いて起こそうと思ったけど、両腕はガッチリ押さえ込まれてる。
抜け出そうと動いたら、
「きゃふっ、んぁっ、あっ、やぁん」
お尻をむにむにと揉まれる。
――う、動けないよぉ……。
鼻からはユーリのにおいが入ってくるし、動いたらお尻を揉まれるしで、だんだん頭がぽわぽわしてきた。
結局、様子を見に来たお姉ちゃんに助け出されるまで私は捕まってた。
私はげんこつ、ユーリはお説教をお姉ちゃんからもらったけど、私にげんこつするのはなんだか納得いかないよぉ!
それとユーリは私に何をしたのか全然覚えてなかった。
寝ぼけてるユーリにあんまり近付いたらダメ、ってお姉ちゃんにもこっそり教えておいた。
……べ、べつに、ユーリの抱き枕は私だけでいいの、とか思ってないよ?
朝ご飯を食べて洗濯物を干し終わって。
お昼までやる事のない私はふらふらと歩いてた。
「……はふぅ♪」
今日の私はちょっぴりごきげん。
朝に抱きしめられたせいで、服からユーリのにおいがいっぱい。
うれしいような恥ずかしいような、不思議な気分。
なんだかユーリに抱っこされてるみたい。
そんな幸せ気分でてくてく廊下を歩いてたら、外から声が聞こえてきた。
窓をのぞくと、ユーリが庭を走り抜けてた。
そういえば、ご飯の後でとれーにんぐをやる、って言ってたっけ。
よく解らなかったけど、あれがきっととれーにんぐなんだよね。
私は庭の入り口の木に隠れて、邪魔しないように観察をする事にした。
「49っ、50っ、51っ」
ユーリは地面に寝転んで、上半身だけを起こしてた。
なんだっけ、ふ、ふ―……腹筋?
そうそう、腹筋。
ユーリすごいなぁ、腹筋50回も出来るんだぁ。
しばらく見てたら、ユーリは庭で一番大きい木の下に座り込んだ。
休憩かな?
朝の仕返しに驚かしちゃおう、って思って、私は足音を立てないようにこっそりこっそり近付く。
後ろまでやってきて、いきおいよく抱きつく。
「ユーリっ♪」
「わひゃあっ!?」
むぎゅっと腕を回したら、ユーリのにおいがいっぱいいっぱい。
ほわぁ……汗くちゃいよぉ……♪
ユーリのにおいにキュンキュンしてたら、ぐいって体を持ち上げられた。
そのまま膝の上に乗せられて、後ろから抱きしめられる。
頭にぽふり、って温かさが広がる。
くしくしとやさしく撫でられて、思わず顔がとろけそうになっちゃう。
その後2人でユーリの持ってた袋の中身を点検する事にしたの。
最初に袋から出てきたのは、青くて短いぼっこみたいなの。
「これは……折り畳み傘?」
他にも果物の絵が描かれた缶とか、キラキラした首飾りとかいっぱい出てきたの。
もしかしてユーリって商人さん?
……でも、普通はこの袋に入りきらないよね、この量。
実はユーリって整理整頓の達人さん?
次から次へと出てくる中身に、私はぽかーんってしちゃった。
それから出てきた荷物を2人で倉庫に運んだの。
ユーリは私に軽い物しか持たせてくれなくて、自分は物がこぼれそうなくらい抱えてた。
時々ふらふらしながら歩いてく姿がちょっとかわいかった。
倉庫の2階で荷物をどさどさーって広げる。
首飾りや指輪だけでもちょっとした山になってるよ。
圧倒されてたら、ユーリに声をかけられた。
「ねぇミナ、ちょっとこっち向いて」
「え、なぁに?」
「いいからいいから。じゃあ目を瞑って左手を前に出して」
なんだろ?ちょっとドキドキしちゃうなぁ。
言われた通り目を閉じたら、左手をやさしくきゅってされた。
くすぐったくてぴくん、ってしてたら何かが中指に当たる。
ユーリがもういいよって言ったから、ゆっくり目を開けてみた。
「わぁ……!」
私の中指に、キレイな指輪がはめられていた。
小さい私の指にしっかりぴったりな大きさの、銀の指輪。
何よりびっくりなのは、
――ユーリが、私の中指に……!
私たちのいる西の大陸では、男の人が女の人に指輪をはめる事には特別な意味がある。
左手の中指はさらに特別。
それは『あなたは私のもの』って意味。
つまり、私はユーリに『結婚してください』って言われたようなもの。
思わず顔が熱くなっちゃうけど、ここで慌てちゃダメ。
多分ユーリは、そういった事……この大陸の文化を知らない。
王国の事も魔法の事も知らなかったみたいだから、きっと別の大陸から来たんだと思う。
だから、これは逆に良い事かも。
今ならキセイジジツを作って、ユーリのお嫁さんになれる。
私はまだまだ子供だし、周りにはお姉ちゃんやエアリィさんもいるから、ユーリはいっぱいゆーわくされちゃう。
でも、私だってユーリが好きだもん!他のみんなには負けないからねっ。
心の中で手をぐって握って、私はユーリに笑顔を向けた。
「ありがとう、ユーリ♪でも、こんなに立派なの私がもらっていいの?」
「うん、ミナにはいろいろお世話になってるからね。いつもの感謝って事で」
やっぱり解ってないみたい。
それなら、って私はずるい笑いを浮かべて言った。
「……にへへ、じゃあ私からユーリにお返ししないとね」
その後の事は……にへへ、ナイショ♪
だって思い出しただけで、体が熱くなってぴくんぴくんしちゃうもん。
そうそう、指輪を贈られたら、返事はちゅぅでするんだよ!
ちゅぅして、私の全てをあなたに捧げます、って示すの。
つまりこれで、私はユーリ専用っ♪
だから今度ユーリが、その……さっきみたく、私のおっぱいさわりたくなったら……い、いいよ?
恥ずかしいから誰もいないところで、ね♪
そんな気持ちも込めて、私はユーリに言った。
「……また、しようね♪」
今回は視点を変えてミナから見た世界を。
子供っぽく見せる為に漢字を平仮名に代えたり、言い回しを素直な表現にしたり……いやぁ、難産でした。
そして今回はいつもより短い(もじかい)です。
それでも拙文に付き合って頂いた皆様に感謝を。