精霊を迎える下準備。
明けましておめでとうございます。
新年早々、煩悩塗れの駄文で申し訳ありません。
今日は朝から浮き足立ってる。
激動とまでは行かなくても何かと忙しかった一週間。
それも今日の夜中のイベントをこなせばいよいよ終わりを迎える。
ただ闇さんは時間の指定をしてなかった。
だから早くても夜の9時、一番有りそうなのは11時から12時までの間、遅いと夜明け前辺り。
だけど流石に日を跨ぎはしないんじゃないかな、と勝手に思ってる。
お約束的な思考だけど、11時57分に魔方陣が現れて12時になると同時に……受肉?受体?発生?……まぁ、誕生するハズだ。
取り敢えずはそれに向けてみんなで準備を進める事に。
昨日から引き続き部屋の手入れや家具の配置、生活用品の補充に歓迎会の準備に奔走していたけど、結局それも午前中に終わってしまった。
昼ご飯も食べて特にやる事も無い僕は妙に落ち着かないままに、部屋の中をうろうろしたり階段を上り下りしたり不意にきょろきょろと辺りを見回してみたり。
「……ユーリ君、少し落ち着きたまえ。気持ちは解らないでも無いが、流石に……こう、鬱陶しいよ?」
「お兄ちゃん、黙って座ってなよ。そんなに焦っても時間はゆっくりにしか進まないよ?そーたいせー理論がアレだとか、そんな理由で」
「わぁ、ミューリちゃん物知りぃ。でもそれ肝心な部分全く解らないわよぉ?」
そんな温かい言葉を頂いた僕は居間の座椅子、玄関前ロビー、庭のベンチを転々と歩き回り最終的にナギさんのかわいらしい「ていっ♪」というお声と共に自室へ放り込まれた。
厄介払いとも言う。
まぁ、確かに目の前でうろうろされたら鬱陶しいだろうから仕方が無い。
ちなみにミナはそんな僕を温かい眼差しで見守っていた。
美由里に「ミナお姉ちゃんは正室なんだから、ちゃんとお兄ちゃんの手綱握って置いてね」って言われてたみたいだけど、それじゃまるで僕がミナのペットか何かみたいじゃないか。
……うん、それも良いかもしれない。
真っ黒い犬みたいになった僕をミナが頭を撫でてもふもふしてくれるんだ。
遊んだ後はきっとミナがシャワーで洗ってくれるに違いない。
つまり、きっとこんな展開が待っている!
――ここから妄想。
「ほらユーリ、体きれいきれいしようね」
「わんわん!」
「あっ、ユーリ暴れちゃ、きゃっ!?」
「わふわふ」
「いたた……もう、ユーリったらやんちゃさんなんだから」
「わふっ」
「え、やぁっ、そんなとこぺろぺろしちゃダメっ、や、あぁんっ」
「わうわう」
「んんっ、やぁ、そこは旦那様しか入っちゃダメなのにぃ……んっ、あぁん、ダメぇっ、ユーリのおバカぁ、あっ、んぁっ、はぁぁん」
――ここまで妄想。
「……これはヤバい」
頭の悪い妄想に思わず鼻血が出そうになってしまう。
慌てて首の後ろをとんとん叩く。
医学的な効果は全く無いみたいだけど、気分的にやりたくなる。
「今度変身する魔法でも考えてみよっと」
飼ってるハズのペットにえっちな事をされちゃうってシチュエーションはなかなか良いかもしれない。
小さなミナが僕という獣に前から後ろから弄ばれてこくまろみるくをとぷとぷ……うん、素晴らしいアイデアだ。
今度そういうプレイを提案してみよう。
犬と幼女がお風呂でらぶらぶ、これに勝る背徳感はそうそう見付からないだろう。
なんて最高に頭の悪い妄想を膨らませていたら、背後から熱を帯びた声が掛かった。
「なら今は代わりに雌犬を飼ってみませんか、ユーリさん」
振り返るとチョーカーに細い鎖を付けて嬉しそうに笑うシーナの姿が。
今日はゴスロリ服を着ている。
所々に配置されたリボンが白じゃなく淡いピンクなのがこだわりポイント。
勿論麻袋から出てきた。
揺れるサイドポニーが服のひらひらと合っていて非常にかわいらしい。
「あー……もしかして口から出てた?」
「うん、ユーリのえっちな計画だだ漏れだったよ」
視線を戻すと顔を赤く染めたミナが困ったように笑っていた。
あちゃー、気を付けないと鬼畜パパ呼ばわりされちゃうよ。
いけないいけない、と頭をコツンとやる。
「良い子になるのでいっぱいかわいがって下さいね、ご主人様♪」
そう言って微笑みながら手にした鎖を渡してくるシーナに、僕は曖昧に笑うしか無かった。
こないだのアレ以来、シーナは被虐や隷属といったものに快感と愉悦を感じるようになってしまった。
昨日の夜、首にチョーカーだけ着けて後は裸で布団に潜り込んで来たのには驚いた。
後でスタッフが美味しく頂きました。
「ってかシーナ、その鎖どうしたの?」
「物置に有った装飾品の中からそれっぽい物を見繕って着けてみました」
そういえば最初に麻袋を漁った時に出てきた装飾品の中に、銀鎖のネックレスが有った気がする。
片付けるのも面倒でそのまま物置にぶち込んだんだっけ。
「えへへ、似合いますかご主人様?」
「うん、すっごくかわいくて素敵だよ。このまま外に出さずに、ずっと手元に置いておきたいくらい」
「私が輝くのはご主人様に愛でられている時だけですよ?」
「ならずっとシーナをかわいがってあげるよ、ずっとね」
「はぅん、ご主人様♪」
うん、もう色んな意味でダメだね僕達。
脳みそ溶けてんのかって突っ込まれそうな会話をしてると、だいぶ頭も落ち着いてきたみたい。
座椅子に腰掛けてシーナを抱き寄せ、ミナを右腕に抱く。
姉妹サンドイッチだ。
「この世界に来た時の事を思い出すなぁ。2人の献身的な介護に癒されていたっけ」
「私ユーリに一目惚れしちゃって、確かちゅうで水を飲ませてあげたよね」
「いきなりだったから驚いたわよ、ミナったら大胆なんだから」
「最初の頃はシーナに怒られてたなぁ。不純なお付き合いは禁止ですっ、みたいなノリで正座させられて」
「お姉ちゃん実は嫉妬してたんだよね?ユーリに甘えたいなぁ、ってこっそり零してたし、あいたぁっ!?」
「ちょ、ちょっとミナ、そんなの暴露しないでよっ!ご主人様に笑われちゃうでしょ!」
「こらこら、説教以外の理由でげんこつしちゃダメだよ」
照れ隠しでミナにげんこつを入れるシーナのおでこを、手首のスナップを効かせてぺちっと叩く。
わぅん、と両手で頭を抑える姿は犬っぽくてかわいいけど誤魔化されないよ。
ミナはげんこつの衝撃で目をチカチカさせていた。
すかさず膝の上に乗せて、ぎゅっと抱き締めながら頭を優しく撫でてあげる。
「痛いの痛いの飛んでけー」
「はふぅ……ユーリ好きぃ~♪」
「僕も好きだよ、ミナが大好き」
「にへへ、ユーリの優しさで私はとろとろに溶けちゃうのです!」
「ミナが溶けちゃったら困るから、意地悪しようかな?」
「わ、なにされちゃうんだろう」
「ミナにする意地悪は……」
「どきどき」
「ほっぺぷにぷにの刑だ!ぷにぷに~」
「きゃぁん、ユーリにぷにぷにされるぅ」
「つんつんもしちゃうぞ~」
「やぁん、ユーリのいじわるぅ♪」
一瞬で展開を始めるバカップル空間。
その密度は他の追随を許さない。
そういえば最近気付いたんだけど、ミナは僕の膝の上に乗るのが大好きだ。
やっぱり抱きかかえながらイチャイチャすると、心がグッと近付くからね。
膝抱っこえっちに2人でハマっていたからでは、断じて無い。
「……くぅ~ん」
悲しげな声に釣られて左を見ると、放置されたシーナがしょんぼりしてた。
イヌミミや尻尾が付いてたら間違い無くへにゃりとしていただろう。
基本的に構って遊んで意地悪して欲しいタイプのシーナは放置される事が一番堪えるみたいだ。
ただ余り意地悪するのもかわいそうだからシーナもむぎゅっとしてあげる。
小さく「あっ」て声を上げて笑みを浮かべるのは反則です。
かわい過ぎるから。
「反省した?」
「はい、ご主人様。ミナ、ごめんね」
「ううん、いいよ」
仲直りのハグをする姉妹。
そのかわいさに、思わず2人をむぎゅっと抱き締めた。
「わぷっ」
「あんっ」
ミナは少しくすぐったそうに、シーナはちょっぴりえっちに声を上げた。
2人に共通するのは、顔に浮かぶ幸せそうな表情。
自惚れかもしれないけど、僕が2人にこの顔をさせたんだって思ったら何とも言えない高揚感がやってきた。
ミナとシーナだけじゃなく、エアリィさんに美由里やナギさん、ヒナちゃんにも相応しい夫になれるように頑張らなくちゃ。
決意を新たに、僕はミナとシーナにキスをした。
絶対幸せにするからね。
姉妹とイチャイチャぷにぷにを堪能した僕は、ナギさんを探して家の中を探索中。
さっき見掛けた庭ではエアリィさんがハンモックに揺れながら読書をしてたから耳をかぷかぷ甘噛みしてみたり、居間では美由里が1人でこっそりプリンを作って食べてたからお腹をつんつんしてみたり。
それぞれ「うにゃぁぁっ!?」と「こ、これから成長期だもん!」と言う悲鳴が上がった。
悲鳴なのはエアリィさんだけど、美由里の方が悲痛な叫びだったね。
流石にデリカシーが無かったから、お詫びに美由里には「言う事を聞いてあげる券」を発行しておいた。
得したってホクホク顔の美由里は取り敢えず置いといて、ナギさん捜索の旅へ。
あれ、そういえば何でナギさん探してるんだっけ。
意識を散らしていると、不意に右腕を引かれ使われていない部屋へと連れ込まれた。
「んぷっ」
倒れ込んだ体は柔らかいおっぱいに受け止められて、目の前にはおっぱいがいっぱいフェスティバル。
こんな凶悪なボディの持ち主はこの家に1人しかいない。
胸から視線を上げると、ナギさんの笑顔が有った。
「ゆーくん、捕まえたぁ」
「捕まりました」
ナギさんの思惑は解らないけど、取り敢えずむぎゅっとしてみた。
柔らかくて弾力が有って気持ち良い。
「ごめんなさいね、ちょっと踏ん切りが付かなくてゆーくんから逃げ回ってたのぉ」
「え、そうなんですか?」
「でもゆーくんの温もりが欲しくて我慢出来なくなっちゃったのよぉ。もう、ゆーくんったら罪な夫♪」
そのままナギさんは顔を落として僕のおでこに優しくキスをした。
大人な香りが鼻をくすぐる。
「ゆーくん、やっぱり聞きたいのよね?」
「何をですか?」
「こないだ有耶無耶にした……例のシズナちゃんに関する事。だから私を探してたんでしょぉ?」
「……あー、そうだったそうだった」
エアリィさんや美由里と遊んでてすっかり忘れてた。
なんだかんだで暇を持て余した僕はナギさんに九尾族の事を聴いてみようとしてたんだった。
ようやく思い出した僕を見て、ナギさんはほっぺをぷくっと膨らませる。
「ゆーくんったら……私が悩んでたのが馬鹿みたいじゃない」
「あ、あははは」
「もぅ、笑って誤魔化さないの」
人差し指をおでこに当てて「めっ」て怒るナギさん。
そんな姿もかわいくて、僕は思わず微笑んでしまった。
それを見て更にむくれるナギさん。
一頻り笑った後で改めてナギさんに向き直り、真剣に話を聞く事にした。
あの時、ナギさんの目から一切の弛緩が消えていたのを思い出す。
珍しく冷静さを失って僕に掴み掛かった事からも、何らかの形で危害が加えられる恐れが有ったんだろう。
そして九尾族について尋ねた時にナギさんが浮かべた仄暗い感情。
あんな顔をしなければならなかった理由とは何なのだろう。
好奇4割恐怖6割といった気持ちを抱えて、僕は口を開いた。
「それじゃあナギさん、改めて九尾族に対する説明をお願いします」
「解ったわぁ。九尾族は元々妖狐族の一種、つまり狐の獣人なのよぉ。本来ならそんな風に細かく分類して別個に扱う事は無いんだけどぉ、九尾族はちょっとした因縁というか確執を内包しているの」
「確執ですか?」
「えぇ、九尾族は嫉妬深くて自尊心が強い方が殆どで、自分が気に入った相手は何をしてでも手に入れたいって人が多いのよぉ。ゆーくんに解りやすく説明するなら……ヤンデレ、って言えばいいかしら?」
「種族の大多数がヤンデレ……」
いきなりヤンデレとか言われても、どう反応したらいいのか困る。
僕の反応を見たナギさんは、困ったように笑いながらゆっくりと首を振った。
「ゆーくんが考えてるよりも事態は深刻だったのよぉ。気に入った相手を手に入れる為に拉致、監禁、暴行、脅迫、とにかく何でもやったの。余りに激しい暴行を受けて命を落とした人も少なくないわぁ」
「なっ……!?」
「他の女の子に目が行けば眼球を抉り出され、九尾族の子から逃げ出そうとすれば脚をもがれ、刃向かおうと暴れれば腕を切り落とされ、非難したり意にそぐわない事を言えば舌を断ち切られ。最終的には生きているだけの『達磨』状態で愛でられていた男の子が見付かった事件だって起きたわぁ」
ナギさんに語られる凄惨極まりない内容に言葉を失う。
ヤンデレって、好きな男の子が他の女の子にデレデレしてたらムッとした顔で胸をぽこぽこ叩いてくる女の子の事じゃないの!?
九尾族の女の子ってそんなに怖いのか。
いや、全部が女の子じゃないだろうし殆どは勘違い根暗ストーカー男が事件を起こしたんだろう。
全く男の風上にも置けない連中だ、とぷんぷんしていたらナギさんから一言。
「ちなみに九尾族は性別が女の子しか居ない種族の1つよぉ」
九尾族の女の子怖いよ!?
おっかない事実に全身ガクブルだ。
まぁ、余り考えても怖いだけだから話題を変えてみようと口を開く。
「そういえばナギさん、名前を聞かれなかったか確認してましたけどアレにはどんな意味が?」
「九尾族には代々伝わる呪術が有って、その中の1つに『名憑き』ってものがあるの。気になった相手の名前を聞き出したら名憑きを用いて相手に印を付けて、どこで何をしているのか判るようにするのよぉ」
「じゃあ、もしシズナが僕に名憑きを使っていたら」
「えぇ、体に何らかの印が痣みたいに浮かび上がっていたわぁ」
ふむぅ、と僕は腕を組んで考える。
先程聞いた九尾族のイメージは物凄く陰惨で恐ろしいものだった。
でもそれが、僕の知ってるシズナとはどこをどうやっても結び付かない。
かわいくてツンツンで語尾が「~~なのじゃ」ってかわいくてスベスベお肌にぷにぷにほっぺでかわいくて……うん、かわいい。
それに尽きる。
あの小さな手でほっぺむにむにされたい。
知らず知らずの内にほっぺが緩んでくるのは惚れた弱みかな?
とまぁ、幾ら考えてもシズナは怖く無かった。
九尾族の子はちょっと苦手意識みたいなの持っちゃったけどシズナは特別だね。
「まぁ、シズナは大丈夫ですよ。そんな怖い雰囲気は欠片も無い、普通のかわいい良い子でしたから。あ、でも僕より年上だから良い子って表現はアレかな?」
どうでもいい事で頭を悩ませる僕を見て、ナギさんは毒気を抜かれたように溜息を吐いた。
あ、ダメですよナギさん。
溜息吐いたら幸せが逃げちゃいますよ。
逃げた幸せの倍は僕が幸せにするつもりですけど。
「はぁ……益々私が馬鹿みたいよぉ。ゆーくんったら楽天家って言うか単純って言うか……」
「わ、ナギさんから初めてのダメ出し」
「もうっ、ゆーくん?」
「あはは、ごめんなさい。でも心配しないで大丈夫ですよ、ナギさんを悲しませるような事は絶対に避けるようにしますから!」
「絶対にしません、って言わない辺りゆーくんも賢しくなっちゃったわねぇ」
はぁ、と再度溜息を吐いたナギさんは僕の頭を抱え込んだ。
魅惑のおっぱいがむにゅむにゅと僕の顔を挟んでくる。
まぁ、ナギさんにも要らない心配を掛けちゃったみたいだし、少しサービスというかお詫びをしておこうかな。
そう考えた僕は何とか胸から抜け出し、ちょっぴり尖った耳元に口を寄せた。
「ナギさんを探して歩いてたら汗かいちゃいました。良かったら一緒に入ります?」
「……あらぁ♪」
その言葉を受けて、ナギさんは少し長めの舌をチロチロと出して舌なめずりをする。
僕の意図を読み取って顔の色が驚きから悦びへ変わる。
それまでの真面目な雰囲気はどこへやら、淫猥な空気を纏ったナギさんは僕を抱きかかえたまま浴室へと向かった。
夕方に僕がのぼせるまで搾り取られたのは言うまでもない。