ミナと雷とお散歩。
「はふぅ、あ、そこそこ~」
「ユーリ、凝ってるねぇ」
自室でミナにマッサージしてもらいながら、僕は脱力していた。
これで全員、僕のお嫁さんになった。
今日はミナと一緒に過ごすけど、ちょっと前まで2人で過ごしてたから普段と何も変わらない。
実質夜中以外は気を張らなくて良い、素の僕でいられる日だ。
互いに気兼ねなく話し合える熟年夫婦みたいなのに、互いに好きだと素直に言い合える初々しい恋人同士みたいでもある。
やっぱりミナは特別なんだなぁ、と思う。
「ミナ」
「なぁに?」
「好きだよ」
「にへへ、私も」
うつ伏せになっている僕の上に跨がり、そのまま倒れてきてほっぺにキスをする。
外は生憎の雨だけど、こんな風に雨音を聴きながらゆったり過ごすのも悪くは無いよね。
特に何かをやろうという気も起きない。
それはミナも同じみたいで、僕の上で半分溶けていた。
「ふみゅ~……」
「平和だなぁ」
「平和だねぇ」
「今日は1日ごろごろしちゃう?」
「うん、ごろごろしよぉ~」
端から見たら脳まで溶けてるだろ、って突っ込まれそうな会話をして寝転がる。
仰向けになったら、またミナが上に乗っかって寝転がる。
抱き締めたら幼女特有の甘い香りと柔らかな体の感触が何とも言えない気持ちよさを醸し出す。
目を閉じたらミナが唇を舐めてきた。
ぺろぺろちゅっちゅ、時々はむり。
お返しに舌を伸ばすと、嬉しそうに舌を絡めてきた。
小さな舌が僕の口内に潜り込み、かわいらしくちゅぅちゅぅと吸い上げてくる。
とぷとぷ溢れてくるよだれを飲み干して、もっともっとって催促してくる。
欲しがりさんめ。
僕は代わりにミナの舌を思いっ切り吸ってやった。
「んっ、んんぅっ♪んっんっ、んぅ、んはぁっ、あっ、あぁん♪」
かわいらしくえっちな声を上げるミナ。
すっかりとろとろになっちゃったね。
くてっ、ってなったミナを抱き締め瞼を閉じると、すぐに睡魔が襲ってきた。
「お昼寝しよっか?」
「うん、しよぉ♪」
風邪引かない様にお腹にタオルケットを掛けて準備万端。
もう一度ミナに優しくキスをして、僕は眠り始めた。
それから2時間程。
僕は雷の音で目が覚めた。
だいぶ近い。
たまらず僕は体を起こして窓にへばり付いた。
昔から雷でテンションが上がるタイプの人間なんだ。
家の付呪も、こんな事もあろうかと雷の光と音は極力通すようにしてある。
勿論、魔法による雷は全く通さない。
自然の雷をエンターテイメントにしようとした僕の計画に抜かりはないんだ。
と、背後でタオルケットがバサッと音を立てて捲れた。
ミナは僕の温もりが無くなった事で目を覚まし、ふらふらと背中に抱き付いてきた。
「あ、ゴメン。起こしちゃった?」
「どしたの、ゆーり?」
「雷だよ、ほら」
暗雲の中、幾つもの稲光が走る。
少し遅れて轟音が鳴り響き、廊下の奥から「うひゃわぁぁぁ♪」って美由里の声が聞こえる。
美由里も雷大好きっ子だからね。
正直僕もわくわくが止まらない。
「そういえばミナは雷平気?」
「うん、びっくりするけどだいじょぶ。今はユーリも一緒だもん♪」
かわいい事を言ってくれるなぁ。
僕は窓際に椅子を置いて座り、ミナを膝抱っこして雷を鑑賞する事にした。
次々に雷が発生し、2人でキャッキャと歓声を上げる。
しばらく堪能していると急に指の関節が疼くように痛み出し、肌が引っ張られるようにピリピリし出した。
「ミナ、近くに雷が落ちるよ」
「わ、何だかぴりぴりするよぉ」
そして視界が白一色に染まる。
直後、窓が音の衝撃でビリビリと激しく揺さぶられた。
近いなんてもんじゃない、すぐそこに落ちたぞ今の。
キーンとする耳はすぐ治るから放って置き、視界が慣れるのを待つ。
けど、まだピリピリは取れない。
反射的に目を瞑ろうとするけど、それよりも速く雷光が僕の目を襲った。
「目がぁ、目がぁぁぁぁぁ!」
「ユーリ、だいじょぶ!?」
特務の青二才ごっこをしていると、廊下の奥からも「目がぁ、目がぁ♪」って楽しそうな声が聞こえる。
まぁ皆には指輪の耐光属性があるから大丈夫だろう。
僕だけマジなテンションで悲鳴上げたけどさ。
するとミナが瞼に優しくキスをしながら頭を撫でてくれた。
「イタいのイタいの、とんでけ~」
「ミナぁぁぁっ」
「きゃっ、ユーリ、んっ、んむっ、ちゅ」
余りのかわいさに理性がブレイクした僕はミナを抱き締めて乱暴に唇を重ねた。
きっとミナはかわいさで僕を暗殺する為に送り込まれた刺客に間違い無い。
だってこんなにかわいいんだもの。
一頻りミナの柔らかくてふにふにな唇を堪能した僕は、外の様子を見に行く事にした。
あれだけ近くに落ちたんだから、避雷針も無いこの世界では火災も発生してるかもしれない。
いつの間にか雨は止んでたし、雷だけ落ち続けたら被害も大きくなるかもだしね。
ミナを抱っこしたまま立ち上がり廊下へ出ようとすると、腕の中のお姫様から声が上がった。
「ユーリ、歩けるから下ろしていいよ」
「あ、忘れてた。ミナがかわいいからついつい抱っこしてたよ」
「やぁん、ユーリのおバカ♪」
てぃてぃ、と肩を叩かれた。
ミナの行動全てがかわいく見える僕は果たして末期なんだろうか。
お姫様を下ろして恋人繋ぎで廊下に出る。
1階のロビーにみんなが集まっていた。
どうやら先程の雷で僕と同じように危惧したらしい。
……美由里以外は。
というか1人だけテンションおかしい。
「うひゃぁ、すごかったね雷!まだまだくるよぉ、ライトニングボルトが!」
「ミューリちゃんったら相変わらずねぇ。でも楽しそうで何よりだわぁ」
「いやいやナギ君、楽しそうで片付けて良いのか?あれだけ近くに落ちたとなると街にも被害が出ているかもしれない」
「普通は王城や教会に落ちそうなものですけどね。余程雷に好かれた人でも居るんでしょうか?」
「きっと雷神様の娘に手を出した不届き者が親バカな雷神様にヒャッハーされたんだよ!」
「あらあら、じゃあゆーくんも私達の子供には親バカになるのかしら?」
「あぁ、間違い無いだろうね。普通は夫が子供に嫉妬するんだろうが、私達の方が子供に嫉妬するかもしれないな。ユーリ君は子供に甘そうだから」
「息子ならまだしも娘だったら嫉妬しちゃいますね。ユーリさん素敵だから、絶対娘も惚れるでしょうし」
「じゃあお兄ちゃん私達と娘で自家製親子丼!?きゃぁん、流石お兄ちゃん絶倫極まりないっ♪」
「娘が孕んだら私達には孫でもゆーくんには子供になるのかしら?」
「なかなか難しい所だな、前例が無い事だから尚更判断に困る」
「じゃあ将来的には王城くらいの家に引っ越さないといけませんね。ユーリさんの子供何人産めるかなぁ……」
訂正、全員テンションがおかしかった。
てか娘まで手に掛けるとか、僕どんな鬼畜パパだよ!
打ち拉がれていると、小さな手が頭を優しく撫でてくれた。
「いいこいいこ、ユーリはそんな鬼畜パパじゃないもんね。私は解ってるよ」
「……ミナ、いっそのことどこか遠い無人島に行って、2人で静かに暮らそうか。誰にも邪魔されない所で、朝から晩まで気持ちいいコトしよう」
「ふわぁっ!?えっと、う、うん……ユーリがしたいなら、いい、よ……♪」
「ダメぇ」
「ダメよぉ」
「ダメだ」
「ダメです」
「うわぁ~ん、ミナぁ」
「にはは、よしよし」
にべもなく却下された。
やっぱり僕の心のオアシスはミナだけだ。
泣きついたフリをしながら鼻を胸に擦り付けてくんかくんか。
えっちでいい匂いがする。
癒されるなぁ。
しっかり堪能して体を離した瞬間、また視界がホワイトアウトして轟音が響く。
さっきのよりもかなり近い。
耳キーンのレベルも半端じゃなく、自分の声さえ解らなくなった。
みんなは耐性のお陰で無事みたい。
口々に何か喋ってるけど、言ってる事は全く解らないや。
と、左手がくいくい引っ張られる。
見ればミナが僕を見つめていた。
何だろう、照れるな。
へらへらしてたら、急に頭の中にミナの声が響いてきた。
『大丈夫、ユーリ?』
え、何で聞こえたんだ?
ともかく首を縦に振ると、ミナは安心したように微笑んだ。
間もなく耳が正常に戻る。
「大丈夫かい、ユーリ君?」
「ええ、なんとか。今のは近所に落ちたみたいですね」
「様子を見に行って見るかい?」
「そうですね、何かあるかも知れません」
暇つぶしのネタが、とは言わない。
なんだかんだで僕もテンション振り切ってるみたいだ。
その後僕とミナで外を見て来る事に。
今日はミナの日だから、ってみんな遠慮したみたい。
ともあれミナと手を繋いで外へ出ると、ものすごい暴風が吹き付けてきた。
傘を広げてたらちょっぴり浮きそう。
家の敷地内は付呪の効果でいつものそよ風くらいしか吹いてないから解らなかった。
思わず暴風に歓声を上げる。
「うひゃあぁ~!」
「ユーリ、耐性付呪してないから髪の毛すごい事になってるよ?」
「そのまま髪の毛全部抜けそう」
「ふさふさのユーリじゃないとヤダなぁ」
「付呪、無風状態」
あっさり術式を組んで風の干渉を遮る。
ミナが嫌な事はしません!
僕の頭に手を伸ばし髪の毛を整えてくれるミナ。
整えやすいように膝を曲げると、くりくりっとした目が同じ高さにくる。
「綺麗な目だよね」
「わ、恥ずかしいよぉ」
「もっと見たいなぁ」
「もう、ユーリにだけだからね……?」
もじもじしながら僕を見つめてくる。
辛抱堪らん。
本能のままに抱き締めて唇を吸う。
ミナはなすがまま僕に体を預けて、小さな舌を絡ませてくる。
たっぷり3分キスをしてると、背後から呆れたように声が掛かった。
「お楽しみの所悪いんだがユーリ君、まだ家の敷地から数歩も進んでいないよ?」
「あ、そうだった」
庭の木の様子を見に来たエアリィさんに突っ込まれて我に返る。
何しに外に出たのか解んないや。
エアリィさんに見送られ街を練り歩くと、道に色んな物が転がっていた。
お店の看板、泥と砂にまみれた肉や野菜、警備兵の盾、木材の破片、古ぼけた帽子等々。
いやいや、警備兵の盾は転がってちゃダメだろう。
商店街の方は全部店が閉まってた。
当然と言えば当然だけどね。
続いてギルドの方へ足を延ばす。
すれ違う人もいなくて、立っているのは僕とミナの2人だけ。
なんだかちょっと不思議な気分。
ミナも同じように感じたみたいで、顔を見合わせてくすっと笑った。
しばらく歩くと、亜人ギルドの前で何やら人だかりが出来ていたのを発見。
それも警備兵の人達だ。
「行ってみよっか」
「うんっ」
2人で駆け寄ると、警備兵の人が振り向いた。
渋い顔のおじさんだ。
「君達、ここで何をしているんだ。外は風が強くて危険だ、早く家に戻りなさい」
「何かあったんですか?」
「雷が長椅子に直撃した所為で燃え上がっていたのを今さっき鎮火した所だ。さぁさぁ、外は危ないから子供は帰りなさい」
「はぁい」
仕方無い、一度戻ろう。
そう言えばあのベンチ、シズナが日向ぼっこに使ってたなぁ。
後で修理して置こう。
ミナの手を握り締めて来た道を戻る。
風の勢いは収まってきたけど、代わりにぽつぽつと雨粒が降り始めた。
傘を持ってくるのを忘れたから、急いで帰らないと。
「ちょっと走ろうか」
「うん、転ばないようにしっかり握っててね?」
てってって、と少しだけ足を速める。
相変わらず人通りの無い道を行くと、雨足が一気に強くなった。
バケツをひっくり返したみたいに物凄い量の雨が降り注ぐ。
耐水は付いてるけど溺れるのを防ぐ為の術式だから、ミナも僕と同じようにびしょ濡れだ。
雨で肌に張り付いた髪の毛が色っぽい。
「うひゃー、すごい雨だね」
「帰ったらお風呂入らないと風邪引いちゃうね。ユーリ、一緒に入る?」
「襲っちゃうよ?」
「にへへ、ユーリならいいよぉ」
「あぁもう、かわいいなぁ」
2人でキャッキャと騒ぎながら家に戻る。
敷地内に入った途端、雨足が弱まり風も落ち着いたものに変わった。
流石は僕の付呪、まぁ何を付けたかあんまり覚えて無いけど。
玄関を開けるとナギさんがタオルを持ってきてくれて、エアリィさんがお風呂を沸かしてくれた。
流石お姉さん組は仕事が速い。
早速2人でお風呂に入った。
やっぱり日本人なら湯船に浸かるべきだ、と僕と美由里の激しい主張により既に湯船を取り付けてある。
システム周りは美由里、動力周りは僕が担当して完成させた湯船は10人くらい一緒に入れて、お湯を沸かすのは付呪したスイッチをワンタッチ。
機械音痴な人でも簡単操作が可能だ。
エアリィさんの事じゃ無いよ?
着ていた服をそのまま籠に放り込み、タオルを肩に掛けていざ出陣。
ちなみにミナの体を覆っている湯気はOVA版では無くなるそうです。
……ふぅ。
お風呂を上がってほかほかほっこり。
お風呂上がりは浴衣でしょ!と美由里の強い要望で脱衣場には浴衣が置いてある。
付呪してあるから湿気る事も無い。
多分世界一付呪を無駄に使ってるよね、ギネスに認定されないかな?
青の浴衣を着込んで帯を巻いてると、先に着替えたミナが手伝ってくれた。
器用に手早く仕上げてくれる。
「ミナが居たら、僕何も出来なくなりそうだなぁ」
「ふぇ、なんで?」
「だって、かわいいお嫁さんが身の回りの事を完璧にやってくれるからね」
「にへへ、出来なくなってもいいよ?私がユーリの事、何でもやってあげる」
「ミナにえっちな事しかしないダメ人間になっちゃうよ」
「それもいいかもぉ……ユーリの欲望、全部受け止めてあげる♪」
ダメだ、本格的にダメになる。
ミナは夫を甘やかしてダメ人間にしちゃうタイプの女の子みたいだ。
多分お金をせびれば大金を渡し、お酒を呑んだら肴を作り、お尻を触ったら喜んで腰を振るに違いない。
ある意味で悪魔みたいな女の子だ。
僕は誘惑には乗らないぞ、しっかりした大人になるんだ!
……でも、時々お尻は触らせてもらおう。
色々とダメな決意を固めて、お風呂場を後にした。
その後は夕食まで一緒に過ごした。
くっ付いてまったりしたり、どっちが相手を好きかで喧嘩してみたり、すぐ仲直りしてキスしたり、そのままごにょごにょしたり。
やっぱりミナは僕に取って特別みたい。
夜を待たずして1日の最高記録を更新しちゃったんだから。
え、何の記録かって?
それは、まぁ、アレだよ。
男なら誰もが懐に隠し持つピストルの弾数的な発射回数?
げふんげふん。
夕食後は布団の中でイチャイチャらぶらぶしながら自然と眠くなるのを待つ。
久しぶりに平和な1日だった。
以上、オチなしっ。