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美由里と家族水入らず。

色んな意味でたっぷり搾られ、今日も太陽は真っ黄色。

ナギさんのは何て言うか、すごく濃厚でねっとりと絡みつくようなアレだった。

脳髄まで搾り取られるんじゃないかってくらい気持ちよかったけど、アレを毎日やられたら間違い無く死ぬね、僕は。

ふらふらしながら朝ご飯を食べ終え、適当な術式を組んで体力や気力を回復する。

今日は美由里と1日過ごす。

思えば久し振りに2人っ切りだ。



――今日はいっぱい甘えさせてあげよう。



僕が甘える側かも知れないけどね。

変に気取らず、地球で普段着にしていた青いチェックのシャツと少し草臥れた灰色のジーパンを着て、美由里の部屋へ。

なんだかんだで美由里の部屋は家具を運んでからまだ入ってない。

ちょっぴりドキドキしながらノックをコンコン、と2回。

中から「はぁ~い」と高い声。

いつもの遣り取りに心を温かくしつつ、僕はドアを開けた。



「……わぁ~お」



家具の種類の差はあるけれど、地球の部屋と寸分の狂いも無く家具が配置された部屋。

変な所でこだわりが有るんだな美由里は。

ドアを開けたと同時に飛び付いて来るとてっきり思っていた僕は、ちょっと苦笑いしつつ美由里の姿を探して――噴いた。



「なんでこんな所にゲームが有るんだ!?」

「やたっ、スコア415キタコレ!あ、お兄ちゃんいらっしゃい」



愛しの妹は胡座をかいてゲームパッドを手に遊んでいた。

薄型モニターに映し出されているのは一世風靡したキツネが主人公のシューティングゲームだ。

ストーリーも後半のエリア6でスコア415を叩き出している。

多分難易度はノーマルだろう。

美由里は撃墜数を狙う余り操縦が荒くなる癖が有る。

難易度エクストラだと1回の接触で主翼が壊れるから、美由里は耐久性の有るノーマルしかやらない。

僕は372が限界だったのにそれを遥かに超えるとは流石、妹は格が違った。



「って、これエミュか?いや、それ以前になんでパソコンが有るんだよ!」

「まぁまぁお兄ちゃん、りんごジュースでも飲んで落ち着きなよ」

「あ、これはご丁寧にどうも」



ごくごく、ぷふー。

爽やかな甘味と喉越しが美味しい。

一息吐いてよくよく部屋を見れば、とても異世界チックな……いや、ここが異世界だから本来の姿なのかな?

パソコンと冷蔵庫、炬燵テーブルや薄型モニターに電気スタンド。

いずれも地球ではお馴染みの家具だ。



「どっから持ってきたんだよ……」

「ん、それは『この新しいオモチャで遊んであげよう』墜ちろー!」

「クリアしてからでいいよ」



白熱し始める美由里。

やれやれ、と後ろでモニターを眺める。

美由里のウリは連打力だ。

1秒間に11~14連打が可能で、この年にしては……まぁ今は僕より遥かに年上だけど、素直にすごいと思える。

2秒と掛からず敵の戦闘機が次々に墜とされていく。

すごいなぁ、と感嘆するばかりだ。

美由里はゲームの天才だと思う。

落ちものパズルもヒゲオヤジアクションも危なくなったらスタコラ逃げるシミュレーションも大得意だ。

テレビゲームに限らずトランプに花札、麻雀やチンチロも強いんだ。

勝ちと負けの回数は同じくらいだけど、勝つ時は毎回圧倒的な強さで勝つ。

大敗した僕が美由里にお菓子を買ってあげるのが、勝負した時のいつもの光景。

失ったハズのそんな日常が目の前に在る事に、ちょっぴり目頭が熱くなる。

気付けばラスボスも撃破したみたいで、エンディングが流れていた。

胡座をかいた上に抱き寄せた美由里を乗せて、後ろからむぎゅってする。



「んぅ、お兄ちゃん?」

「ちょっとこのままでいさせて」



むぎゅむぎゅと、痛くないように気を付けながら強く抱き締める。

服を通して伝わる体温がくすぐったい。

一度は失った最愛の妹。

もう手放さない、と心にしっかりと刻む。

僕の考えが伝わったのか、美由里はクスッと笑って僕に凭れ掛かった。

全身を僕に委ねてくれる。

そのまま後ろに倒れ込んで、目を閉じる。

鼻には美由里の匂いが。

肌には美由里の体温が。

胸には美由里の鼓動が。



「――美由里、大好き」

「私も、お兄ちゃん大好きだよ」



いつもと同じ台詞。

居間で自室で廊下で玄関でお風呂場で台所で布団の中で。

ふとした時に囁き合った台詞。

それをまた口にする事が出来る。

その事が、堪らなく嬉しかった。



――いけないいけない、ちょっとしんみりしちゃった。



今日は1日美由里に付き合ってあげる、って決めたんだ。

思いっ切り楽しまなくちゃね!



「美由里、今日はどうしよっか?」

「おぉ、お兄ちゃん復活した。ん~、特に何も決めて無いなぁ。取り敢えず……」

「取り敢えず?」

「まったりしよっか♪」



そう言ってくるりと身体の向きを入れ替え、僕にしがみ付く。

ぐりぐりと胸板にほっぺを擦り付けて、くんかくんかと……って嗅ぐなぁ!

ほっぺをむにっと押してやる。



「ふにゅほほぉ」

「相変わらず美由里のほっぺは柔らかくて気持ちいいなぁ」

「ぱくっ、ちゅちゅ」

「わ、指舐めたら汚いってば」

「じゃあお兄ちゃんの唇は貰った!」



宣言して上へにじり寄る美由里。

顎に髪の毛が触れてくすぐったい。

美由里は僕の顔に小さな手を添えて、唇に軽く、何度も重ね合わせる。



「ちゅっ、ちゅっ。んっ、ちゅ、んちゅ、ちゅちゅ、んっんっ」

「んっ、んむっ、ちゅっちゅっ」



唇が触れ合う度に、愛しさが込み上げる。

少し激しいけど、ここまでは兄妹間での、所謂家族愛のキスだ。

今までは兄妹だったから自分の気持ちや世間体とか色々な制約が有ったけど、ここは異世界で美由里とはもう血の繋がりが無い。

もう遠慮はしない。

でも美由里も大事にしたい。

だから僕は一度体を離して、美由里の目を正面から覗き込んだ。

艶やかな黒い瞳。

吸い込まれそうな錯覚に陥りながら、僕は口を開いた。



「美由里、僕は美由里の事を1人の女の子として愛してる」



それは決別の言葉。

もう美由里は僕の妹じゃないって、ハッキリと告げた。

これからは僕の大切な女の子になって欲しい、っていう僕の願望。

対する美由里は、にっこりと微笑む。

その顔は、やけに大人びて見えた。



「私は世界で1番、お兄ちゃんが好き。生まれた時から、私にはお兄ちゃんが世界で1番格好良い男の子に見えてたよ。私が愛するのは、お兄ちゃんだけ。何度転生しても、魂が生き続ける限りお兄ちゃんだけを愛し続けるの」



だから、と美由里は僕の唇を優しく奪う。



「私をお兄ちゃん専用の女の子にして?」

「……あぁ、勿論だよ。美由里は誰にも渡さない、僕だけの美由里だ」



もう一度唇を重ね合う。

愛しい女の子の味がした。







「……ほへぇ~」

「……ふにゅ~」



初めての恋人同士のキスを交わした後、僕と美由里は庭のベンチで日向ぼっこをしていた。

騒音は術式で届かないようにしてあるから、心行くまでまったり出来る。

エアリィさんオススメの紅茶と美由里の焼いてくれたクッキーを摘みながら、ぼんやりふにゃふにゃ。

心所か体まで溶けそうな勢いだ。

ベンチにはクッションとタオルケットが敷いてあって、長時間の日向ぼっこにも耐えられる仕様だ。

寝転がると美由里が僕の上に寝転がる。

むぎゅっと抱き締めるとむぎゅっと抱き締め返してくる。

元兄妹ならではのコンビネーションだ。

心地良い重さに思わず微睡む。



「ふぁ~あ……」

「くぁ~あ……」



似たような欠伸をする。

その事に2人でにへらぁ、とだらしない笑みを零す。



――平和だなぁ。



お日様があって、美由里がいる。

おまけに布団もある。

まさに地上の楽園だよね、とクッキーを1つ口にくわえると美由里がクッキーを横取りしようとしてきた。

クッキーを中心に、互いの舌が絡み合う。

唾液でふやふやに溶けたクッキーがいつの間にか無くなっても、僕達は舌を伸ばして愛撫していた。



「んぷっ、みゆりの舌、おいひぃよ、ちゅぷっ、ちゅっ」

「んあっ、ちゅ、もっろ吸っれぇ、わらひの舌、んっ、食べてぇ」



ちゅぅっ、と強く舌を吸うと、とろ顔のまま体をぴくんぴくんと跳ねさせる。

いやらしいなぁ、こんなにえっちな女の子だったのか。

体を火照らせほっぺを上気させたまま、美由里は僕にしがみ付いた。



「お兄ちゃぁん、だぁい好き♪」

「僕も大好きだよ、美由里」



今度は雛が餌を啄むようなキスを、何度も何度も交わす。

情欲を伴わない愛しさを表すのは難しい。

何度キスしたって、僕が美由里を好きだって気持ちの1%も伝えられないんだから。

ぽかぽかと暖かい陽気に包まれて、僕はいつしか眠っていた。

夢の中でも美由里と逢えて、なんだか嬉しくなった。





日向ぼっこを終えてすっかり日も傾いてきた頃に、僕達は散歩がてら街を練り歩いていた。

目的は美由里に贈るアクセサリー。

どんなのが似合うかなぁ、美由里かわいいからなんでも似合う気はするけどね。

あ、そうそう。

部屋にあった電化製品は全部美由里がナギさんと一緒に作ったらしい。

図面を美由里が引いてナギさんが素材調達や組立を担当。

発電機まで作ったって言うんだからもう開いた口が塞がらないよね。

パソコンのプログラムも1から作ったって言うし、ナギさんって本当に天才なんだと思う。

ゲームの内容も美由里の記憶を映像として抜き出し、それを確認しながら地道にデータ入力してオリジナルと何一つ変わらないものを作り上げたみたいだ。

竜族に伝わる術式で持ち運んでいたみたいだけど、なんだかんだでお披露目の機会が無いまま部屋に運び入れたって訳。

電灯も取り付ける前に僕が明かりの付呪やっちゃったもんなぁ。

まぁ、今度暇な時に美由里の部屋でまったりゲーム出来るしいいか。

そんな風に考えていたら、見ないでもスケッチ出来そうなくらい見慣れた看板が目に映る。



「ここがミナお姉ちゃんの髪飾りを買ったお店なの?」

「うん、そうだよ。美由里にもとっても素敵なアクセサリー選んであげるね」

「期待してるよ♪」



ドアを開けるとリリンリリンと鈴が鳴る。

地味に来店のベルが毎回違うのは何でなんだろう。

そしていつもの店員さんに軽く会釈をして適当に店内を練り歩く。

美由里は僕の手をにぎにぎしたままくっ付いている。

しばらく棚を眺めていると、イヤリングのコーナーに辿り着いた。

落ち着きのある洗練されたデザインのイヤリング。小さな花の中央に透明な宝石が埋め込まれていて、過剰な演出をしない控え目なかわいらしい雰囲気がある。



「あ、この花キンモクセイだ」

「よくご存知ですね。花言葉は『真実の愛』宝石言葉は『清純無垢』で、贈るならば『貴方へ偽りの無い愛を』となります」



目を輝かせる美由里に柔らかく微笑む店員さん。

相変わらず気配が全く無い。

内心チビりそうになりながらも、店員さんに銀貨20枚を手渡す。

恭しく礼をする店員さんに見送られて、僕達は店を後にした。

隣では美由里がにへらぁ、と惚けたように笑っている。

花言葉と宝石言葉、それに併せ言葉を聴いてからニヤニヤが止まらないみたいだ。

期待されてるなぁ、と思う。

やっぱり女の子には特別なイベントなだけに、美由里もわくわくドキドキが隠せない。

でも僕にしたら、なかなか難しい。

ずっと一緒にいた分お互いの嗜好や領分も理解しているだけに、何て言えば想いを真っ直ぐに伝えられるのか、と悩んでしまう。

変に言葉を繰るよりも素直に言った方がいいのかな?

それとも如何に僕が愛しているかを伝えるべき?

片やニヤニヤ片やうんうん。

端から見ると不審極まりない兄妹は、周りの視線に気付かないまま家路を辿る。

夕食の時も上機嫌な美由里を、他の面々は微笑ましげに、しかし頬をほんのりと染めながら見ていた。

自分の時の事を思い出しているんだろう。

斯くて夕食の場にはニヤニヤする女性5人と、それを見て若干引いている僕の姿があった。

誰か胃薬を下さい。

体に良いし優しい味付けの料理ばかりなのに、箸が進まないのは何でだろうね?





そして夕食後。

何となくそわそわする美由里を抱き締めながら、食後の休憩をしてた。

クリスマスのプレゼントを渡す時みたいなドキドキが有る。



――何をするかは解ってるけど、どうしてもドキドキしちゃうなぁ。



結局、ストレートに告白する事にした。

幾ら喋っても言葉が上滑りしそうだし、そもそも気の利いた台詞のストックが有る訳でもない。

必要なのは度胸と勇気、それと両手いっぱいの愛情だ。

それ以上の愛情だと相手も重くなっちゃうから、自分が両手に持てる分がちょうど良い。

そのまま両手で抱き締めてあげられるし。

僕は体を離すと、ポケットからあのイヤリングを取り出す。

跪いた目線を同じ高さにして、捧げるように突き出しながら言った。



「美由里、結婚しよう」

「……不束者ですが宜しくお願いします」



ぺこりと頭を下げてイヤリングを片方だけ受け取る美由里。

右耳に付けると、左耳を僕に寄せた。



「付けて♪」

「うん」



左耳にイヤリングを取り付ける。



「痛くない?」

「良い感じ」



ゆっくりと調節ネジを締めながら、柔らかい耳たぶに挟めていく。

これで、よし。

普段は子供っぽい美由里がちょっぴりお姉ちゃんに見える。



「うん、かわいいよ美由里」

「えへへ……ありがとう、お兄ちゃん。これでやっとお兄ちゃんのお嫁さんになれたんだね」

「ゴメン、待った?」

「遅いよぉ、罰として今日は私の抱き枕に任命しちゃう」

「あはは、それは大変そうだね」



恋人同士のような何気ない会話。

いつもとちょっぴり違う距離感が少しくすぐったい。

照れ隠しに抱き締めようとしたら、逆に抱き締められた。

恥ずかしいのは一緒らしい。

美由里の黒髪の匂いが鼻をくすぐる。

愛しい人の香り。

心の芯から温かくなれる、そんな匂い。



「美由里、いいかい?」

「うん、しよぉ、お兄ちゃん」



短く言葉を交わす。

それだけでお互いの愛が少し伝わったような気がする。

羽のように軽い体を抱き上げて、ベッドにぽふんと優しく下ろす。





今日、僕と美由里は兄妹から夫婦になった。


遅くなりました、ごめんなさい。


オブリビオンやら東方ちぇんぶれむやらにかまけて、小説書いてなかったですorz


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