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早朝に闇との語らい。

お腹減ったなぁ。

昨日の夕方から晩ご飯も食べずに、ひたすらシーナの中に欲望を吐き出し続けていた僕は空腹に襲われた。

シーナはとろ顔で気絶中。

全身、僕のこくまろみるくで真っ白だ。

多分僕が汚してない場所はもう無いハズ。

そのえっちな姿に満足感を覚えて、僕はアクアリングを潜った。

一瞬で全身の汚れや臭いが消え去り、清潔な僕に早変わり。

アクアリングの射角を偏向させて、ベッドごとシーナを潜らせ綺麗にしてあげる。

これでよし、と。

また今度いっぱい汚してあげるからね。

テーブルの上に置いた腕時計を見れば、時刻は朝の5時。

外は明るくなり始めたけど、みんなはまだ寝てるだろう。

パンでも焼いて食べるかな。

ぱぱっと着替えてドアを開けると、涼しい空気が首筋を撫でていく。

音を立てないようにドアを閉め、階段を降りる。



「あら、お兄さん。おはよう」



広間の長椅子に座り紅茶を楽しんでいたナギさんが僕を見て微笑む。



「おはようございます、ナギさん。朝早いんですね?」

「ううん、さっき帰って来たばっかりなのよぉ。ちょっと用事で出掛けてたから、徹夜明けね」

「へぇ、そうなんですか。あんまり無理しちゃダメですよ、寝不足は肌の天敵らしいですから」

「それはそうと、お兄さんはどうしたの?ミューリちゃんの話だとお休みの日は9時くらいまで熟睡してる、って聴いたんだけどぉ」

「ちょっと小腹が空きまして。昨日晩ご飯食べるのも忘れてましたから」

「あらあら、そうなの?お盛んねぇ、若いっていいわぁ♪」



頬に手を当て微笑むナギさん。

おしとやかな仕草とたおやかな笑みが、ぽわぽわした空間を作り出す。

いいなぁ、その顔を汚してみたいなぁ。

無理矢理組み伏せたらどんな表情をしてくれるんだろう?

暗い笑みを浮かべる僕に、ナギさんは口元に手を当て何やら思案顔。



「だいぶ、汚染されてるわね?……ちょぉっと痛いけど我慢してねぇ♪」

「はい?」

「てぇい♪」



ナギさんは穏やかに微笑むと左手を上げ人差し指で虚空に術式を描いていく。

流れるような指先に見惚れていると、足元から光が差し込む。



「うん?」



見れば僕を中心に据えて魔方陣が浮かび上がっていた。

やや遅れて全身を光の鎖で拘束される。



「いや、あの、ナギさん?僕攻めるのは好きでも受けに回るのはそこまで好きじゃ」

「そうなの?じゃあ早めに終わらせるから、ちょっと待っててね」

「一体何を……がっ!?」



ナギさんが指先を振るった瞬間、全身を引きちぎられるような激痛が走った。



「いがっ、ぎっ、うぅっ、ぐぅぅぅっ!?」



神経が焼き切れる程に痛みを訴え、脳が処理しきれず更なる激痛を呼ぶ。

痛みで思考もまともに出来ず、チカチカと明滅する視界と激痛に振り回される意識のせいで頭がおかしくなりそうだ。

涙と鼻水でぐしょぐしょになった顔を伏せる事も出来ずに、僕は胡乱な意識の端でナギさんを見ていた。



「あぎっ、ぎぃっ、がっ、がぁぁぁっ、あがっ、あぁ、ぐがぁぁぁっ!?」

「こんなに深く入り込んでるなんて、お兄さん余程美味しそうに見えたのねぇ。でもどうしようかしら、他の領域まで食い込んでるしぃ。……いいわよね、多分。えいっ♪」



一瞬痛みが抜け拘束が緩む。

強制的に吐き出され空になった肺が空気を求めて大きく息を吸い込もうとする。

瞬間、今までで一番の激痛が襲った。



「――っぁ」



僕の脳は流れ込んできた痛みの情報量に耐え切れなかったようだ。

あっさりと意識を手放し床へ倒れ込んだ所で、僕の意識は闇に包まれた。





あたたかい。

優しい何かが、僕を包んでいた。

一面に広がる闇。

それはただの暗い空間なんかじゃなく、僕が妄想――提唱している『闇』の感覚に極めて近いものだった。

何も無いけど、何かがいる。

光も空気も無いのに、僕は何不自由無くそこに存在していた。



――って事は夢なのかな、これは。



『いいえ、これは貴方の心象空間。私は其処へお邪魔させて貰っているだけなの』



思考に、答える声があった。

優しく全てを包み込んでくれるような、慈愛に満ち溢れた声。

聴いているだけで安心出来る、甘えたくなるような声。

自然と、僕は声の主を探していた。



「誰?どこにいるの?」

『貴方の前に。感じてみて、貴方の前に私が居るという事を』

「僕の前に?」



上下の感覚も解らないまま、目の前の空間に集中してみる。

意識を向ければ、確かに誰かが前に立っていた。

それを見て、ようやく自分が地に足を着いているという事を認識出来た。

途端に重力が掛かり、たたらを踏む。

よろける僕をぽむっと何かが抱き止め、支えてくれた。

お礼を言おうと顔を上げるより早く、受け止めてくれた何かは僕から体を離す。



『ごめんなさい、私は貴方の前に姿を現す事が出来ないの。私は貴方の心を写す鏡の様なもの、だから私の姿は貴方の心を掻き乱し狂わせてしまう』

「……よく解らないや。でも、うん、了解だよ」



意味は解らないけど、僕の身を案じてくれているのは理解出来た。

なら、それで充分。



「それで……貴女は?」

『私はこの世界を見守る者。多くの人は私の事を信じ、指針にしてくれているけれど、私の存在を嘘っぱちだって思ってる人も居るの。中には貴方の様に、新しい名前を付けてくれる人も居るわ』

「新しい名前?」

『えぇ。回りくどい言い方でごめんなさいね、こうした人と話すのも久しぶりだから嬉しくなってしまって。一般的には、私は神様なんて呼ばれているわ。貴方は私を闇と呼んでくれるけどね』



え、神様?

っていうか闇そのもの?

わわっ、どうしよう、美由里に自慢しようかな。

若干テンションの上がる僕に、闇はくすりと笑いを漏らす。



『普通だったら混乱して取り乱す所なのに真っ先に思い浮かぶのは妹さんの事?良いお兄さんなのね』

「それは、まぁ……あはは」

『照れなくてもいいのに』

「そ、それはそうと、何で闇……さんがここ、いや、僕の心に?」



目の前の空間が少しだけ困ったような、済まなそうな気配を放つ。



『本当は貴方がこの世界に来た時にお話したかったのだけれど、到着早々、貴方死に掛けていたから……』

「あぁ、あの荒熊で」

『初めての異世界からのお客さんだし、話す間もなく死に掛けているしで、私もすっかり混乱してしまったの。取り敢えず生命力の増加と魔力の無限抽出はしておいたのだけど、精神耐性に関しては放って置いたままだったから気になってしまって』

「え、えっと、ちょっとスタップで」



両手を前に出して話を遮り、僕は今の言葉を整理した。

生命力の増加と魔力の無限抽出?

じゃあ僕の膨大な魔力と夜中の絶倫王子は闇さんが与えてくれたもの?

まじか、と僕は舌を巻いた。

気付かない間にまたもや異世界トリップのお約束イベントをこなしていたなんて。

けどまぁ、あって困るものではないし感謝もしてる。

だからそこはスルーしておこう。

それより気になったのは精神耐性うんぬんの下り。



「僕の精神に何か異常が?」

『えぇ、以前ネザーリッチと戦闘になったでしょう』



先代か。

醜悪な顔を思い出して気分が悪くなる。

奴のせいでティス姉は――いや、あれは僕の過失か。

もっと僕がちゃんとしていれば、ティス姉を喪う事は無かったハズだ。



『貴方が悔いる事は仕方が無いのかも知れないけれど、余り自分を責めないで。それを彼女は望んでいないわ。現に、ほら』



言葉に連れられるように、暖かな光を纏った球体が僕の周囲に浮かび上がった。

それは嬉しそうに纏わり付き、僕の掌や頬に体を擦り付けてくる。



「これは……」

『貴方を慕う魂、ティスカ・ウァー・ロ』

「ティス姉の、魂?」

『砂漠の民である彼女は自ら砂漠の民の掟を破り、貴方と共に在る事を望んだ。その結果、あの逃れ得ぬ死を受ける事になったの。……話を戻すわね、貴方、ネザーリッチの攻撃を打ち払ったでしょう?』



思い返せば、確かに放たれた電撃を打ち払った気がする。

魔力を集めて目の前に展開してそのままぶつけたんだ。



『ネザーリッチの扱う魔法には須く何らかの呪いが掛けられているの。貴方は電撃を打ち払ったけれど、それが内包する呪いまでは打ち消せ無かったわ。貴方に掛けられた呪いは忠実。あの時以来、貴方の思考は感情に強く左右される様になってしまった。……心当たりは無い?』



心当たりって言われてもなぁ。

ぽりぽりと頭を掻く僕は、直前まで抱いていたシーナの事を思い出した。

欲望の赴くままに汚し、犯し尽くした。



――あの時僕はなんて言った?



僕はシーナを都合の良い性奴隷としてしか見ておらず、人としての尊厳を奪って「飼ってあげる」とまで言った。

何様のつもりだ。

好意を踏みにじり、気遣いを逆手に取り、優しさに甘えた。

好意を、気遣いを、優しさを与えてくれたシーナに、僕は何をした?

自分の穢れに吐き気が込み上げる。



『確かにそれは貴方の内に秘められた欲望の1つ。でも、囚われないで。貴方の魂は汚染から救われたのだから』

「救われた?」

『えぇ、竜族の娘がそれを為したわ。貴方に苦痛を与える、辛い役目を自ら引き受けて』

「……そっか、ナギさんが」



胸が熱くなる。

何の見返りも求めず、ただ僕の為に嫌な役目を引き受けてくれたナギさん。

僕は、何かを返せるんだろうか。

ナギさんだけじゃない、みんなに、僕は助けてもらった。

みんなの気持ちに応える為に、僕は何が出来るんだろう?



『償いになるかは解らないけれど、お願い事を聞いて貰える?』

「僕に出来る事なら、是非」

『いい返事ね。頼みというのは他でもない、その子の事』



闇さんの視線を左肩付近に感じる。

見れば、ティス姉の魂が楽しそうに寄り添っていた。



「ティス姉?」

『4日後の満月の夜、ティスカを転生させる。貴方には、転生したその子の世話を任せたいの』

「転生したティス姉の世話?」

『特殊な死に方をした所為で普通の人間と同じにはいかないから、精霊体として生まれ変わって貰うの。生まれたてでも7、8歳の容姿と知能を持つからそう手は掛からないと思うわ』



但し、と闇さんは前置きを付ける。



『転生した子をティスカ・ウァー・ロとして扱っては駄目よ。人間としての来世さえ失ったこの子が、貴方の側に居たい、唯それだけの想いで精霊体になり貴方の元へ転生したのだから。前世のティスカ・ウァー・ロとしてその子を扱う事は、転生したその子の存在を無として扱う事と同じだからね』

「……はい、解りました」

『でもそれさえ守ってくれれば、犯そうが孕ませようが自由にして良いわよ』

「ぶふっ!?」

『貴方のお嫁さんになりたくて掟破ったくらいだし、転生しても最初から攻略済みヒロインと同等よ?幼女の内から淫らに調教して成体になる頃には貴方色の愛奴隷ヒロインが完成って、光源氏シナリオ一直線じゃない♪』

「色々と間違ってる上ぶち壊しですよ!」



なんなんだこの人。

いや、闇か?

なんなんだこの闇。

一気に親しみやすくなったけど、色んなモノ失ってないだろうか。



『まぁ最初から好感度300越えで好感度一切下がらないスレイブヒロインと思えば大丈夫よ』

「闇さんの思考が既に大丈夫じゃないですよ。てかスレイブヒロインって何!?」



くすくす、と虚空が愉しげに揺れる。

ティス姉の魂は解っているのか解ってないのか、僕の胸元に擦り寄っている。



『それじゃ、そろそろお暇するわね』

「色々投げっぱなしだけど」

『良いのよ、一度で全て理解出来るなら神様なんて必要無いんだから』



ふわりと、暖かい風が頬を撫でた。



『また、逢いに来るわ』

「え、ちょ、ちょっと!」







「まっ……!?」

「きゃんっ」



顔面に柔らかいものが当たる。

ふにふにむっちり、と僕の顔を包み込むように押し返していく。

反射的に息を吸い込むと、甘く脳髄まで痺れるような良い匂いが鼻を刺激する。

と、頭の上から声が掛かった。



「そんなに勢い良く起き上がって大丈夫?もう少し寝てても良いわよぉ」



のんびりとした、柔らかな声。

こんなまったりするような声を出せるのはナギさんしかいない。

って事は、この柔らかいのはナギさんのおっぱいか。

まさにおっぱいがいっぱい。

違う、早く退かなきゃ!



「あっ、あのっ、すみませんっ、今退きむぷっ」



避けようとした所で抱き竦められた。

豊満なおっぱいに息が詰まる。

慌てて離れようとして腕が背中に触れて、気付いた。



――ナギさん、震えてる?



あのマイペースで、長閑で、笑顔を浮かべている所以外滅多に見ないナギさんが、震えていた。

何で、と戸惑いを隠せない僕の耳に飛び込んできた言葉は、謝罪。



「ごめんなさい、お兄さん。とっても痛かったでしょう?あの後ずっとお兄さん起きないから、私どうしたら良いのか解らなくなって……」



拘束を抜けて胸元から視線を上げると、ナギさんは力無く微笑んでいた。

自分が弱っている所を見せちゃいけない、って思ってる顔だ。



――ナギさんは、笑ってなきゃダメだよ。笑うなら、もっと楽しそうにしなきゃ。



僕は背中に回した手を上げて、優しくナギさんの髪を撫でてあげた。

一瞬ぴくんと体が跳ね、震えが止まった。

左手でナギさんをぎゅぅって抱き締めながら、右手は頭を撫で続ける。



「心配掛けてゴメンなさい。それと、ありがとうナギさん。僕の為にあんな嫌な事までしてくれて」

「……もう、お兄さん優し過ぎるわよぉ」

「ナギさん程じゃないよ。本当にありがとう、ナギさん」

「ほらぁ、そうやってすぐにお礼言っちゃうもの。私だって色々言いたいのに、お兄さんの言葉で胸がいっぱいになって喋れなくなっちゃうわよぉ」



どこか拗ねたようにほっぺを膨らませる。

もうその瞳に悲しみの色は無い。

これでよし、と僕は満足げに頷きながら先程の遣り取りを思い返していた。

あれは夢だったのだろうか。

それにしては、目が覚めた今でも細部まで鮮明に思い出す事が出来る。

4日後の満月の夜。

ティス姉が転生する。



――今度は守ってみせる。



決意を新たにすると、僕のお腹が盛大に鳴った。

そういやお腹空いて起きてきたんだっけ。

ナギさんはクク、と喉を鳴らして笑う。



「そろそろみんな起きてくる時間だし、ご飯にしましょうかぁ♪」

「そうですね。お腹の虫がキャンプファイヤー始めてますし、空腹でまた気絶しそうですよ」

「まぁ、お兄さんったら」



にこやかに笑うナギさんは僕の脇下と膝下に手を入れると、そのままえいっと持ち上げた。

いや、何故僕がお姫様抱っこ!?

普通僕がする側でしょ!?



「心配掛けた罰よぉ♪」

「ま、マジですか」



誰かに見られたら死ねる。

しかしそんな時にこそフラグというものは勢い良く立つらしい。

寝ぼけ眼を擦りながら、美由里が階段を降りてきた。



「おはぉー……あれ、お兄ちゃん?」

「うわぁぁぁ!?」

「どしたの、お姉ちゃん」

「お兄さん、お腹空いて動けないって言うからお姫様抱っこしてみちゃったぁ」

「なっとく~」

「そこ納得していいの!?ってか見ないでぇぇぇっ!?」



恥ずかしさマックスで悶える僕を微笑ましそうに抱きかかえるナギさんと、ニヤニヤしながら眺める美由里。

今日も賑やかな1日になりそうだ。

……無理っ、流石に今回は現実逃避も無理ですっ!

恥ずかしいから降ろしてぇぇっ!

そんな僕の魂の叫びは虚しく朝の空気に吸い込まれて消えた。

あぁ、今日もいい天気。


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