齢15でマイホーム購入。
リレジーへの到着初日。
色々有ったけど取り敢えず今日は羽を休めて、明日から家を探しに行こうと思う。
そう伝えたらみんなも異論は無いようで、各自まったりと過ごす事に。
ミナと美由里は疲れてお昼寝、シーナとエアリィさんはお買い物に出掛けた。
僕はと言うと「商人ギルドへ顔見せしておいた方が明日楽出来るわよぉ」とのんびり指摘されて、ナギさんと一緒に商人ギルドへ向かう事にした。
僕はこの前着た、蔦が絡まる金の刺繍が特徴的な黒の上下に身を包んでいる。
断じて巫女服ではない。
ナギさんはいつもの赤いローブじゃなく、胸元にある白い蝶のワンポイントが特徴的な蒼いリネンのシャツに、同じく蒼で纏めたスカートを見事に着こなしている。
明らかに背伸びした格好の僕と、貴族の令嬢のようなナギさん。
端から見たらどう見えるんだろうか。
ナギさんは「きっと初々しい若旦那と、年上の妻じゃないかしら」なんてほわほわ回答してくれた。
ナギさんが妻……でへへ。
おっと、思わずニヤけちゃった。
まぁ今の状況も、角度を変えればデートに見える訳で。
綺麗で美人のナギさんの隣を歩く僕は、ちょっぴりドキドキしながら商人ギルドへと続く道を歩いていた。
……ハッ、ここはどこ?わたしはだぁれ?
いや、後半は冗談だけどさ。
商人ギルドに入った僕は独特の雰囲気というかプレッシャーに圧されて頭が真っ白になってた。
よくテレビでやってる株取引の現場みたいな謎の焦燥感や緊張感に、すっかり呑み込まれていたんだ。
左を向いたら数人の商人が物資の搬入について調整中。
右を向いたら裕福そうな男が従者を引き連れて歓談中。
――いやいやっ、一見和やかっぽいけどなんか火花散ってるよ!?
商人にはどこも等しく戦場なんだろう。
そして僕はいつの間にかソファーに座ってて、横で柔らかな微笑みを浮かべているナギさんと如何にも百戦錬磨な狸ってイメージの商人さんが言外の闘争を繰り広げているのを、ぼーっと聴いていた。
「では此方で幾つか検討して置きますが、やはりこれだけの条件となると厳しいものがありますので」
「あらあら、商人さんがそんな弱気じゃダメよぉ?唯でさえ竜族の顧客が出来るかもって噂で貴方の評価は鰻登りなんだから。好機を逃さない強かさと計算力、それにお客に喜んでもらおうって心構えが無いと出世出来ないわぁ」
「はっはっは、これはハッキリと申されますなぁ」
「えぇ、貴方の事は少し気に入ってるからちょっとでも手助け出来ればと思って」
「いやぁ、貴女のような美人にそう言って頂けるとは、何やら勘違いしそうになります」
「ふふ、お世辞でも嬉しいわぁ」
さっきから聴いてるだけで胃が痛い。
ナギさんは最初の内こそ、わざと何も知らない令嬢を装っていたんだけど、相手が舐めて掛かってくるなり煽て賺しや自分の魅力まで武器にして商人さんを圧倒。
なんとか自分のペースに持って行こうとする度に、ほんわりぽやぽやな天然空気に出鼻を挫かれている。
ありゃ竜じゃない、毒蛇かなんかだ。
美由里が宿屋でぽつりと漏らした、竜族で一番怖いって評価は間違っていないだろう。
所謂敵に回してはいけない人種だ。
そんな事を考えて胃の痛みを和らげている内に、どうやら会談は纏まったようだ。
幾つかの書類を携えて奥に引っ込む商人さんを見送ったら、一気に疲れが出た。
ぐったりしながら手を引かれて外に出てみれば、日も傾いてすっかり夕方という時分になっていた。
「……はぁ」
「ふふ、お疲れ様ぁ」
「いやいや、僕は何もしてなかったし。ナギさんこそお疲れ様」
思わず溜め息が出た。
精神力は限りなく0に近い。
隣でクク、と喉を鳴らして笑うナギさんを見てるとちょっぴり癒された。
美人なのにかわいいってずるいよね。
そういえばナギさんは何で美由里と一緒に来たんだろう。
半ば無理矢理連れて来られたっぽいけど、事前に断ったりしなかったのかな?
それとも美由里が心配でついて来たとか。
聞いてみようかなって思ったら、ナギさんが先に口を開いた。
「それも有るけど、正解じゃないわぁ」
「へっ?」
「考えてる事、口から漏れてたわよ?」
なんというお約束な失敗。
照れくさくて頬を掻いていたら、ナギさんがまた喉を鳴らす。
「私がついて来た理由、知りたい?」
「も、勿論」
「ふふ、私ねぇ、ミューリちゃんが物心ついた時からずっと『素敵なお兄さん』の事聴かされてたのよ」
「へっ?」
「聴いてる内に私もお兄さんの事が気になっちゃってぇ、ちょっぴり逢ってみたいって思ったの」
「それはそれは……平凡でガッカリしました?」
「そんな事無いわよぉ。素敵で格好良くて優しい、理想の男性だったわぁ♪」
その言葉で一気に顔が熱くなる。
ナギさんみたいな美人さんに面と向かって素敵だの格好良いだの言われたら、誰だって胸がドキドキする。
あの商人さんよくデレデレしなかったな。
妙な所に感心しつつ、僕はナギさんから視線を逸らすので精一杯だった。
「みんなの後でもいいから、私の事もかわいがってくれると嬉しいわぁ」
「え、あ、それって」
「女性にそれを言わせちゃダメよ?」
「うぁ、あ、はい」
「ふふ、お兄さんかわいい♪」
こんな感じにからかわれつつ、ほんわかまったりしながら宿屋へ到着。
ちょっとの時間だったけど、ナギさんには絶対勝てないだろうなぁって変な確信が持てた。
部屋に戻ると、ちびっこ2人がボディアタックを仕掛けてきた。
そのまま抱きかかえてベッドにダイブ。
2人はお昼寝して充電たっぷりだけど、僕は若干眠気が襲ってきた。
「ユーリ、疲れたなら寝ててもいいよ?」
「うんうん、休んでいいよ?」
「にやにや」
「くすくす」
明らかに寝たらいたずらする気満々なちびっこ2人。
美由里はともかくミナまで一緒に悪巧みするなんて珍しい。
もう親友並みの仲良しっぷりだ。
微笑ましく感じながら、僕は2人を抱き寄せて身動きが取れないようにしつつ、うつ伏せに寝転んだ。
両腕の隙間から「ふみゅっ」とか「ひゃわっ」とかかわいい悲鳴が聞こえる。
左腕の上に顔だけ出したミナが幸せそうな目をしながら、器用に口を尖らせた。
「もう、ずるいよユーリ。こんな事されたら幸せで動けなくなっちゃうもん」
「そ~だそ~だ、お兄ちゃん横暴だぁ。こんなにお兄ちゃんの匂いでいっぱいになったら、気持ちよすぎて動けないよぉ」
「それはいい事を聴いたなぁ。今度から2人を大人しくさせる時はこうしよう」
「「やぁん♪」」
眠気でちょっとバカになりつつ受け答えする僕を、左右から抱き締めるちびっこ達。
やっぱり幼女はいいなぁ。
そんな爛れた思考を最後に、僕の意識は夢の世界に吸い込まれていった。
で、どうしてこうなった。
翌朝、僕は全身の凝りと鈍い痛みに目を覚ました。
昨日半分寝ながら晩ご飯を食べた後、同じようにミナと美由里を抱き締めて寝たのはぼんやり覚えている。
普通に考えたらベッドにはうつ伏せの僕、左腕にミナ、右腕に美由里が寝ているハズだ。
けど現実は違った。
僕達はそのままだからいい。
でも左足に体を絡めたシーナ、右足にしがみついたエアリィさんが追加されている。
いつの間に、って思ったけど百歩譲ってそれもいいだろう。
――だけどナギさん、あなたはダメです。
何がダメって、まず位置がおかしい。
うつ伏せに寝ていたハズなのに、ナギさんは僕の体の下にいる。
ちょうど頭が豊満な胸に挟まれる位置にあって、左右からぽよんぽよんな触感が幸せ過ぎる。
思わずむしゃぶりつきたくなったのは仕方ないよね、うん。
更におかしいのは、何故か下着姿な事だ。
薄いピンクのブラは面積が少なく、横から上から下からおっぱいが零れそうだ。
パジャマを通して伝わってくるナギさんの体温が気恥ずかしい。
一番おかしいのは、
「あんっ、お兄さんの大きくなってる♪」
ナギさんが起きて僕を抱き締めてる事だ。
そして息子は朝から元気です。
みんなにしがみつかれて身動きの取れない僕と違って、ある程度自由に動けるナギさん。
はい、僕間違いなく獲物です。
というか意外とむっちりしてる太腿で息子挟んじゃらめぇぇぇ!?
「ちょ、な、ナギさんっ!?」
「あらぁ、あんまり声出したらみんな起きちゃうわよぉ?」
「くっ、ちょっ、どいて下さいっ」
「い~やっ♪お兄さんの切なそうな顔、かわいいわぁ」
なんとかみんなが起き出す前にベッドから脱出する事に成功。
パンツを洗う事になった理由は聴かないで欲しい。
うう、ナギさんは淫魔だ。
幼女2人エルフ1人淫魔2人。
なかなか濃いメンバーが集まったもんだ。
どこか遠い目をしながら、僕は冷水でパンツを洗い続けた。
「ん~、ゆ~りのみるくのにおぃ……」
「うわぁっ、ミナ!?」
ミナが寝ぼけ眼で襲来した。
起きて着替えてご飯を食べて。
特にやる事も無いのでみんな連れ立って商人ギルドへ。
これから住むならみんなも見て決めた方がいいだろうしね。
ギルドの入り口には昨日の商人さんが立っていた。
心なしか昨日よりやつれた?
すっとナギさんが前に出て商人さんと言葉を交わし、候補の家まで先導してくれる。
もう後はぼーっとついて行くだけだ。
正直値段交渉とか解らないし、ナギさんに丸投げした方がいい気がする。
「お兄ちゃんの手あったかぁ~い♪」
「あはは、美由里は元気いっぱいだなぁ」
「ユーリ、どんな家なの?」
「僕もよく解んない。ナギさんにお任せ状態だからね」
「ミナ、そろそろ交代の時間よ。ユーリさんの左手ハァハァ」
「私はユーリ君の右手を……お、本当に温かいね」
一部カオスなのは仕様です。
シーナ、君は何を目指しているんだ。
方向性が全く解らないよ?
時間を決めて交代で手を繋ぐ。
ちびっこ達の小さな手もふにふにしててイイけど、シーナとエアリィさんの手もすべすべしてて手触りが抜群だ。
「お兄さん、着きましたよ」
「お?」
「「「「「おぉ~!」」」」」
思わずみんなで感嘆の声を上げる。
そこには豪邸が建っていた。
洋風建築の王道という雰囲気を持った華やかな門構え、玄関はダブルベッドでも楽々運べそうな大きさがある。
充分遊べる広さの庭は芝の管理も行き届いており、植えられた木々が優雅な空気を演出している。
走り出したミナと美由里に引き摺られ中に足を踏み入れると、天窓から差し込む光が白壁に当たり玄関と廊下を明るく照らしている。
部屋数も1階に4つ、2階に6つあり地下室まで完備だ。
1階には部屋が少ない代わりに大理石で出来た広い浴室と、10人が同時に食事出来るダイニングがある。
小市民である僕は物怖じしてしまったけど、他のみんなは歓声を上げてはしゃいでいる。
エアリィさんも耳をピクピクさせていてかわいかった。
「すごいな……」
「ふふ、その分値段も張っちゃったけど」
「幾らですか?」
「白金貨75枚よ、これでもだいぶ値切ったんだからぁ。お兄さん、後で褒めてね♪」
にこやかに笑うナギさんの後ろで、疲れたように虚ろな笑みを浮かべる商人さん。
合掌しておこう。
即金で支払い幾つかの書類にサインして、権利書を譲渡された。
これで名実ともにこの豪邸が僕のモノ……あ、なんか目眩してきた。
ギルドカードに書類を翳して情報を写しておく。
大きな取引を終えた商人さんは疲労困憊といった表情で、しかし足取りは軽やかに帰って行った。
「でもこれだけの家で白金貨75枚とは随分と凄まじい交渉をしたようだね、ナギ君」
まだ興奮で耳をピクピクさせながら、エアリィさんが笑いかける。
確かにお買い得な気がする。
っていうか僕が買える家とは思えない。
いや、即金で買ったけどさ。
家を買う、って行為自体にまだ実感が湧いてないんだと思う。
するとナギさんはクク、と喉を鳴らして答えた。
「かなり値切ったのは確かだけど、最初はここを管理する人の給金も込みで値段を提示されたのよぉ。庭師やメイドを雇う必要は無いでしょうしぃ、そこら辺も切り詰めたの」
「それじゃ、誰がここを管理するんだい?生活すれば埃も溜まるし庭の芝生も伸びてしまうよ?」
「そこは私達の旦那様の出番よぉ♪」
と、ナギさんは僕を見る。
……うえぇぇっ、僕ぅぅぅぅ!?
慌てふためく僕にナギさんはウインクしてみせる。
あ、かわいい。
「ねぇお兄さん、土地や建物に付呪ってまだ試して無いでしょう?」
「え、えぇ、え?出来るんですか?」
「勿論よぉ♪」
という訳で試した所、確かに土地や建物にも付呪は効果を示した。
庭は芝が綺麗に保たれ落ち葉や砂塵を自動的に掃除。
家の中は埃が集まり自動的にゴミ箱へ、汚れや臭いも分解されてお掃除要らず。
間違いなく全世界の主婦が殴り込みに来るレベルである。
「自分でやったけど、これはひどい」
思わず呟いちゃった。
こうして問題も解決したなと鼻歌混じりに思っていたら、部屋割り決めの段階で大論争が勃発。
誰が僕と相部屋になるかで喧嘩――まではいかないけど、火花が散る展開に。
部屋は6つあるんだからバラバラでいいんじゃって僕の案は早々に却下された。
「ユーリは私と寝るの。私はユーリのお嫁さんだもん、一緒に寝るのは当然だよ。それにユーリは私の体の虜なの」
「私が召還しなかったらお兄ちゃんに会えなかったのよ?私がお兄ちゃんと寝る権利があるわ。ミナお義姉ちゃんがストライクなら私だって抱いてくれるハズだし」
「私はユーリさんの怪我を治した、言わば恩人。私が毎日ユーリさんの健康を把握する為に一緒に寝ます。それにユーリさんの巨根を受け入れるのは私の体だけで充分でしょう」
「それなら私もユーリ君の命を救った事になるね。エルフの掟に従うならユーリ君は私の夫だ、夫婦水入らずでいいんじゃないかい?それにユーリ君は私を何度も視姦していたんだ、そろそろ貪らせてあげたい」
「あらぁ、私だってお兄さんの事を愛してるわよぉ。昨日だって一緒にデートもしたし。それに私の体がお兄さんの子を孕みたいって言ってるのよぉ」
上から順にミナ、美由里、シーナ、エアリィさん、ナギさんだ。
っていうかみんな本音というか本能だだ漏れですよ!?
……いや、誰になるにしろ迫られたら多分抱いちゃうんだろうなぁとは思う。
あぁっ、ヘタレでチキンな癖に性欲は誰よりも強い自分が憎いっ。
とはいえみんなが言い争うのを見てるのも居心地悪いし、妥協点を出してみる事にした。
「じゃあ部屋はバラバラだけど、僕の部屋に来るのは順番にしたら?」
「どういう事?」
かわいらしく、へにゃりと首を傾げるミナ。
ヤバい、抱きたい。
ごほんと咳払いをしてピンクな妄想を消し去り、説明を続ける。
「例えば月曜日はミナ、火曜日は美由里、水曜日はシーナ、木曜日はエアリィさん、金曜日はナギさん。土曜日は用事とかで一緒に寝られなかった人用の予備日にしておいて、日曜日は僕のお休み」
「でもそれだとお兄ちゃんと寝る順番で喧嘩にならない?」
「そこで毎週順番を入れ替えるんだ。さっきの例だと、月曜日のミナは次の週は金曜日に移動。代わりにナギさんが木曜日、エアリィさんが水曜日、シーナが火曜日、美由里が月曜日っていう風にしたらみんな順番に回ってくるよ」
「なるほど、お兄ちゃん頭良い!」
美由里がキラキラした目で見上げてくる。
ははは、お兄ちゃん頭は良いんだぞぅ。
「でも最初の順番はどうするの、お兄ちゃん?」
「そこはジャンケンか何かで決めてよ」
面倒くさくなって投げた。
僕の集中力なんてこんなもんだよ?
そして始まるジャンケン大会。
果たして勝つのは誰か!?
……身も蓋も無く考えると勝った順番が、多分僕がえっちする順番。
その時用のプレゼントでも買いに行こ。
白熱する5人にバレないように、僕はそっと家を後にした。
見上げれば太陽が眩しく輝いている。
「……これからしばらくは黄色い太陽を拝む事になりそうだ」
合掌。
勿論僕に。
取り敢えずこれで一旦更新は止まりです。
次の更新は29か30日の予定です。
ちなみに家は買ったけど家具はまだ揃ってません、次話で買いに行きます。
やだなぁ、自衛隊の訓練行きたくないなぁ。