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未確認生物、IMOUTO。



「なんじゃこりゃあぁぁぁ!?」



商人さんの心の叫びで、意識が戻った。

到着したタマタ村では、何かイベントというかミニシナリオが始まっているらしかった。

入り口にボロ雑巾みたいになった人達が転がってて、鋼の鎧を着込んだ兵士がそれを見張ってて、村人は壊れた家屋や瓦礫を撤去していた。

何より、入り口から見えるハズの教会がすっかり無くなったいたんだ。

慌ててミナと教会のあった方へ行ってみると、炭化した柱や崩れ落ちた屋根板を片付けているエアリィさんと、倉庫の方へ走っていくシーナがいた。

2人の無事を確認してほっと胸を撫で下ろすと、エアリィさんが僕達に気付いて手を振った。



「やぁ2人共、おかえり。随分と早い到着だね?」

「え、あ、ただいまです」

「ただいま、エアリィさん」

「うんうん、2人共元気そうでなにより。シーナ君は倉庫の方で作業しているから、早く行って顔を見せてあげるといい」

「そうですね……って違う!エアリィさん、一体何があったんですか!?」



いつも通りのほほんとしているエアリィさんに毒気を抜かれつつ、僕は子細を訊ねた。

エアリィさんは顎に手を当てかわいらしく首を捻った。



「何が、と訊かれてもイマイチ説明しにくいんだよ。まぁそろそろ帰ってくる頃だから、本人に直接訊いてみたらどうだい?」

「本人?」

「あぁ、君の「お~い、エアリィさん!」噂をすれば、だね」



どこか懐かしさを感じる声が響く。

はっと振り返ったら、村の入り口の方から赤いローブを纏った幼女がこっちに駆けて来ていた。

透き通るように白い肌、さらさらと風に揺れる肩まで伸びた艶やかな黒髪。

僕よりも深い黒を湛えたぱっちりとした瞳や蠱惑的な程に鮮やかな色合いの小さな唇等全てのパーツが一級品で揃えられており、神の作った彫刻かと見間違う程に整った美しい顔立ち。

すらりと伸びた手足は華奢で庇護欲をそそり、未成熟な体は狂おしい程に僕の心を魅了して止まない。

幼女も僕の姿を見て足を止め、信じられないような顔をした。

でも、それも一瞬。

満面の笑みを浮かべて走り出し、僕の胸元に飛び込んできた。



「お兄ちゃん!」

「美由里!?」



半年前に亡くしたハズの最愛の妹が、僕の胸の中に飛び込んできた。





シーナとも合流して倉庫を片付け円卓の周りに椅子を置き、改めて自己紹介する事になった。

ちなみにお茶は四次元麻袋から取り出した蕎麦茶、お茶請けはこれまた四次元麻袋から取り出した栗饅頭だ。



「え~、こほん。改めまして、悠里お兄ちゃんの元妹で竜族の美由里です。今の名前はミューリだけど、呼ぶ時は好きな方で呼んで下さい。よろしくお願いします」



ハキハキと立派に喋る妹の姿に感動や郷愁を覚えつつ、突っ込み所の多さに舌を巻いた。

周りを伺ってみると、みんな黙って頷いてくれた。

ミナに至っては早く早くと膝をぺちぺち叩いてくる。

よし、じゃあ早速突っ込み……もとい、数々の疑問をぶつけてみよう。



「えっと、美由里?」

「なぁに、お兄ちゃん?」

「色々訊きたいんだけど……なんで美由里がこの世界に?」



一番訊きたいのはそれだ。

ここは地球じゃない、別世界だ。

幽霊でも無ければ僕みたいに偶発的に渡って来たハズも無い。

っていうか美由里の葬儀もやったし。

遺骨も抱いて寝てたよ?



「お兄ちゃん、信じられないかもしれないけど私……転生したの!」

「転生って、え、マジで?うわぁ、兄妹揃ってテンプレな事を」

「って、あ、アレ?お兄ちゃん信じてくれるの?」

「え、だって本当なんでしょ」

「う、うん」

「なら信じるよ。僕が美由里の事を疑う訳無いじゃないか」



美由里が他人を巻き込んだり傷付けたりするような嘘を吐くハズが無いしね。

たまにちょっとした小さな嘘を言った時はお仕置きでこちょこちょの刑にしちゃうけど。

すると美由里は突然涙ぐみ始めた。

な、なんで!?



「ぐすっ、良かったぁ、お兄ちゃんに信じてもらえて」

「馬鹿だなぁ、妹の事を信じるのがお兄ちゃんの役目じゃないか。ほら、おいで」



抱き寄せて頭を撫でてあげる。

美由里はすぐに泣き止んで嬉しそうに擦り寄ってきた。

それを見て左右から呟きが漏れる。



「強敵出現です……」

「私もたまには甘えてみようかな」

「やっぱりユーリ優しい♪」



上からシーナ、エアリィさん、ミナだ。

よし、ミナには後で飴ちゃんをあげよう。

すっかり安心して子犬みたいに白い尻尾をパタパタさせ……し、尻尾?

僕の目の先で揺れる白い尻尾は、犬や猫と違って毛が生えてない。

鱗みたいのも付いてるし爬虫類系?



「み、美由里、尻尾が」

「あ、それもお話しないと」



ぱっと離れて椅子に戻る美由里。

……温もりが無くなってちょっと寂しい。



「えっと、事故の後私の魂はふよふよと次元を越えて、この世界に転生したのです!」

「おぉ~」

「転生した先はなんと人間ではなく、竜族だったの!」

「おぉ~!?」

「竜族として知識を得ていく内に私は思ったの。もう一度お兄ちゃんに会いたい!そして遂に発見したの、お兄ちゃんをこの世界に召還するマジックアイテムを!」

「おぉ~……お?」



ちょっと待つんだマイシスター。

って事は、あれ?



「僕がこの世界に来たのって、美由里が召還したから?」

「うん、そだよ」

「ワォ」



なんてこったパンナコッタ。

まさか僕のフラグを管理していたのが妹だったなんて。

あれ、さっき元妹って言ってたのは転生したからなのかな?

確かに前世では兄妹だったけど、今世では血の繋がりは……ってか種族すら違う!?

妹が元妹で竜族で僕の召還者?

それなんてラノベ?



「ちなみに私200年以上生きてるよ」



まさかの合法ロリキターーー!

ってふざけてる場合じゃない。

200年以上も僕の事を想って、こうやって逢える日を待っていてくれたんだ。

なんて健気なんだろう。

僕は美由里を抱き寄せて、優しく髪の毛を梳いてあげた。



「ひゃ、お兄ちゃん?」

「ゴメンね、200年以上も待たせちゃって。待たせた分、いっぱい美由里のわがままを聞いてあげるね」

「……ふぇ」

「ほら、美由里のお兄ちゃんだよ~。好きなだけ甘えていいんだよ~?」

「……ふぇぇん、おにいちゃぁ~ん」



幼子のように声を上げて泣く美由里を、優しく抱き締める。

兄妹揃って泣き虫だなぁ、ってなんだかちょっぴり微笑ましくなった。

僕をあやすミナもこんな風に暖かい気持ちになったのかな?

しばらくむぎゅむぎゅしていると、なんか気配が変わった気がした。

時折鼻をすすり上げるだけで特に変な事は無いような?



「くすん、くすん」



無いような……?



「すんすん、くんかくんかすーはーすーはー」

「って嗅ぐなぁ!」

「やんっ♪」

「わぁ、嗅ぎ方がユーリと一緒だぁ」



立ち直った様子で身を捩る美由里。

くねくね動くのはかわいいけど、はしたないから嗅いじゃダメです。

それと、ミナは変な事言わないように。

後でシーナに怒られちゃ……あぁっ、シーナがまた感情の読めない濁った目で僕を見てるぅ!?



「ミューリちゃん、お待たせ~♪」

「あ、お姉ちゃん」



倉庫の扉を開けて新たな人物が姿を見せた。

背が高くて足が長い典型的なモデル体型とでもいうのか、スラッとした印象を受ける。

だが胸では母性愛を体現したかのような慈愛の詰まった巨乳が、ゆっさゆっさと揺れ動いていた。

あれはFはある、絶対にある。

切れ長で睫毛の長い深紅の瞳と、腰まで伸びる長い緑銀の髪の毛を後ろで結わえてあり、巫女服を着れば間違いなく神社に行列が出来る程の妖艶で神々しい雰囲気がある。

きりりと引き締まった唇も魅惑的で思わず吸い付きたくなるような魅力に溢れている。

このように一見すると美術品のように上品な空気を感じちゃうけれど、お姉さんが醸し出すほんわかふにふにした雰囲気が、それを良い方向にぶち壊している。

お姉さんが着てる赤いローブも雰囲気に似合ってて美しい……あれ、美由里とお揃い?

じゃあこのお姉さんも竜族の方?

と、僕の不躾な視線に気付いたのか頬を微かに染めて、たおやかに腰を折った。



「あらあら、お話の途中でごめんなさい。お邪魔だったかしら」

「いっ、いえいえっ!良かったらどうぞ、お茶菓子もありますから!」

「いいんですか?ありがとうございます、お兄さん」



ふわりと花が咲いたような笑みを浮かべるお姉さん。

仕草1つ1つがかわいらしくて、さっきから胸がキュンキュンしちゃう。

だらしなくでへへと笑っていたら、背後から女性陣のジト目が刺さっているのに気付いた。

ミナまで呆れたように僕を見ていた。

あぁっ、ゴメンなさいっ、謝るから僕を見捨てないで!



「もう、お姉ちゃんったらすぐお兄ちゃんを誘惑するんだから」

「だって~、お兄さんカッコいいんだものぉ。流石ミューリちゃんのお兄さんよねぇ♪」

「でしょ~、えへへ」



2人はだいぶ仲が良いみたい。

そういえばお姉ちゃん、って呼んでたね。

転生先の家族なのかな?

そんな僕の疑問を感じ取ってか、お姉さんは微笑みながら自己紹介を始めた。



「初めまして、竜族の2番札のワナギューテ・フォン・テティクラドと申します。気軽にナギって呼んで下さいねぇ♪」



ぽわぽわした空間が出来上がった。

きっとお姉さん……ナギさんの全身からマイナスイオンが出ているに違いない。

存分に癒されていると美由里が補足を入れた。



「私達竜族では力が強かったり頭が良かったりする人に、割札っていうのが支給されるの。割札を持ってる人は一族の会議に出たり学校で教師になったり出来るんだよ。2番札を持ってるお姉ちゃんは長老の次に偉いんだよ」

「へぇ、ナギさんすごいんですね」

「やぁん、お兄さんにそんな事言われたら照れちゃう」



手を合わせて肩の辺りに持ち上げ、やんやんと身を捩るナギさん。

なんだろうこのかわいい未確認生命体。

あ、竜族か。

取り敢えず互いに自己紹介を終えて、タマタ村の現状を聞くことにした。

こほん、と咳をして場を取り仕切るのはエアリィさん。

こういう時は頼りになるなぁ。



「ユーリ君が出発してすぐに、首都から騎士団の方々が来てね。先の山賊の襲撃に関しての事後処理と生活支援で立ち寄ってくれたんだが、上手く逃げ仰せた残党が50人近い荒くれ者を連れて復讐にやってきたんだ」

「50人!?」

「エアリィさん、村のみんなはだいじょぶだったの?」

「あぁ、慌てて転んだ子が1人いたくらいで怪我人は皆無だったよ」



チラッと横目を向けるエアリィさん。

……なるほど、転んだのはシーナだな。

ドジっ娘さんめ。



「騎士団の方々も撃退に参加してくれたがやはり多勢に無勢。突破されてしまうと誰もが思った時、突然森の中から1体の白く輝く竜が現れて言ったんだ。『どっちが悪者?』ってね。皆呆気に取られていたんだが、なんとか意識を取り戻した私が山賊達を指差して『あいつらだ!』って叫んだのさ。そこからはもうミューリ君の独壇場でね、山賊相手に尻尾で薙払うわブレスで焼き払うわ。結果山賊相手に敵味方1人の死者も出さずに見事撃退した訳さ。残念ながら幾つかの家屋やこの教会なんかは、山賊の放った火矢で焼失してしまったけどね」



話を聞いて村の入り口に転がっていたボロ雑巾が頭に浮かんだ。

自業自得だな。

取り敢えず僕は美由里を抱き寄せて体に怪我が無いか確認する。



「ひゃぁっ、お、お兄ちゃん?」

「ん~、指先に傷は……無し、と。大丈夫?足とか擦りむいたりしてない?」

「う、うん、大丈夫……あっ、一応足とかお腹とか触って確かめてもいいよ?むしろ触って、さぁ!」



若干美由里のテンションが怪しいけど、ローブをはだけて綺麗な足を空気に晒した。

美由里は濃紺のスパッツを履いていた。

いつも元気な美由里らしい、活動的なファッションだね。

ぷりんとしたお尻やシュッとした生足にちょっぴりドキドキしながら、陶磁器みたいに綺麗な足を調べていく。

時々「あんっ」とか「ひゃぅん」とか声を上げる。

くすぐったいだろうけど、我慢してね。

傷1つ無い綺麗な肌のままだった事を確認して、美由里を解放した。

余程くすぐったかったのか、少し息が荒くなってた。

うん、そんな顔もかわいいぞ妹よ。

と、テーブルの下から僕の膝をぺちぺち叩く小さな手が。

見るとミナが軽く顔を赤らめていた。



「後で私にもして」

「うん?いいけど」



くてっ、ってなってる美由里は置いといて話を進める。

やっぱり最大の悩みは、これからどこで寝るか、だった。

教会は全焼、エアリィさんの家も倒壊。

美由里やナギさんのいた竜族の里は別の大陸にあるらしい。

さて、どうしようか。

みんなで頭を悩ませていたら、不意にミナが顔を上げてエアリィさんに聞いた。



「ねぇねぇ、エアリィさん。お家って買うのに幾らくらいするの?」

「家かい?1から建てるのはそれこそ目が飛び出るような金額だろうね。空き家を買うにしても、街中なら白金貨20枚、もし首都で買ったら白金貨40枚は下らないんじゃないかな」



それを聞いたミナは僕に向き直ってぱっと笑顔を見せた。

普段ならうなだれる金額だけど、今の僕なら手が出せる範囲だ。

頷きを返すと、ミナは僕の膝の上に乗って甘えるように声を出した。



「ねぇねぇユーリぃ、お願いがあるの」

「何かな、ミナ?」

「私、首都に家欲しいなぁ~。ダメ?」

「はっはっは、よぉ~し、首都で家買っちゃうか!」

「やぁん、ユーリ太っ腹♪」



僕達のやり取りをぽかんとした顔で見つめるみんな。

やだなぁ、あんまり見られたら恥ずかしいよっ。

いち早く意識を取り戻したエアリィさんが慌てて手を振る。



「いっ、いやいやっ、ユーリ君白金貨って言うのは普通に働いても貯めるのに50年掛かる金額なんだよ。一部の商人や凄腕の冒険者じゃないと見る機会さえ無いものなんだよ?」

「にゅっふっふっふっふ、そにぇがそうでもにゃいんですな、エアリィにゃん」



怪しげな笑いが漏れる。

いや、ミナにほっぺむにむにされてたからなんだけどさ。

僕は四次元麻袋から財布代わりのサックを取り出して、その中身をテーブルの上に広げてみせた。

エアリィさんは驚愕に目を見開き、シーナは目の前の光景に失神し、美由里はどういう事が解らずぽかんと口を開け、ナギさんは口に手を当てあらあらとびっくりしている。

唯一ミナだけが僕と同じように笑みを浮かべていた。



「ニヤニヤ」

「にやにや♪」

「ニャンニャン」

「にゃーにゃー♪」



おっと、いつの間にかミナと猫ごっこしてたよ。

猫ミナもかわいいなぁ。

またもや最初に復活したエアリィさんが、テーブルに散乱する白金貨をぷるぷる震えながら指差して尋ねた。



「ゆ、ユーリ君、これは」

「白金貨78枚、金貨27枚。僕が冒険者ギルドで稼いだお金です!」

「わ~どんどんぱふぱふ~♪」



膝の上で拍手しながら効果音を担当してくれるミナが微笑ましい。

でもミナ、みんながいるから今は我慢だ。

その魅力的なお尻をやわやわと擦り付けちゃダメっ、あっ、僕の息子がドントストップミーナウ!?





現実世界へ帰ってきたみんなと話し合って、首都リレジーへ向かう事にした。

シーナもエアリィさんも家が無くなっちゃったし、そもそも美由里とナギさんは寝泊まりする場所とかは何も考えずに出て来たらしい。

正確には準備する間もなく美由里に連れてこられたみたいだけどね。

大事な物とかは前々からこの倉庫に保管してあったみたいで、持ってく物を選別する事にした。

そしてその作業中。



「ねぇねぇミューリちゃん、そっちの端っこ持ってくれる?」

「うん、いいよミナお姉ちゃん。せーのっ」

「よいしょ、よいしょ……うぅ~」



腕がぷるぷる震えてるミナの後ろから、衣装収納箱を支えてあげる。



「ほら、僕が持ってあげるから無理しないで」

「あ、ユーリありがとう♪」

「いいのいいの、ミナに無理はさせられないしね」

「お兄ちゃん優しいね、さっすが私のお兄ちゃん!」

「ははっ、ありがとう。美由里も知らない間に力持ちになったね、僕より強いんじゃない?」

「えへへ、でもお兄ちゃんの方が格好良くて優しいから、お兄ちゃんが最強なんだよ?」

「そうなの?」

「うん、最強。ね~、ミナお姉ちゃん」

「うんうん、さいきょ~。ね~、ミューリちゃん」



小さい組は微笑ましさが半端じゃない。

10歳にしてはかなり小さい部類に入るミナだけど、美由里と並ぶとちょっぴりお姉さんなんだなって解る。

美由里は不思議な事に、外見は半年前の8歳のままだ。

竜族は長命だから体の成長も遅いらしいけど、別れた時の姿でまた再会出来たなんて、運命的でロマンチックだ。

美由里が当時のままの体なら身長は127cm、ミナはプラス3cmで130cmって所かな。

思わず生唾を飲み込む。

130cmしかない幼気な女の子が、夜に僕の上に跨がってアヘ顔やとろ顔で腰を振ってたのか。

ちょっと息子が元気になった。

お盛んですわね。



「あ、お兄ちゃんちょっとえっちな顔になってる!」

「ホントだ、ユーリのきちくぅ♪」



2人でキャッキャとからかってくる。

年も近いせいかすぐに仲良くなれたみたいでお兄ちゃん安心。

いたずら好きの妖精みたいにはしゃぐ2人に怪我しないよう注意して、僕は2階へと向かった。





階段を上っていくと、シーナとエアリィさんが盛んに議論を交わしていた。



「だからっ、そんな派手な下着なんて却下です!そんな、え、えっちすぎです!」

「いやいやシーナ君、彼にはこれくらい刺激的なのじゃないとダメだと思うよ?なにせ帰ってきたはいいが、私のお色気むんむんな服にも興味を示さずミナ君ばかり眺めていたのだからね」



そういえばエアリィさん、随分とえろかわな服着てたなぁ。

いつものワンピースでもグリンサーコートでもなく、燕尾服を軍隊仕様にしたようなジャケットを、胸のボタン1つだけ留めて惜しみなく横乳を僕に見せていた。

下に履いたスラックスもエアリィさんの細い足を存分に引き立てていて、頬ずりしたくなる雰囲気を醸し出してた。

うん、思い出しただけでたまらんです。

気分は凄腕エージェント!な服だったけどあれどこで買ったんだろう。



「た、確かにユーリさんは私の卸したての服を見ても上の空でしたけど!」



あぁ、そういえばシーナも普段とは違った服を着てたなぁ。

上は緑を基調としたリネンのチュニック、下は薄いピンクのリボンがあしらわれたレースのスカート。

町娘に扮してお城から抜け出したお姫様みたいな、どこか上品で清楚な服装だ。

普段はおしとやかな見た目なのに、いざ発情すると誰よりもえろえろ……ごくり。

って遊んでる場合じゃないか、どうしよ?

階段を上がりきった所で、僕はやる事も無く立ち呆けていた。

いやね、シーナとエアリィさんが下着の話してたし、まぁ間違いなくそこには女性ものの下着が散乱、もしくは整頓されて置いてある訳ですよ。

多分エアリィさんも服とか下着とか一時的にここへ持ってきてるだろうし、もしかしたら2人は下着姿なのかもしれない。

そんな所に男の僕が乗り込んだら2人共恥ずかしいだろうし、何より僕のほっぺに紅葉が映える。



「あらぁ、お兄さんこんな所でどうしたの?」



後ろから声が掛かり、部屋の中からガタガタと慌てふためく効果音が聞こえる。

振り向くと、3段下で立ち止まり僕を見上げるナギさんの姿が。



「あ、ちょっと勢い良く階段登ったら貧血になりまして」

「うふふ、危ないから気を付けなくちゃダメよぉ?」



見え見えの僕の嘘に笑顔で乗ってくれる。

ミナや美由里の笑顔が眩しい太陽なら、ナギさんの笑顔はさしずめ柔らかく地上を照らす月だね。

ナギさんは僕の横をすり抜けると、部屋の中の2人に言った。



「2人共、はしゃぐのはかわいくていいけどお兄さんを困らせちゃダメよぉ?」

「うぐっ、ごめんなさい」

「し、しかしナギ君、私達だってミナ君みたいにかわいがって欲しいんだ。その為にはユーリ君が発情して獣のように襲いかかってくるような下着を選ばないと」

「エアリィちゃん、まだそこでお兄さん待ってるんだけどぉ……」

「はぅあ!?」



盛大に自爆するエアリィさん。

というかエアリィさんは誰にでも君付けなんだ。

長命なエルフの淑女がナギさんにちゃん付けされるのもなかなか面白いけどね。

まぁ、手伝えるような事は無いかな?

ナギさんに声を掛けて、1階に戻る事にした。





1階に戻ると、美由里が駆け寄ってきた。

美由里は興奮した様子で僕に尋ねる。



「ねぇねぇお兄ちゃんっ、ミナお義姉ちゃんにプロポーズしたって本当!?」



とんでもない爆弾を投下された。

2階から物が吹き飛んだり窓が壊れたりするような音が聞こえる。

妹よ、いきなりボンバーマンをやるなんてお兄ちゃん聞いてないぞ。

ミナは顔を赤くしてもじもじしている。

うん、かわいい……ハッ、騙されませんよお嬢さん!

何を暴露しちゃったの!?

っていうか美由里がミナを呼ぶ時に混ざった、ノイズみたいな感覚は何だろう?

お姉ちゃんの発音っていうかニュアンスに違和感があるような。

まぁ、いっか。

今はそれよりもこの色恋沙汰に興味津々な妹さんの対処を考えないと。

美由里はもういてもたってもいられない様子でパタパタと両手を振っている。



「ま、まぁ取り敢えず落ち着いて」

「これが落ち着いていられますかっ!やっぱり指輪渡して『君の全てが欲しい』とか言っちゃったの!?ミナお義姉ちゃんの指にはめられてるのって、件の指輪!?」

「いや、渡したのは髪飾りで」

「やぁん、髪飾りなんてオシャレさん!流石お兄ちゃんは格が違った!でもミナお義姉ちゃんに先越されちゃったなぁ……うぅ~、せっかく転生してお兄ちゃんのお嫁さんになろうと思ってたのにぃ。仕方がない、お嫁さん2号の座は私がもらうからね!」



ズビシィッ、と右手の人差し指を僕に向ける。

でも人に指を向けてはいけませんって昔から言ってるのに。

思い出したのか、すぐに両手を背中に隠して上目遣いに僕を窺う。

ニコッと笑いかけると、美由里もにへらって笑い返す。



「はい、アウト」

「やぁぁっ、お兄ちゃん許して~!」

「ぶっぶ~、ダメです。美由里の大好きなお仕置きタイム~」



逃げ出そうとする小さな体をひょいと持ち上げて椅子に座り、後ろから膝抱っこして固定する。

ふっふっふ、久しぶりのお仕置きでお兄ちゃんワクワクしちゃうなぁ。

……決してプロポーズの話題から逃れようとしてのお仕置きじゃないんだからね!勘違いしないでよっ。

じたばた暴れる体をぎゅっと抑えつけて、僕はその未成熟な体に手を這わせた。



「ぷっ、あははははっ、ひゃふっ、ははははっ、や、やらっ、あははははっ」

「ほ~ら、こちょこちょ~」

「あははっ、はははっ、だ、ダメぇ、うひひひひはは、ぷくく、くひひひっ」



くすぐりの刑だ。

舐めてはいけない、どっかの国では刑罰として取り入れられているんだ。

爪を剥いでも指を折っても口を割らなかったスパイをくすぐりの刑に処したら10分も持たずに首謀者の名前を白状した、って逸話があるくらい耐えるのが難しい。

まぁ僕は優しいからすぐに解放するけど。

たっぷり30秒くすぐったら、美由里は息も絶え絶えになってぐったりしてた。

くすぐった後の美由里は笑いが引かなくて口の端を上げたままよだれを垂らしている。

……なんかムラムラしてきた。

膝の上で体を痙攣させて悦びをうかべる妹……なんだろう、この背徳感。



「うわぁ、ユーリきちくぅ」

「ミナもしてあげようか?」

「ほわぁっ!?え、えんりょするっ」



ありゃ、逃げられた。

まぁ夜中に似たような事はするけどね!

順調に脳が毒されてきた僕だった。



……後でシーナとエアリィさんにものすごい剣幕で問い詰められたのは言うまでもない。

流石にごまかしきれませんでしたっ。


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