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いざ行かん、冒険者ギルド。

どうも、最近息子に精神を奪われがちな片桐悠里です。

昨日は本当に色んな意味で危なかった。

僕にべったりなミナを見て商人さんには冷やかされるし、煽られたミナが迫ってきてピンクで気まずい雰囲気になるし、馬車の中で何回かミナを押し倒しそうになるし。

いやぁ、流石に我慢したよ。

どうせなら気兼ねなく2人っきりの空間でミナの初めてをもらってあげたい……って、また思考が息子に奪われてる!?

こほん、まぁそんな事はあったけど特に事件も無く1日目は終了した。

いや、ミナがいた事が事件っちゃ事件だけどね。

聴いてみたら、僕と離れたくない一心でついて来ちゃった、って事らしい。

止めても聞かないだろうって判断したエアリィさんにこっそり手回ししてもらって、ローブとか護身用のナイフとか用意してもらったみたい。

でもシーナには内緒だったみたいで、帰ったらげんこつが確定。

家族に心配掛けちゃダメだよって、叱ったらミナは案外あっさりと聞き入れてくれた。

やっぱり妹を叱る時にも使った「めっ」が効いたのかな?

取り敢えずお仕置きという事で、ミナには僕が担当する夕飯作りの手伝いを任命した。

夕食の時に僕が作った豚汁はなかなかに好評だった。

商人さん達はこれを商品展開出来ないかって考えてたし、護衛の傭兵さん達は競うようにおかわりしてくれた。

僕とミナは少し離れた所で互いに食べさせあってた。

端から見たらただのバカップルだったんじゃないだろうか。



そして2日目の朝、珍しくミナよりも早く起きた僕はのんびりと外の景色を眺めていた。

僕の住んでた所じゃなかなか見られない、緑豊かな自然。

やっぱり空気が美味しいなぁ、排気ガスも無いし車の騒音も無いし。

ぼんやりしてたら前髪が鼻先に降りてきていた。

そういえば床屋で髪切ってもらったの2か月も前か、そりゃ伸びるよね。



「……うっとおしいなぁ」



ぽつりと口に出る。

おでこや鼻に髪の毛が掛かると、チカチカ痛痒くなるから嫌なんだよなぁ。

帰ったらシーナにお願いしようかな?

あ、でもそれまでチカチカに耐えなきゃいけないのか。

うっとおしい部分だけ先に切って、後でシーナに整えてもらおっと。

麻袋からはさみを取り出す。

出て来たのは何故か工作用のはさみだったけど、まぁ切れるからいいかって気にせず髪の毛を切る。

うん、まぁこんなもんかな?

手鏡で変な髪型になってないのを確認してはさみをしまう。

あ、どうせなら髪の毛も自動で処理した方がいいよね。

なんだかんだで慣れてきた僕は魔法の新しい使い方を試してみる事にした。

ずばり、魔法付呪!

大層なネーミングだけど、早い話が髪の毛にファイヤーの魔法をエンチャントして燃やそうって事だ。

エンチャント出来るなら案外いい儲け話になりそうだし。

でも髪の毛って燃えると異臭するんだよねぇ、どうしようか?

そこまで考えた時、昨日護衛のお姉さんが言っていた事を思い出した。

この辺には人を襲う狼が出るらしい。

その狼に髪の毛をくっつけて撃退したらどうだろう。

襲われる人もいなくなるし、狼には悪いけどこれも僕の好奇心の為、ちょっと熱いかもしれないけど我慢してもらおう。

早速髪の毛にファイヤーの魔法を宿す。

イメージは髪の毛に対象が接触したらスイッチが入って魔法が発動するピタゴラ風味。

ついでに狼を狙って追尾する魔法も付呪しておこう。

なんて名前がいいかな?

ストーカーだと犯罪チックだし、もっとナウイ名前を付けたい。



「……チェイサー」



おぉ、これだ!

僕の好きなアニメの主題歌から取ってみたら意外としっくりきた。

早速付呪して馬車の覗き窓から髪の毛をばらまくと、風に乗って森の奥へ飛んでいった。

微かに犬の鳴き声みたいなのが聞こえてきたのにはびっくりしたね。

まさか囲まれてた?

怖い怖い、って身震いしてるとミナが目を擦りながらもぞもぞ動き出した。



「ゆーりぃ……?」

「おはよう、ミナ」

「ゆーりだぁ♪ゆーりぃ、おはようのちゅぅ、しよぉ?」



寝ぼけ眼で僕に抱き付きキスをねだる小さなお姫様。

朝っぱらから余りのかわいさにお兄さん大爆発しそうです。

というか、やっぱり昨日1日で僕とミナの距離が縮まった気がする。

主にえっちな方向に。





外に出て顔を洗っていると、いい匂いがしてきた。

釣られて行ってみるとおじさんがコーンスープを温めていた。

ジャガイモやとうもろこし、カボチャなんかはこっちの世界でもポピュラーな食材で、特にとうもろこしは地球のよりずっと甘くて美味しい。

しかもとうもろこしは僕の好物。

口いっぱいによだれを溜めていたらおじさんに「待て、お座り」って言われた。

犬じゃないやい!って思ったけど体は反射的にお座りのポーズを取ってた。

妹とやっていたわんわんごっこの影響がこんな所にも!

おじさんはまさか僕が本当にお座りするとは思わなかったらしく爆笑してた。

むくれていたらコーンスープをちょっぴり多くよそってもらった。

ラッキー。

まぁミナに見られなかったのは不幸中の幸いだったかな?

見られたら恥ずかしいし。

朝食の後は再び馬車に揺られる時間。

狼が来るかな~ってドキドキしてたけど、どうやらさっきので逃げ出したみたいで、ちょっと安心。

しばらくミナとイチャイチャらぶらぶしていると、前の方からおじさんの声が飛んできた。



「兄ちゃん、街が見えてきたぞ!」



おじさんの声に弾かれるように2人で身を乗り出して前方を見ると、活気溢れる街並みが広がっていた。

街の真ん中にそびえ立つ、一際高い真っ白な建物が見える。

あれが教会だろう。

この大陸では宗教がある程度の力を持っていて、一定の水準の教育は教会が行っている。

基本的に無料で教育や治療が受けられる為、貴族に受けは良くないけど民衆からの評判は上々。

だから民意を掴んでおく為に教会に何らかの形で支援せざるを得ないけど、元々教会に野心は無く政治や権力に色を見せないから取り入りにくく、まぁ取り敢えず民衆の人気取りに仲良くしておくかってスタンスの貴族が多いらしい。

以上、エアリィさんからの受け売りっ。

僕だって偶には勉強するんだ。

まぁ、今は初めて見る異世界の街にテンション上がっちゃってるけどね。



「おぉ~、すごいや」

「おぉ~、すごいね」



同じ反応をしてしまい、顔を合わせてクスクス笑っているとおじさんに怒られた。



「夫婦揃ってバカやってないで降りる準備しておけよ!」

「「はぁ~い」」





商隊の皆さんに別れを告げて中央広場まで歩いてきたけど、目に映るもの全てが珍しくてぽかんとしちゃってた。

ミナも同じようでしきりにきょろきょろと視線をさまよわせている。

取り敢えず宿を探しに行く事にした。

ミナがいるからそれなりにいい宿じゃないといけないかな。

手を差し出すと、少し照れたように笑って僕の手をキュッと握るミナ。

ミナかわいいよミナ、ってのほほんとしつつ広場の案内板に目を通していると、活発そうな男の子が近付いてきた。



「兄ちゃん、何か探してるのか?」

「宿屋を探してるんだけど……この街は初めてだから、どこがいいか解らないんだ。そこまで高級じゃなくてもいいから、安心安全なご飯の美味しい宿屋ってあるかな?」

「それならうってつけのがあるぜ!」

「それじゃあ案内してもらおうかな?」



男の子の手に銅貨5枚を握らせると、男の子は目を見開いた。



「ちょっ、兄ちゃんバカか!?」

「いきなり失敬な!?」

「いや、だって普通銅貨1枚くれりゃいい方だぜ?5枚なんて頭の緩いボンボンが気まぐれでバラまく時くらいしか見た事ねぇや」

「いいの、これからいっぱい稼ぐ予定だし。それに後ろの子、妹さんじゃないの?」



僕の視線の先、男の子と同じ赤茶色の髪の毛をツインテールに纏めた女の子がこちらを伺っている。

手を振ったらちょっと驚いたみたいだけど、小さく手を振り返してくれた。



「偽善なのは解ってるけど、僕のいい気分を演出する為にもらっておいてよ。甘いお菓子でも買ってあげたら喜ぶんじゃない?」

「……変わった奴だな。でも、兄ちゃんバカだけどいい奴だ」



ニカッと笑って銅貨を受け取る男の子。

うん、いい笑顔だ。

ロリとショタには優しく親身に、それが異世界トリップでは大きな意味を持つハズ。

ちょっとした打算も含めて、逞しく生きて行かないとね!

先導する兄妹について行くと、脇腹の肉を摘まれた。

見るとミナがちょっとむくれた顔で僕を見上げていた。



「まったく、ユーリはすぐ小さい女の子の前でカッコつけたがるんだから」

「いたた、ミナ、痛いよ」

「ユーリのうわきものぉ」



クスクスと笑いながら僕の肉を摘むミナ。

くそぅ、早くも尻に敷かれ気味だ。

そうそう、路銀はシーナに借金してきたんだ。

お金稼いでくるって言ったのに、稼ぐ為のお金を借金するとか若干のヒモ臭がするけどね。

でも大丈夫、絶対にお金稼いで借金を返して、ついでにシーナにお土産までプレゼントしちゃうもんね!

そしたらシーナもちょっぴりデレたりしちゃうかも。

エアリィさんには髪飾りとか似合いそうだなぁ、プレゼントしたら毎日付けてくれたりして。

でへへ、ってほんの少しニヤけたら脇腹の痛みが鋭くなった。



「いだだだっ!?」

「もう、ユーリのおバカ!……やっぱり胸大きくないとダメなのかなぁ」



小さな呟きも聞こえたけど、僕は声を大にして言いたい。

ちっぱいも大好物です!

僕とミナのやり取りを見ていた男の子が頭に?を浮かべて言った。



「兄ちゃんとその子ってどんな関係なんだ?兄妹にしては似てないし」

「そうだなぁ、多分「夫婦だよ!」……だそうですよ?」

「疑問形で答えるなよ!ってか兄ちゃん尻に敷かれてるなぁ」

「薄々気付いてたよ、それは」

「っと、着いたぜ兄ちゃん」



足を止めるとなかなかに立派な門構えの宿屋があった。

大きな看板には……見た事も無い文字。

なんて読むのか見当も付かない。



「ちょっぴり値は張るけど安宿とは比べ物にならないくらい清潔だし料理も旨いぜ」

「道案内ありがとう。そうだ、冒険者ギルドってどこ?」

「それならこの道を真っ直ぐに行って広い通りを左に曲がったらすぐだぜ」

「そっか。ほい、お駄賃」

「……いや、もうどうでもいいか」



追加で銅貨5枚を渡した僕を呆れた顔で見上げた男の子。

なんだか諦めたように溜め息を吐いて、来た道を戻って行った。

去り際に両手をぶんぶん振ってバイバイしてくれた女の子に癒やされつつ、僕とミナは宿屋に足を踏み入れた。

内装は落ち着いた雰囲気で、派手さはないけど華やかな印象。

と、来客に気付いた女性が床を掃いていた手を止めて、僕達に近付いてきた。

30過ぎくらいの背の高い女性で、女将さんって形容がぴったり合いそうな人だ。



「いらっしゃい、部屋をお探しかい?それとも食事?」

「5日間程部屋をお借りしたいんですが」

「朝晩の食事付きで1泊銅貨30枚、5日間ならちょっと割引して銀貨2枚と銅貨40枚でどうだい?」

「2人で寝られるちょっと大きめのベッドはあります?」

「あぁ、お洒落な部屋が空いてるよ」

「じゃあその部屋をお願いします」



僕は腰に固定したポーチから銀貨3枚を取り出して女将さんに渡した。

この世界のお金は4種類ある。

一番安い通貨が銅貨、銅貨50枚で銀貨1枚、銀貨50枚で金貨1枚、金貨50枚で白金貨1枚だ。

今の会計なら銀貨3枚出してお釣りが銅貨10枚。

数学の授業中、広げたら手を繋いでる人形をプリントの切れ端で作っていた僕にとって、この単位の理解はなかなか難しかった。

テストは常に赤点タイトロープだったし。

苦い思い出に浸っていたら、ミナに手を引かれて現実に引き戻された。

女将さんに案内された部屋は2階の右奥、なかなか広くてお洒落な部屋だった。

ふかふかのソファーとシックなテーブル、そして目を引くダブルベッド。



「朝食と夕食は1階の食堂に降りてきておくれ。教会の鐘が鳴る頃には用意が出来てるからね」

「解りました、これから5日間お世話になります」



ミナと一緒にぺこりと頭を下げる。

すると女将さんは驚いたようで、頬をポリポリ掻いていた。



「今時珍しく礼儀正しいお客様だねぇ、なんだかこっちが落ち着かないよ。はい、これが部屋の鍵」

「どうも。じゃあミナ、荷物置いたら早速行こうか?」

「うん、行こう行こう♪」



といっても荷物らしい荷物は着替えを入れたサックくらいしかない。

ほとんど変わらない格好のまま、僕とミナは宿屋を後にした。

男の子に教えられた道を、手を繋いで歩いていく。



「なんだかデートみたいだね」

「でえとって?」

「恋人が2人で仲良く出掛ける事だよ」

「お~、デートデート♪」



ご機嫌になるミナに目を細めつつ、僕はまた1つ解らない事が増えたなぁ、と思った。

こうして会話が出来てるのは、多分なんらかの魔法かそれに近い力が働いているせいだろう。

文字が違うんだから使っている言語形態そのものが違うんだと思う。

不思議なのは会話していて、僕が日本語として話している言葉は通じるのに、僕が外国語やカタカナ語と認識して話している言葉が通じない事だ。

正確には通じる言葉と通じない言葉があるって事かな。

なんとなくこうじゃないかな~って、理由として考えられるのは、日本語で説明出来るか否かで分けられる所。

例えば、スプーンやフォーク。

あれは『スプーン』 や『フォーク』ってしか認識出来ないから、そのまま伝わってるんだと思う。

デートみたいに、逢い引きって言い換える事が出来る言葉は相手に伝わってない気がする。

でも『ボウル』は器って言い換えられるけどエアリィさんに通じたし、僕の考えた法則が合ってる証拠も無いからなぁ。

まぁいいか、伝わらなかったらその都度説明すれば。

そうこうしている内に冒険者ギルドに着いた。

入り口前方には受付、左には道具屋と歓談の出来る広場、右には依頼掲示板と食事の出来る軽喫茶がある。

独特の雰囲気に呑まれていると、喫茶店の方から僕を呼ぶ声が聞こえた。



「おーい、ユーリ君。こっちこっち~」

「あれ、護衛のお姉さん?」

「さっき振り~」



ヒラヒラと手を振っているのは、さっきまで商隊で一緒だった護衛のお姉さん。

褐色の肌に輝く銀髪のショートボブ、Dカップの胸を黒いジャケットで覆っているのにヘソ出しルック、同じく黒のホットパンツに黒のサイハイソックスが眩しい絶対領域を演出、ぷりんとしたお尻やむっちりした太腿が妖艶な色香を醸し出しているのにやや幼い顔付きがアンバランスで魅力的なお姉さんだ。

なんとなく猫っぽい緑色の目が人懐っこい印象を与える。



「これからギルド登録?」

「ええ、そのつもりです」

「そっかそっか、登録終わったら一緒に何かお仕事するかぃ?」

「簡単な仕事で雰囲気を掴むつもりだったので退屈かもしれませんよ」

「大丈夫大丈夫、あたし暇だから全然気にしないよ」

「あはは、了解です」



くるっと踵を返して喫茶店へ戻っていくお姉さん。

いいお尻だ。

ちょっと見惚れていると、横でミナがほっぺを膨らませていた。



「ぷー」

「ミナ?」

「ぷくー」

「つんつん」

「ぷちぅ」

「あ、空気抜けた」

「もう、遊ばないでよっ」

「あはは、ゴメンゴメン」



膨れたミナのほっぺをつついて空気を抜いてやる。

しっかり付き合ってくれる辺り、ミナは良い子だよね。

っと、いけないいけない、早い所登録しよっと。

受付は……わぉ、受付のお姉さん僕が入ってきた時のスマイル保ってるよ。

すごい精神力だなぁ、と妙な所に感心しながら僕は受付のお姉さんに話し掛けた。



「いらっしゃいませ、冒険者ギルドへようこそ」

「あの、冒険者として登録したいんですけど」

「はい、新規登録ですね。ではこちらの書類に必要事項をお書き下さい」

「あ、僕読み書きが出来ないので代筆をお願いしてもいいですか?」

「はい、構いませんよ。ではお名前からお願いします」

「名前はユーリです」



名字の方は黙っておいた。

シーナが名字持ちは貴族だって言ってたから余計なトラブルに巻き込まれるかもしれないしね。

その後も色々な事を聞かれた。

年齢、住居若しくは拠点、犯罪歴等々。

犯罪歴は有っても言う人いないんじゃないかなぁ、って思ったけどちゃんと嘘を見抜くマジックアイテムがあるらしい。

確かに犯罪者を抱え込みたくはないしね。



「職業はどうされますか?」

「職業?」

「はい、これは他の冒険者とパーティーを組む際の参考になります。前衛担当であれば戦士や剣士、後衛担当であれば狩人や魔術師といった具合です」



あ、今受付のお姉さんパーティーって言ったね。

やっぱり通じる言葉には何か法則があるのかな?

取り敢えず自分の職業を考えてみる。

まぁ、あんまり目立ってもヤダしショボいのにしておこう。



「じゃあ魔法使いでお願いします」

「魔法使い……で宜しいのですか?」

「あれ、なんかまずかったですか?」

「いえ……普通ですと魔術師や魔導師と仰る方が多いので」

「まだそう名乗れる程の実績も無いので、魔法使いにしておけば仮にパーティー組んでも余計な負担掛けないかなぁと思いまして」

「お若いのに立派ですね。解りました、魔法使いで登録致します。これで貴方もギルドの一員です、こちらのギルドカードが貴方の身分証代わりになりますのでくれぐれも紛失なさらないようにお願い致します。紛失致しますと如何なる理由であれ再発行に銀貨1枚が必要になります」



その他の注意事項や基本的な流れを右から左へ受け流す。

……うん、こういう話には僕の集中力はまるで発揮されないんだ。

いざとなったらミナに聴こう。

ギルドカードを懐のポケットにしまい、依頼掲示板の方へ向かう。

すると1台のテーブルに目が釘付けになった。

回転寿司でも見た事無い量の皿が積み上がっていて、その中心では銀色の髪の毛が揺れ動いている。



――予想は付くけど、なんだあれは。



若干呆れつつ眺めていると、最後の料理を食べ終わったらしくお腹をぽんぽんと撫でながら暴食天使が姿を見せた。

いったいあの体のどこに入ったんだろう。



「おっ、ユーリ君登録終わった?」

「終わりましたよ。っていうか、すごい量ですねコレ」

「まだまだおやつ程度だよん」

「これでおやつ程度!?」



ええい、お姉さんの胃袋は宇宙か!

昨日も僕の作った豚汁7回もおかわりしてたし。

取り敢えず依頼掲示板を眺めてみる。

……読めなかった。

仕方がないのでミナに読み上げてもらった。

薬草の採取、鉱石の採取、角ウサギの駆除、灰色狼の撃退、ゴブリンの掃討……って、この世界にゴブリンいるの!?

てっきり魔物の類はいないと思ってたけど、そんな事は無かった。

と、左腕の袖をミナに引っ張られた。



「ねぇ、ユーリ。これなんかどう?」



ミナがオススメしてくれた依頼は屋根の修理。

報酬は銅貨3枚。

確かにこれなら僕にも出来るし、最初の依頼としてはぴったりかも。



「うん、いいかもね。さっすがぁ、ミナは話が解るっ」

「にへへ、もっと褒めていいよ?」



頭をくしくしと撫でると嬉しそうに目を細めるミナ。

その横でお姉さんはうんうんと感心した様子で頷いていた。



「色々な依頼がある中でその依頼にするなんて、ユーリ君は人間が出来てるねぇ」

「え、なんでですか?」

「こういった雑務系の依頼は初心者用に街の人がわざわざギルドに依頼してくれてるのさ。簡単な仕事だけど、働いてお金をもらうって喜びを知ってもらう為にね。だけど最近の若い子達はすぐゴブリン退治だなんだ、って飛び出したがるからねぇ。あたしだって初心忘れるべからず!って時々受けてるのに、全く困った話だよっ」



お姉さんの言葉に思わず顔を背ける人がチラホラ。

まぁ、気持ちは解るけどね。

男の子ならいつだって冒険に出掛けたくなるものだ、ってCMでもやってたし。



「おっと、ちょっと愚痴っぽくなっちゃったね。しっぱいしっぱい」



自分でおでこをコツンと叩くお姉さん。

妙に子供っぽい仕草がまたかわいい。

ちょっぴりエアリィさんに似てるかもしれない。

受付に依頼の紙を持って行って、依頼受注完了。

早速初仕事へレッツごぅ!


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