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三人寄れば  作者: マルク
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屋敷のおばけ

 

 アベルの剣が閃き、フィリアの拳が唸りを上げる。生ける屍最後の一体が呻きながら砂と化した瞬間だった。

「フゥ、終わったぁ~」

 言ってフィリアは額に浮かぶ大量の汗をグイッと拭う。

「お疲れフィリア」

「アベルも。それとエルもね」

「うん」

 後方支援メインのエルリックも頬を汗が伝っていた。

 三人は見事屋敷に巣食うグール達を退治した。人知れず街の治安に貢献する、正義のヒーローを彷彿とさせる八面六臂の活躍である。

「まぁ、おばけはいなかったけどわたしたち良いことしたよね?」

「もちろん。それにフィリアが強いってこともちゃんとしょうめいされたしね」

 エルリックは爽やかな笑みを湛え、仲間の力を讃えた。それがこそばいのかフィリアははにかみながら頭をポリポリと掻いてその場を濁した。

 事を為し終えた三人は来た道を戻った。廊下、一階と二階を繋ぐ階段、ダイニング――屋敷の至るところに激闘の痕跡が多数残されていたが、それを見るとどこか誇らしげなフィリアであった。が、やはり心残りはある。一階へ下り玄関へ向かう途中、玄関を出て煉瓦塀の穴を通り抜ける途中、おばけはいないのかと辺りを頻りに見回していた。

「そんなにおばけ見たいの?」

「何? エルは見たくないの?」

「見たいとかっていうより、まだ夜じゃないから見れないんじゃない?」

「あ……そっか」

「いや、そんなこともないじゃろ」

「うーん、そうか…………………ん?」

 今何か変なのが混ざっていたような。とりあえずフィリアに確認してみる。

「今そんなこともないみたいなこと言った?」

「ううん」

 フィリアはキョトンとした表情で答えた。

「そ……う」

 はて、単なる気のせいだったのか――エルリックは首を傾げふと辺りを見渡した。すると固まったアベルの姿が目に映った。

「アベル?」

「あ、あ、あ――」

 何かを訴えようと遠くを指差し口をパクパクさせるアベル。しかし言葉が出てこない。エルリックはひとまず彼の指差す先に視線を移した。

 すると――。

「――ッ!?」

 そこには一人の老人が、誰もいなかったはずの巨木の前に立っていた。

 恰幅のいい体型ながら柔和な眼差しを放ち、癖なのか口から顎にかけて生えている立派な髭を撫でている。服装こそ白いローブを羽織っているだけだが、トナカイとソリを用意したならばプレゼントを配りに空へ飛んでいってしまいそうな雰囲気だ。

「ホッホッホ。ようやっと気付いたか」

 老人は笑顔のまま三人に声をかけてきた。突然のことに驚きを隠せない子供達――おばけを見たいと言っていたフィリアですら、である。

「なんじゃお主ら、言葉がわからんのか? あ、さてはワシの言葉が違うのか? じゃあ……テルノス、イミワヌエルエラシ――」

「あ、あっ――と」

 聞いたことのない言葉を前に、エルリックが何とか喉を振り絞る。そしてなんとか振り絞った言葉は言葉にならず、音となって老人に届いた。

「ん? 言葉は通じるのか?」

 アベルが一度コクリと頷く。しかしすかさず首を横に振り「ちがいます!」と口を開いた。

「違うとな?」

「あ、いや……そうじゃなくて」

 思ったことを言葉にできないことがもどかしい。するとそれを汲み取ったか、冷静さを取り戻していたエルリックが助け船を出した。

「言葉はわかります。おじいさんは誰ですか?」

「ワシか? ワシは――精霊じゃ。そこの木に住んどる」

 言って老人は背後の巨木を指差した。エルリックは頭を回転させる。精霊……精霊……たしか自分たちとはちがう世界に住んでるヒトのことだった気がする。しかしそんな考えを待ってくれる様子もなく、自らを精霊と呼ぶ老人は話を続けた。

「しかしまぁ驚いたわい。ワシが苦労したあやつらを蹴散らしてしまうとはのぉ。ホッホッホ、ヒトの子も捨てたもんじゃないわい」

 と、ここで横槍が――。

「あ、あの――」

 フィリアだ。老人を見た時からの疑問、それを今ぶつけてみる。

「おじいさんはお化けなんですか?」

「お化け? ワシがか?」

 老人は驚きとも微笑みとも取れる顔でフィリアを見た。フィリアはコクリと頷く。

「ホッホッホ、残念じゃがワシは精霊でお化けではない。なんじゃお化けの方が良かったか?」

 嬉しそうに話す老人にエルリックが事の顛末を話した。何故ここへ来たか、何故お化けに会いたかったか、を。すると老人は申し訳なさそうに頭を掻いた。

「――ふむ、そうじゃったか。すまんのぉ、ワシも永らくこの屋敷を見守ってきたが、お化けは見たことないのぉ。最近はあやつらを退治しようと何度か屋敷を練り歩いてもみたが……」

 フィリアはガクリと肩を落とした。最初見たときは聞いた話と外見が重なったからもしや、と思ったのだが。するとアベルが何かを思い付いたようにフィリアの肩を叩いた。

「何?」

「も、もしかしてお化けっていなかったんじゃない?」

「え?」

「だって――」

 アベルはお化けの外見と老人を比較し、更には最近老人が屋敷へ入った――その姿をお化けとして認識されたのではないか、と語った。なかなか筋の通った話にエルリックは納得し、フィリアは半分理解した。しかし――。

「でも、それじゃお化け退治できない」

「でも、お化けは前からいなかったんだからしかたないよ。きっと誰かがカンチガイしたんだ」

「じゃあ明日なんて言うの?」

 対してエルリックが答える。

「正直に話そうよ。それに、まだなんか言われたらまたちがう方法を見つけよう」

「…………」

 正論を前にフィリアは少し俯き、しかし小さく頷いた。するとそれを遠巻きに見ていた老人が割って入ってきた。

「なんやら小難しい話をしとるようだが……きっと大丈夫じゃて」

「何で?」とフィリア。

「ホッホッホ、風がそう囁いとる。きっとうまく行くじゃろう」

 言って老人は満足げに髭を撫でるとクルリと踵を返した。そして去り際――今度は遊びに来なさい。その時は何か馳走しよう、と言い残して巨木に消えたのだった。

 その場に取り残された三人はしばらく呆然と巨木を眺めていたが、やがて我に帰ると一先ず家路を急いだのだった。

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