帰還
そして物語りは動き出す。
………なんで………なんでこうなるんだろうか………なんで俺はコイツらから根こそぎ持っていかれなきゃならないんだ………なんで………なんで………
〜数分前〜
ディノは地上に降りてきた4頭の竜に単騎で挑む。
それが無謀だろうが蛮勇と呼ばれようがそんな事はどうだっていい。
家族を殺した奴等が目の前に居るのに怒りを覚えない訳がない。
いや、正確に言うなら家族を殺した奴等の仲間か。
どちらにしろ、殺してやりたい位に怒りがふつふつと増幅されていく。そしてそれが行動となって現れるだけで。
「ああああああっ!!」
自身の咆哮と共に身近な竜へと地面を走りながら斬りかかる。
相手は4頭。長期戦は不利になる一方。つまり短期決戦になる。
竜が尻尾を振り回し、凪ぎ払う。
ディノは難なくそれをジャンプして避けて更に距離を詰める。
座学で習った事が頭をよぎる。
―――「竜の弱点はここ。頭と胸だ。」
教官はそう言って黒板に書いた竜の頭と胸を指す。
「頭は竜の口の目の前に飛び出さないと攻撃できない。だから基本は胸を狙え。つまりは………懐に飛び込み。一撃で仕留める。それが一番勝てる確率が高い。」―――
自分の現時点の最高速度で竜の懐に突っ込む。
ディノは何度か竜と交流や喧嘩に近いことも小さい頃にしてきた。竜の動きには慣れている。
討伐隊の中では一番竜と戦えると自負すらしていた。
だからこそ、そこで確信した。
勝った。と―――。
そう。勝ったと。
―――だが、それが間違いだった―――。
<我らを舐めるなよ小僧が………。>
ディノの頭の中に低く重い声が響く。
その時に気づいた。
自分が、小さな優位性だけで勝てると高を括っていたことに。倒してもいないのに既に勝った気でいたことに―――。
瞬時。
「うわっ!!」
猛烈な突風がディノという人間が吹き飛ばされた。
それは15メートル以上ある竜からしたら、造作もない行動。
そう。例えるなら五月蝿い虫を人が手で払うような動作と一緒なのだ。
飛ばされたディノは家の壁に叩きつけられる。
「かっ…はっ!!?」
全身に走る痛みが意識を蝕み、体が前のめりに倒れる。
倒れた拍子に両手の刀を手放す。
何とかして立とうと四肢に力を入れてみるが、返ってきたのは突き抜けるような激痛。
どうやら壁に叩きつけられた時に何ヵ所か折ったらしい。
それでも立とうとするが、何故だか急にどうでもよくなってきた。
(これ………なんて言うんだっけ………ああ、『絶望的状況』だったかな………。)
頭が異様なまでの冷静さを保ち、何処かを打ったか?等と自分で自分を心配するくらいにやる気が無くなっていた。。
4頭の竜はゆっくりとこちらに近づいてくる。
込み上げてくる笑い。
どうやらとうとうイカれてしまったらしい。
(………いや、どうしようもない状況に陥ったら笑うしか無いんだろうなぁ………。)
くっくっく………、と力無く笑う。
「あんなに訓練したんだけどなぁ………。届かないのか………。」
悔しそうに言うが、既に竜を倒すことを諦めていた。それは突風に飛ばされて叩きつけられた時に痛感したのだ。
圧倒的過ぎる力の差。
埋めることのできない肉体の差。
覆すことのできない能力の差。
これをどうしろと言うのか。
先程まで勝てると、奴等を殺すと、思っていた自分が馬鹿馬鹿しくなる。
殺してやりたい程の憎悪も何処かに消え失せた。
竜は変わらずゆっくりと近づいてくる。もうすぐで竜の手が届きそうだ。
どうやら此処で自分は終わりらしい。
まあ、元々、時間稼ぎで突っ込んで行ったんだ。ケン達が無事に逃げれたならそれでいい。多分目的は達成されただろう。
「短かったけどそれなりに充実してたなぁ………。」
掠れてく意識のなかで誰かが呼ぶ声がしたが、気づくことは無かった。
―――――――――――――――――――
〜8年前〜
母親が殺されたあの夜、ディノ達はマックスの家の前に居た。
「父さん………?」
家の外で遠出の用意をしている父親の後ろから声をかける。
「なんだ?」
父、バルハラスは振り向かずにせっせと荷支度しながら答える。
「なんで俺達はマックスさんの所に預けられるの?」
「………ごめんな…父さんはちょっと出かけなきゃいけないんだ。いつ帰ってくるか分からない。だから、その間だけマックスさんにお世話になってもらってくれ。」
「………どこに行くの??」
「…………………。」
急に父親は黙った。
「どこに行くんだよ、父さん。」
「………ディノ。俺のような父さんを許してくれ。」
「?何を言ってるの父さん?」
「マックス!!」
バルハラスは大声でマックスを呼ぶ。
「何ですかバルハラスさん。」
呼ばれたマックスが自分の家から出てくる。
「ディノ、メリア、サラを頼む。」
荷支度をし終えたバルハラスが荷物を背負うように持ち、歩き始める。
「………わかりました。」
マックスは敬礼してバルハラスを見送る。
「………父さん…?待ってくれよ!行くなら俺も連れていってくれよ!!足手まといにはならないからさ!!ねぇ!待ってくれよ!」
ディノがありったけの声で呼び止めるが、バルハラスは見向きもしない。
「どうしたディノ。何かあったのか?」
声を聞きつけたメリアとサラが家の中から出てくる。
「父さんが、勝手に何処かに行くって………だから………どうすればいいんだ?………待ってくれよ父さん!!」
「………お父さんが………どっかに行く………??」
メリアが過敏に反応する。
「………駄目!!もうこれ以上居なくなるのは嫌っ!!嫌っ!!駄目!!やめてぇ!!いやあああああっ!!!」
メリアが髪を振り乱して錯乱し、体中が痙攣したかのように震えている。
「あああああああああああっ!!」
両手で自分の肩をかきむしるように引っ掻き、服に血が滲み出す。
「メリア!?どうしたんだ!?メリアッ!!」
異常な状態にサラとディノは戸惑い、マックスが介抱する。
―――だが、バルハラスは振り返る様子もなくどんどん歩みを進めていく。
それに気づいたディノは大声で叫ぶ。
「父さんっ!!メリアがっ!!父さん!父さぁん!!なんか言えよおぉっ!!」
――――――――――――――――――
……………の…………………しろ…………ディノ………返事しろ………ディノ!起きろ!返事しろっ!!
「………?」
呼ばれたのは気のせいでは無かった。眼を見開き目の前に広がる光景を焼き付ける。
懐かしいあの頼りがいのあった背中。愛用していた一本の刀。そして聞き覚えのある何処か抜けた声。
「いつまで寝てるんだ!起きろっ!馬鹿息子!!」
そいつは俺を息子と呼んだ。
紛れもない。
見間違えることはない。
だって、何故なら、それは、そう。
自分の父親だから。
読んで頂いて誠にありがとうございます。
最近JAMprojectを聴きまくっていたせいで、頭がどんどん中二になりつつある作者です。
JAMは悪くない。感化された俺が悪い。
そんなことより、『Dロード』にはとうとう出てきました。ディノの親父が。
まあ、タイトルはそれ故にって奴です。
………でもなぁ父親は色々いるんですよね、アニメとか小説の中には。
破天荒な方や、ちゃらんぽらんな方や、フラグってる方や、超父親としてかっこいい方や、ect………
まあ、ホント色々居ますよね。
に…、しても、相変わらず文章力が向上しないのは作者に学習能力が無いからなんだろうなぁ………(泣)
暇潰しや、待ち時間とか、そんなときに読んで頂けるとめっちゃ嬉しいです。作者的に。
これからもよろしくお願いいたします。