乱闘
食事会と言うなのバカ騒ぎの後にディノ達はそれぞれに店を出た。が、相変わらずディノとケン、リーア、エリー、サラの5人は一緒だった。
5人は夜の街中をブラブラと歩く。
月が真上に来ていて辺りはさほど暗くは無かった。だが、夜ももう遅い方なので辺りに人の気配は無い。
「ふーっ…食ったなあ…。」
ケンが満足そうに顔を綻ばせる。
「肉しか食べてなかったでしょ!肉しか!」
リーアがケンに悪態をつく。
「まあ、過ぎた事だ。そこら辺にしておこう。」
サラがリーアを落ち着かせるようになだめる。さっきとはまるで逆だ。
「そうそう、ディノは自分の分の倍食べてたね。」
エリーが笑ってディノの顔を覗き込む。
「まあ…腹、減ってたし。食べるときに食べとかないと成長しないからね。」
「なんだそりゃ。」
ケンが不思議な顔をする。
「格言だよ格言。マックスさんが言っていただろ。」
「へえ〜…知らんかった。」
ディノの言葉に素直に感心するケン。
「ケンは割と人の話を聞かんからな。」
サラが頷くように納得する。
「でも、もうケンもディノも子供じゃ無いんだね。」
何故かご機嫌そうにエリーが言う。
「それって俺、ちょっと前まで子供扱いされてたって事!?」
ディノがびっくりして聞き返す。
「まあ、子供だな。」
「うん。子供だね。」
「いや、ガキだ。」
サラ、リーア、ケンの順番で言葉による攻撃。
「なんだそりゃ!…………………―――でも、もうガキで、いられないんだよな………。」
空を見上げて寂しそうに呟く。
「………ああ…そうだな。」
ケンが同意する。
「………ならば歩こう。前に向かって。」
サラが先頭に立ち、偉そうに言いながら指を前に差し、顔を少しだけ後ろに向ける。
「…そうだな。」
ディノがなんとなく笑う。
つられてサラがフッ、と笑う。
と―――――――――――――
「おいガキ共。ここら一帯は有料だぜ。」
どこからか男の野太い声がした。
ディノ達が驚いて辺りを見渡す。
すると、建物の物陰から人相の悪い男や女がぞろぞろと湧き出てきた。数は既に20人を越えたが、まだまだ出てきていた。それぞれが小型ナイフから大剣、槍、斧と様々な武器を持っていた。
(―――盗賊!?―――)
すぐさまディノ達は腰に差している剣に手をやろうとして止め、素手を構えた。
『奇行竜討伐隊』は常に剣を腰に携えていて、いつ何時いかなるときでも竜と戦えるように教えを受けていた。だが、相手が竜では無い場合は絶対に抜いてはいけなかった。
逆を言えば、盗賊だろうが強盗だろうが軍隊だろうが、絶対に剣を抜いてはいけないのだ。
それは、破れば死罪の規律。絶対順守の戒律。
『奇行竜討伐隊』になかなか人が集まらないのはそのせいでもある。
つまるところ、ディノ達は今、丸腰同然なのだ。
そして、気づくとディノ達は既に周りを取り囲まれていた。前も後ろも右も左も。
人数はざっと数えて100人以上はいるだろう。
「あっひゃっひゃっひゃっひゃっ!!本当に剣とか使わないんだなお前ら!!」
一番先頭にいた男が馬鹿にしたように笑う。
周りの奴等も釣られて笑い出した。
「………貴様ら盗賊か…??」
先頭にいたサラが警戒しながら相手に問いかける。
「正解…では無いな。俺たちは『コギク』雇われていない軍隊だよ。」
人混みの中から眼帯をした大柄の男が前に出てくる。
(………コギク………確かサラの…!!)
ディノがサラを横目で見る。
「………そうか………なら………今すぐ立ち去れ。」
サラがディノ達と普段話している時よりトーンの低い声で言う。
「ああ?」
少し怒りぎみに眼帯の男はサラを睨む。
「!!サラ!!落ち着け!!」
ディノが焦って大声を出す。
「おいみんな『立ち去れ』だってよぉ!」
眼帯の男が自分の仲間に向かってオーバーなリアクションをする。
ククク…、ケタケタケタ…、ハハハッ………
『コギク』と名乗った面々が笑い出す。
「全く馬鹿な話だぜ!武器が使えないような奴が立ち去れだってよお!!俺たちが今まで殺ってきた討伐隊の人数は何人だっけぇ!?」
「十二人だぜ、お頭!!」
眼帯男の後ろで男の声。どうやらこの眼帯男がリーダーらしい。
「いんや待て。三人は女で犯りまくって、そこら辺に捨てただろうが。だから九人だ!!」
眼帯男が仲間に向かって愉快そうに言った。
ガハハハハハ!ゲラゲラゲラ!ワハハハハハ!
眼帯男の仲間から下品な笑い声が人気の無い街に響く。
「だからよぉ〜、ええ?もうちょっと頭を使おうぜオネーチャン。さっさと金だしゃ許してやっからよ。…それともオネーチャンが身体で払ってくれんなら別だがな。もちろん一人分の料金だがな。」
ニタリと厭らしい笑顔でサラに近寄る。そして肩に手を置こうとして、弾かれた。
サラが手を払ったのだ。
「貴様………殺すぞ………。」
睨みつけるようにサラが見る。
「………あ?………お前、なにしてんだ…?折角、優しーく、穏やかーに、ここを通してやろうと思っていたんだがな………お前が先に手え出したんだからな。連帯責任だ。全員殺れ。ただし女は一人も殺すな。捕まえろ。珍しく全員上玉だ。かかれぇっ!!」
眼帯男の合図で一斉に襲いかかってきた。
が―――、その瞬間。臨戦態勢のままディノ達は呑気に会話をしていた。
「…はあ………サラ。少しは我慢しろよ。」
「うるさいぞディノ。私が『コギク』に因縁があることは知っているだろう。しかもこやつらは『コギク』を語っているに過ぎん。奴等はこんなやり方は絶対にやらん。あまりに下劣過ぎるのでな。」
「しかし、面倒だな………。ま、俺一人で充分だけどさ。」
「あら?ケン。逃げてもいいのよ。」
「逃げるかよ。リーアこそエリーを連れて逃げても良いんだぜ。」
「…ケン。私を見くびらないで。」
「エリーは戦うと決めたのよ。その覚悟を邪魔しないようにしなさいよケン。」
「はいはい。分かったよ。リーア、エリー。もう邪魔しないよ。」
「そろそろ来るぞ。じゃ、皆。行こうか。」
ディノのかけ声でケン、リーア、エリー、サラ、そしてディノが一斉に動き出した。
ディノは一番早く接近してきた槍を持った男の攻撃を紙一重でかわしつつ顔面に向かって拳で迎え打つ。
そのまま持っていた槍を奪うと殴った男を更に蹴り飛ばし、ナイフを持った女と片手の剣を持った男二人を一気に凪ぎ払う。
続けて槍の柄の部分で次に一番接近していた太った男の顎を軽くかち上げる。
食らった男が宙を舞って吹っ飛ぶ。
そのまま槍を上に投げ飛ばし、次に接近していた男の斧の柄を片足で蹴り砕きつつもう一方の足で顔面を蹴り抜く、半逆立ち状態で近くに落ちていたナイフを拾い、異常な速度で体勢を立て直し、向かって来る男達を死なない程度で動けなくなるように切る。
そして物凄い勢いでナイフぶん投げて、一人だけ弓で遠くの屋根から自分を狙っていた奴に当てた。当たった事だけを一瞬で確認し、近くに落ちていた両手剣を拾い、作業のように襲ってくる相手に次々と峰打ちを当てていく。とても楽しそうに。
ケンはただ殴り飛ばしていた。
襲ってくる相手を次から次へと。
まるで大人が赤子を投げるように人が吹っ飛ぶ。なのにケンは息切れどころか痛みすら感じていないのか嬉しそうに笑っていた。
リーアは手刀で次から次へと相手の直接死に至らないような場所の骨を―――手や腕、肩、太股、脚等を最小限の動きをし、一撃で叩き折った。
折るときの嫌な音を全く気にしていないのか、感情を殺しているのか、ずっと無表情だった。
エリーは真っ先に襲ってきた相手のナイフをかすめるように奪うと異常な速さで、自分に向かって来る相手を全員切った。
死なない程度に抑えて。
顔に血が付こうが服が汚れようが関係無く、大量の血の雨の中を疾走する。
とても悲しそうな表情で。
サラはただ蹴った。
ケンと同様に向かって来る相手の攻撃を紙一重で避けながら蹴り飛ばす。前蹴りと回し蹴りのみで多人数をいとも容易く蹴り払う。
蹴り飛ばした相手はガードは無意味に近い衝撃をくらいながら後ろに仲間を巻き込んで吹っ飛ぶ。巻き込まれた仲間は一緒に飛ばされた。
蹴り飛ばすサラの顔は鬼のような憤怒の形相をしていた。
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戦闘を開始してから一分。
100人程いた人数は全滅し、眼帯男とディノ達だけが立っていた。
「ば…化け物………か!?俺たちが………たった5人のガキにやられるのか………??」
眼帯男は恐怖で顔が引きっていた。
周りからは、
「うぅ…」「い、いてえ…」「ぐ…」「ば、化け物だ…」「あがが…」「ち、ちくしょう…」
等とうめき声がしていた。
それぞれ目の前にいた相手を倒し終わったディノ達は眼帯男を一斉に見る。
『まだ続ける?』
ディノ達全員でハモりながら言ったが、全然笑えるような状態では無かった。
最後まで読んで頂きありがとうございます。
この回はいろいろ試行錯誤、取捨選択、添削等を何回も繰り返しながら作りました。
少しでもより読みやすく、かつ面白く!!
………ちゃんと出来ているか不安だ………。
間違いを教えて頂けたらとてもありがたいです。
以上、現場からお伝えしました〜。