入隊祝い
刀を手入れし終えたディノは入隊のお祝いという名目で食事会を行うため、街中にある大きい料理店の前にいた。
その店は一階と二階に別れていて、一階は4〜6人用の席が並び、二階では多人数用の長方形の長机が設けられていた。
ディノは一階でさっさと受付を済ませ、二階に上がっていった。
二階の階段を上がってからすぐにケンを見つけた。
「おっせーぞディノ。なにやってたんだ?」
「悪い悪い。ちょっといろいろあってね………。」
意味ありげに誤魔化した。
それを察したのだろう。ケンは
「ん、まあいーや。さっさと宴を始めようぜ。」
と、ディノの肩を組み、テーブルまで引きずるように連れて行った。
ケンと別れて席に着くとテーブルには既に大量の料理が並べられていて、今すぐにでも食べられるようになっていた。
料理を眺めていると、サラが近寄ってきた。
「ディノっ!!先に帰るなら一言何かしら言ってけ!!」
置いていかれたのが嫌だったのだろう。怒ってディノに食って掛かる。
「ああ、悪い悪い。次から気をつけるよ。」
そんなサラをディノは飄々と受け流す。
「またそうやって誤魔化すな!何回言えばお前は、ぶつぶつぶつぶつ………」
サラの長い説教が始まった。
「あー、はいはい、サラ。もうすぐ始まるから自分の席に戻ろうよ。」
すぐにリーアが来てサラをなだめ始めた。
「リ、リーア!?まて、私はまだこいつに用が…」
「ディノも反省してるようだし、ね。ね。」
「むぅ………きょ、今日はリーアに免じて許してやるが、今度は許さないからな!!」
サラがディノを指さして言う。
「ああ。わかった。気をつけるよ。」
ディノは表情を崩さず先程と同じように飄々と流した。
リーアになだめられたサラは自分の席へと戻る。
と―――、隣のガタイの良い青い髪の少年が話しかけてきた。
「なあディノ。前々からきになっていたんだけどさ…お前って女ったらし?」
いきなりそんな事を聞いてきたのは、
『ワーロック・コリン』。
本人は王宮の兵士に憧れて軍隊に入隊したが、何の因果か解らないが『奇行竜討伐隊』に編入された人物だ。
「………そうだな。お前の顔面を一発殴らせてくれたら答えてやろう。一文字だけな。」
指の関節をバキボキと鳴らし、拳を構える。
「ちょっ!!なにその反応!?しかもたった一文字!?さらにグーかよ!!冗談だよ冗談っ!!マジに受けとるな!!」
慌ててディノに殴られないように手を振るコリン。
「コリン。そんなことより、エリーの胸ってでかくね?」
初っぱなから変態発言をしたのは『スコット・ロゼル』だ。髪は短く切り揃えられ、あまり大きくない体には少々無駄な脂肪がついていた。
ちなみにここに入隊した理由は「軍隊に入れば、軍隊の女性と付き合える」だそうだ。
「相変わらずソコしか見ないよなお前………。」
ディノが嘆息する。
「バカ野郎!!女性にとって大事なのは、顔!体!そして胸だ!!」
謎の格言。
「………なあコリン。こいつどうすりゃいいかな?」
「………解んね。」
二人は肩をすくめてからロゼルを眺めた。
と―――、パンパンと手を叩く音がテーブルの先の方でした。
音がした方を見ると、一人の少年。いや、青年。と言った方が妥当だろう――――席から立ち上がった。
ディノ達の隊のリーダー、『クロノス・ジョン』である。筋肉質の体つきをしていて、金の短髪の少年だった。彼の入隊理由は不明。あまり他人に明かせるものでは無いらしい。が、かなり強い思いがあることが見て取れる。
「あー、ゴホンゴホン。皆静かに。………よし。知っての通り、俺たちは『奇行竜討伐隊』に入隊した。
軍隊としての規律、使命、そして、決して忘れてはならない『あの日』に起きた事を肝に刻んでほしい。
それでは、マックス上官から大事な話がある。」
そう言ってジョンが隣に座っているマックスと耳打ちを交わす。
ジョンが座るのと入れ替わるようにマックスは立ち上がった。
「諸君!!君達は8年前、まだ子供であっただろう!!その時に竜に襲われて恐怖を味わった者。襲われなくて安心した者。そして―――竜によって死んだ者…。それを憎く、腹立たしく思う者をいただろう!!」
(………なんだか、俺に向かって言っているみたいだな………)
ディノは小さく口元だけ笑った。
「だからこそ諸君らは戦わなくてはならない!!これ以上、竜の犠牲を出さないために!!これ以上、未来を奪われる事があってはならない!!そして同時に―――竜を守れ!!
全ての竜が敵ではない!!今までも人と竜は共存できた!!ならばそれを絶対に崩してはならない!!これが『奇行竜討伐隊』の絶対的な規律だ!!これを元にこの隊は成り立っている!!絶対に忘れることの無いようにしてくれ!!以上!!」
マックスが語り終え席に座る。
「…それでは全員………。」
ジョンが周りに合図に視線を送る。
察した人は両手の平を胸の前で合わせた。
ジョンが語り出す。
「『世界よ!!我らが住む全世界よ!!今日のこの与えて下さった食事に感謝します!!恩!!』」
「「「恩っ!!」」」
全員が口を揃えて言う。
「…よし。では食べようか。」
ジョンが全員に向かって言った瞬間から――――、
大騒ぎになった。
「これは俺の肉だああぁぁっ!!」「ちょっ!!それ私が食べようとしていたやつ!!」「早い者勝ちじゃああああっ!!」「詰め込むなバカッ!!そんなに詰め込むと…あーっ、やっぱり!!誰か水っ!!水っ!!」
「もぐもぐもぐ…。」「もう一杯くれーっ!!」
ぎゃーぎゃー、わーわー、
と肉の取り合いや、がっついて喉を詰まらせた人の救助、普通に静かに食べる人、めちゃくちゃ食う人。と、それはそれは嵐のような大騒ぎだった。
「………いいなぁ。若いって………。」
マックスが野菜をゆっくり食べながら羨ましそうに呟いた。
最後まで読んで下さった方、ありがとうございます。
最近は時間に余裕が無いため、変な時間に(主に深夜)投稿するようになっています。
これからどんどん遅くなるんだろうなぁ………おっと感傷的になっている場合ではない。
どんどん作品のクオリティーを上げていけるように頑張ります。応援よろしくお願いします!