メリア
城下町の中央から少し東側にある大きめの家。―――今はそこがディノの住む家だった。
「ただいま。」
ディノが家の戸を開ける。
「おかえりなさい。お兄ちゃん。」
メリアが抑揚の無い声で兄を迎える。
メリアは身長は150後半で、脂肪も筋肉も少ない痩せた体をしていた。腰まで伸びている黒の長い髪を後ろでポニーテールにし、虚ろな目をしていた。
「………ああ。」
(やっぱり戻らないか………。)
ディノが8年前の事を思い出す。
メリアは、8年前のあの日に感情そのものを失った。
母親の死を父親から告げられたその日の夜、バルハラスはディノとメリアとサラをマックスの家に預けて何処かに行ってしまった。
父が出ていく時に、メリアは急に気を失って倒れた。それでも父親は無視して出て行った。
やむなくメリアをベッドに寝かせて、サラとディノも眠ろうとしたが、二人とも寝つけず、朝まで二人は起きていた。
メリアの事が気にかかったディノは様子を見に行った。
すると、既に気がついていたメリアは部屋に入ってきたディノの方を向いて抑揚の無い声で、無表情の状態でメリアは言った。
「おはよう。お兄ちゃん。皆、消えちゃったね。」
昨日、あれほどの事があったにも関わらず。素面で言った。
いやあれほどの事があったからこそ素面で言えたのかも知れない。
ディノはその時のメリアの瞳がガラス玉の如く無色透明に見えた。
そしてその次の言葉はディノに絶望を暗示させた。
「お兄ちゃん。私、おかしいの。お母さん死んだのに、お父さんどっかに出ていっちゃったのに、なにも感じないの。
痛くもないし、熱いものもなにも込み上げてこないの。なんでだろうね。」
真っ直ぐディノを見つめて抑揚のない声で言った。
冗談だ。
ディノはその時思った。
…いや、思ったのではない。そうであって欲しいと願った。
泣きながら。
それが、胸が裂けそうな痛みからなのか熱く込み上げてくる怒りからなのか、分からなかったが、今はどうでもよかった。
なんせ―――――――――――
自分がたった今、感じているもの。『感情』を、妹は完璧に失ってしまったからだ。
そんな妹に対して兄は、ただ泣くことしか出来ない。いや、泣くことしか出来なかった。
そんな自分を責めれば良いのか…妹に同情すればいいのか…ただひたすら泣いた。
もちろん、泣いたからといって妹が感情を取り戻す訳など無い。
けれどディノは泣いて泣いて、涙が枯れ、それでもなお嗚咽を繰返し泣いた。
そんな兄を妹は無関心、無感情、無表情で見続けていた。
「あれから8年か………。」
ディノが母に託された刀を手入れしながら呟く。
あれからただひたすら『強さ』だけを求めて訓練や修行をした。
もうなにも奪われないために、仲間を守るために。
そして、
あの『竜』を殺すために。
ディノ18歳。メリア16歳。ケン18歳。エリー18歳。リーア18歳。サラ18歳。
この日、6人の力が試される。
今回は短めです。
短いのは先を考えていないだけです。はい。
『試される』と書いたのはいいけど、どうするかなんて考えてませんでした。
THE・無計画!!
………………なーにどっかのシンプルゲームみたいに言ってんだか………
毎度毎度、グダグダな後書きでごめんなさい。
ではこの辺で、サヨ〜ナラ〜。