Dの紋章
〜西側〜
ギャアアアアアアアッ!!
竜の咆哮が辺り一面に響き渡り己の最期を告げる。
前のめりになり、ゆっくりとその図体が沈むように倒れる。
「やったか!?」
「待て!まだ解らん!」
「いや、確かに急所は突きました!」
「それでもだ!」
隊長らしき人物とその隊員らしき人物が数回会話を交わし、様子を伺う。
しかし、竜は起き上がる気配は無かった。
「………よおしっ!…。全員!よく聞け!俺達は勝った!勝ったぞっ!!」
『オオオオオオオオオオオオオオッ!!』
隊員十数名が互いに喜び、勝利という名の美酒に少しの間、酔いしれた。
~竜に押しつぶされてる人~
「おいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいいいいいいいいいっ!!無視か!?なにこれ!新手のイジメか!?酷くね!?いやマジで酷くね!?誰かああああああああああああああああ!たぁすけてええええええええええええええええええええっ!!」
~隊員たち~
「…なあ、なんかそういや忘れてねえか?」
「?なにを?」
「いや、なーんか大事なもん忘れていたような気が…」
~竜に押しつぶされてる人~
「俺、俺、俺、俺、俺えええええええええええっ!」
~隊員たち~
「なんだ?その大事なもんって?」
「なんだったかな…。えーっと…」
「なんだよ、じらすなよ」
「まてまて、もうここまででかかってんだよ…」
~竜に押しつぶされてる人~
「俺ええええええええっ!竜を一匹だけだけど倒した男おおおおっ!」
~隊員たち~
「あっ、思い出した!」
「なんなんだよ、早く言えよ!」
~竜に押しつぶされてる人~
「はあ…、ようやくここからでられ…」
~隊員たち~
「危ねえ危ねえ。忘れるとこだったぜ。替えの刃」
「おいおいそんな基本的な所作忘れんなよ。訓練生に逆戻りだぞ?」
「ああ。悪い悪い」
~竜に押しつぶされてる人~
「えっ!?ちょっ!?待てこのヴォケこらあああああああああああああああああああっ!!なにその高く持ち上げといてからの突き落とし!えげつなっ!酷い!マジで酷いっ!そしてそんな基本的なこと忘れんなっ!やり直せっ!訓練生になってまた一からやり直しやがっ………!!?」
ずおんっ…
―――地響き!?しかも近いっ!?…1、………2!?
ずおんっ…
おいおいおいおい!?足音からしてすぐそこだっ!呑気にしているじゃねえ…えっ!?
コリンは気づいた。
さっきまで竜に圧されて動かなったはずの関節がいつの間にか動くようになっていることを―――!!
「全員!逃げろおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
必死になって叫ぶ。が、遅かった。
コリンの絶叫とともに竜が炎を吐く。
「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」
隊員2名が一瞬にして灼熱の炎に包まれて骨も残らず蒸発した。
「何っ…!?」
「嘘…、だろ…!?」
「バカな…!?」
そう。先ほど倒したはずの竜が―――、
「生き返った…!?」
~東側~
「くそおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
ジョンが叫びながら先程投擲した両刃を片手に斬りかかる。
ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!
対して竜は翼を羽ばたかせて辺り一帯の全ての物を吹き飛ばす。
「うおおっ!」
転がるようにして受け身を取り、回避に意識を集中させる。
「っ!!このおお~っ!一体なんだってんだ!?」
腹立たしげに怒鳴る。が、すぐに冷静さを取り戻す。
「…しかし、本当にふざけてやがるぜ…。いきなり起き上がって火を吐くとか…。お陰で3人も焼かれちまった」
ロゼルとジョンを含めて残り5人。戦えない人数ではないが、明らかに不利になることは確実。
「ひっ、退きましょうよ隊長ぉ〜!」
ロゼルが弱々しげに懇願する。
「馬鹿野郎っ!!ここで俺達以外にこいつらを止めるやつが居んのかよっ!?」
「でっ、ですがこのままじゃあ…」
「っ…!」
確かにロゼルの言う通りだ。このままでは自分達の敗北は目に見えている。………しかし、自分達が退いてしまったらこの奇行竜達は何をしでかすか分からない。
そもそも退いてなんになる?既に隊員は全員出払っているのだ。代わりなどいない。
…いや一時的に止めるのなら竜一体につき、大体精兵が10人もいればいい。行動不能にまで追いやるならその約20倍は必要になるが…。倒すにはその何十倍必要だろうか…。
「あ~あ…俺達はここで終わりか…」
急に隊員の一人が竜と距離をとってぼやき始める。
「………………………はあぁ………つまんねえ人生だったな…」
ぶつぶつと一人で呟きながら刀を高々と振り上げ、
「隊長ー。すいません。俺、焼かれるの嫌なんで先に逝きます」
自らの心臓を狙って振り下ろす。
「!?まっ!?待て!はやまっ…」
ぶしゃあっ
隊員1名が―――、勝てないと悟り、生きることを放棄し、自らの手で、剣で、自らの命を絶った。
「………………馬鹿野郎が…」
そのことに一番反応したのは―――、ジョンだった。
「…隊長…退いて下さい…」
竜の攻撃をかわしつつ、静かに説得するように自分の隊長を見る。
「ジョン!?お前まで何を!?」
「邪魔なんで退いて下さい」
初めて―――、ジョンは規律を乱す。
「二度は言いません…。退いて下さい」
「だが、お前だけでは…」
ひゅっ
何かが空を切る。
それはジョンの拳。
そしてそれは、竜の顔面に向かって真正面から繰り出された。
そしてその時、隊員たちは確かに、15メートル級の竜が殴り飛ばされるのを見た。
殴られた竜が物理の法則に従うように転がり、地面との摩擦でその動きを止める。
先ほどまで激しく、荒れ狂うように動いていた場が、一気に波紋を無くした水のように静まり返る。
「次は…、何の前触れもなく行きます…」
「………わ、わかった。全員、撤退!」
『はっ、ハイッ!』
退くときにロゼルは初めて、ジョンの本気を見た。…気がした。
・・・・・・・・・
「さあて…、…覚悟はできてないなんて言うなよ手前ら…!」
グルオアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!
「殴られて頭に血でも上ったか?上等。そうでなければここに俺の残った意味がない」
ロゼルから貸された剣を構えて挑発する。
「来いよ…。本当は出したくなかったんだがな…。出し惜しみはしねえ。見せてやるよ…。この世にはいろんな奴が居るということをな…!!」
~北側~
最初は訳が分からかった。ただ―――、
自分の親父が、不可解な”何か”を会得して帰ってきていることを竜四頭の死体から見て取れた。
竜は、四肢全体を黒く焼かれるようにして鱗も、その下の肉もめちゃくちゃに切り刻まれ、等しく首を吹き飛ばされていた。
「お、親父…!?」
「…ん?ああ…。お前にはわからなかったか…。竜が…」
「何を言って…!?」
「私は約束みたいなものを竜とかわしたのだよ…。今回の旅はある目的のついでにその目的を果たしただけなのだ。8年前のあの日にゆっくりしている時間が無いと分かったからな」
「なんだよそれ…意味分かんねえよ!!なんなんだよ!?」
「…”Dの紋章”…」
倒れているディノの背後から声がした。なんとかして振り向くと城にいるはずのマックスがそこにいた。
「とうとう手にしてしまいましたか…」
「…ああ。すまない…。しかし、これしか道は残されていなかった…」
「いや、謝ることはありませんよ。所詮時間の問題だったでしょう…。運が悪ければディノが”紋章”を授かってしまったのかもしれません…」
「ああ。割とギリギリだった…。あと数週間…。いや、数時間の差だったかな…?」
「そうでしたか…。で、見たところ、相棒は”雷竜”といったところですか…?」
「ああ。なかなか反応が無くて困ったよ」
「なんなんだよ二人ともっ!!何の話をしてんだよっ!?」
置いて行かれていたディノがたまらず会話に割って入る。
「…後で嫌に成る程説明するよディノ。まずは先にこの窮地を脱してからだ」
「冗談を。あなたがその力を持ってきた時点で脱したようなもんです」
「過大評価しすぎだ。………が、否定はしないさ」
「そうですか。では行きましょ………ん?…ジョン?…まさか…!?………バルハラスさんっ!西側に行って下さい!!東側には私が行きますのでっ!」
それだけ言うとマックスは民家の屋根まで飛び上がり、屋根の上を走って行ってしまった。
「っとおいマックス!?………………行っちまいやがった…。あ、そうだディノ。メリアとサラは元気か?」
バルハラスが能天気そうにディノに聞く。
「…………………………な…」
ディノは―――、
肩を震わせて髪の毛を逆立てた鬼のような形相でバルハラスを睨みつけていた。
「ん?」
「ふざけんのも大概にしろよこのクソ親父ぃ!!」
まさにその一言は、今まで溜りに溜まっていた物が一気に吐き出される瞬間だった。
「今までどこ行っていやがったんだ!?親父が出て行ったせいでメリアは”感情”を無くしたんだぞ!?母さんの弔いにだって来ない!連絡もない!8年間!8年間もだぞ!?なのに今になってひょっこり帰ってきやがって英雄気取りかよ!ふざけんじゃねえ!迷惑をかけるだけ掛けやがって謝罪の言葉もなしか!?俺たちがどれだけ………、どれだけ………………、どれだけ苦労したと思っていやがるんだぁああああああああああああっ!!」
口の中に熱いものが込み上げてくる。
「げほっ!ごほっ!」
血を吐きだしてから改めて自分がどれだけ深い傷を負ったのか…。
まだ口の中が自分の血の味で満たされている。
「はぁ…、はぁ…、はぁ…」
「………………すまないな、…ディノ。…けど、お前を生かすためにしたことなんだ…。分からなくても………いや、いずれ分からなければいけないことなんだ…。お前が生きるために…」
「何をっ…!?」
「今はそれどころじゃない。向こうからサラが来る…。引きずってって貰え。じゃあ、また城で会おう」
「待ておやっ…!?ごほっ!!」
再び吐血。
その間にバルハラスは雷の如き速さで西側に行ってしまった。
「………畜生…。ちくしょおぉぉ…」
歯を食い縛って剣を杖に立とうとするが、やはり返ってくる反応は激痛のみ。
どうも両足が逝っている。
これではまず立つことすらままならないだろう。
片膝をつくことすら出来ずに仰向けにひっくり返る。
さっきまで怒りで痛みを感じていなかったからか、今更になって意識が飛ぶような勢いで激痛が全身を駆け巡る。
(………ああ…。妙に明るいと思ったら、今日は満月か…。今日の宴会じゃあよく食ったな………。………………………あれ?俺………、今………、何してんだっけ…?)
徐々に擦れていく思考。消えていく音。暗くなっていく視界。無くなっていく感覚。そしてディノは―――、
暗闇にその身を投じた。
急展開。と言わざるを得ない。
元々、こういう形にはしていこうと考えていたんですが、なかなか決まらず決まるまでちょいと放置してました。 ←(ダメだコイツ
またすぐに更新する予定です。…テストとか無ければ…多分…。
まあ、今後も気軽に読んでいってください。
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