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18話 特別優待券


 まずは気持ちを切り替るため宿屋を探そうと思う。

 私は荷物を背負い、街のギルドて冒険者カードを提示して宿泊先を紹介してもらった。ついでにお金を少し多めに引き出し、渡された街の地図を頼りに宿を探し始めた。


 ルナ都市に程近いアズールという街へやって来た。中心都市とは違いとても静かな街だ。

 多少迷いながらも紹介された宿を見つける。宿というよりも飲食店のような店構えだ。

 さっそく訪ねて店の中へ入った。テーブル席が4卓と、カウンターが設置されている。

 そのカウンターから店主だろうか、中年層の男性が私に気づいて声を掛けて来た。


「いらっしゃいませ。お食事ですか?」

「いえ、ギルドの紹介で宿泊しにやって来ました」


 私は尽かさず紹介状を差し出した。


「それはそれは、はい確かに。お客様お1人ということで宜しいですか?」

「はい。空いてますか?」


 店主はエプロンで手を拭きながら笑顔で答える。


「はい空いております。食事はこちらでもできますので、是非ご利用ください。ではご案内します」


 物腰の柔らかい優しそうな人だ。

 ああ、癒される、そうこれだよこれ。

 

 私は店主に案内されて2階へ上がった。


「こちらがお部屋になります。それとこれが部屋の鍵です。また何かありましたら呼んでください。ではどうぞごゆっくり」

「ありがとうございます!」


 私は部屋へ入り荷物を置いて、ドサッとベッドの上へ寝転んだ。

 天井を見ながらレオに頼まれた新種のことを考える。シルクウォームは蛾(が)の幼虫だ。私の知る蚕(かいこ)は、人間無くしては生きられない家畜になった昆虫。移動することも飛ぶこともない。

 小学生の時に学んだ記憶はあるが、蚕(かいこ)の種類は多かったと思う。これはもう未知の領域だな。特に期限は言われてなかったはず、気長に探していこう。


 なので、私は私なりに旅を楽しもうと、街の中を観て回ることにした。

 アズールの街からまたルナ都市に戻り、賑やかな商店街を探索する。

 ふと、店のショーウィンドウに"引換券配布中"と描かれたポップな貼り紙が目が止まった。内容を読むと、"レディアンダーパンツ3点セット他"と、当たるともらえる豪華商品が書いてあった。

 私は思わず「おおおおっ!」と小さく叫んで大きくガッツポーズをした。

 買い物するともらえる引換券。日本独特の通称ガラガラという画期的なプチイベント、やりましょう。


 いそいそと菓子店に入り、駄菓子感覚でクッキーをトレイに乗せ会計へ直行。

 いただきました引換券3枚。交換所へ向かい券を差し出すと、くじ引きと思しき箱を出された。

 ガラガラを期待してた分、ちょっと拍子抜け。当たり前だがここは異世界、当然よね。


「は〜い、こちらの箱に手を入れてクジを3枚引いてくださいね〜。さあ、何が当たるかしら〜フフッ!」


 ちょっとオネエ系の男性が体をゆらゆらとくねらせて言う。私は構わず箱に手を入れクジを3枚引く。

 するとベルの音がけたたましく鳴り響いた。


「あら、あらあら! ちょっと、大当たりよー! レディアンダーパンツが当たりましたー!」


 と、大声で周知しながら商品を渡すが、私を見てなぜか躊躇(ためら)う仕草をする――


「あら、男性ね。はい、メンズアンダーパンツ」


 こいつ……わざわざ男性用と交換するとか、余計なお世話としか言いようがない。悔しさのあまり私はその場で地団駄を踏む、差別だ、詐欺だ!

 そんな私にオネエさんが――


『はい、特別優待券。挑戦してみて〜フフッ』


 そう小さい声で囁(ささや)いて、1枚の券を差し出す。受け取って見てみると、表には"特別優待券"と、裏側には"裏ダンジョン挑戦券"と描かれている。なぜここでダンジョン?

 私はもらった券をポケットに入れ、クッキーの入った袋を片手に仕方なくその場を離れた。


 そこへ後ろの方から騒ついた声に振り向くと、人間の害虫らしき野郎達が、大手を振って歩いている。

 どこにでもいる、ヤンキーがチンピラを気取ったアホな奴。絶対的なサブキャラだ。

 モブとしては関わり合いになりたくないので、もちろん無視を決め込む。


「オラオラー! 邪魔なんだよー! スネーク団のお通りだ! チンタラ歩いてんじゃねー!」


 うわぁ、なんとダサいネーミング。センスの欠片もない、しかも古くさっ!


「ようよう、誰の許可を得てイベントなんかやってんだあ? まさかオレ達に黙ってとか言わねえよな」


 男達はそう言いながら、次々と貼り紙を破り始める。そして遂には交換所まで壊す始末。

 そこへ若い警備兵と数人の男達がやって来た。


「こらお前達! 王都で暴れるなと言っただろ!」

「これはこれは、チビッ子兵士に自警団の諸君、ご苦労さま。貴様らに用はねえんだよ、失せな!」


 自警団とはおそらく、私がボランティアでやっていた巡回パトロールと同じことをする人達だろう。

 しかし、随分と舐められた様子だけど……。


「なんだと! 俺達は日々鍛えてるんだ、いつまで弱いと思うなよ! 牢にぶち込んでやる!」


 ああ、やられてるんだあ……。

 まるでアルを見ているようで懐かしい。口だけは達者だったからなあ、なんとも危なっかしい。


「ほう、威勢(いせい)だけは相変わらずだなあ、オレらが負けたら牢でもなんでも入ってやるよ。ほら、来いよ」


 煽(あお)られた兵士と自警団が男達に向かって走り出した。初めは殴り合いのケンカが、いつしか武器の棍棒(こんぼう)を使い始めた。

 自警団も同じ棍棒で応戦するが、やはり戦い慣れしていない自警団は次々に倒れ込む。優勢に立ったスネーク団の連中が、これ見よがしに兵士に的を絞って襲いはじめた。


「オイオイ、さっきの威勢はどうしたよ。お前の腰にぶら下がってる剣はお飾りか? ここで決着をつけてもいいんだぜ。それとも怖いか? アハハ!」


 言われた兵士は堪らず剣を抜いた、言った男も剣を構える。ここまでくれば当然の成り行きだ。

 見渡せば街の人達も固唾(かたず)を呑(の)んで期待する。嘸(さぞ)かし悩まされ続けていたんだろう、止める気配は一向にない。

 

 はてさて、他に名乗り出る勇者はいないのか、やはり私なんだろうか、もう勘弁して欲しい。

 だってさ、私は旅行者で、部外者よ、来た早々ボランティアとかあり得ないよね。


 そうこうしているうちに、戦いが始まってしまった。剣と剣の火花が散る。

 見るからに力量の差は歴然、兵士は片腕に裂傷を負ってしまった。詰め寄る男の剣が兵士を襲う。

 私は仕方なく前へ出で、男の剣を拳で叩き割ってやった。


「は〜い、ストップ。勝負はついてるよ、無駄な殺生(せっしょう)はダメだ。ほら、もう捕まっちゃいなよ」

「貴様ー! 邪魔するな!」


 男は壊れた剣を捨て、尚も真っ赤な顔で向かってこようと構える。


「ハァ、しょうがないなあ、なら速攻で終わらせてしまおうか」


 私は言って瞬時に男の腹にボディーブローを喰らわし、軽いステップで残りの男達の元へ駆け寄り、怯んだ男達の頭をわし摑み、地面に顔を叩きつけて昏倒させた。

 そして私は兵士に歩み寄り——


「傷は勲章じゃない。ほら、さっさと連行しな」


 と、一回言ってみたかったくさい台詞を兵士に投げて、私はそそくさとその場を去った。


 ちょっと目立ち過ぎちゃった、モブ失格です。

 しかしこの国、なんだか異様な感じがする——

 


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