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[連載版]祖国に「死んでこい」と言われた王女ですが今日も敵国で元気です  作者: 蒼黒せい


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第8話

 馬車に乗り、案内してもらった孤児院は、確かに事前に聞かされていた通り酷かった。


 建物はあちこち倒壊し、これではすき間風が室内に吹き込んでいるだろう。子どもたちの服も擦り切れ、汚れたままの子もいる。見るからにやせ細り、今日を食うにも困っているのがよく分かる。

 まるでかつての自分を見ているようだと思った。


 まずは孤児院の院長と対面した。

 院長はすでに60を超えた、高齢の女性だった。

 他にボランティアの女性が1人。それに対し、あずかっている孤児は10人。

 明らかに人手が足りてないのは分かった。


「これが寄付金になります」


 ベアトリスは寄付金を入れた袋をテーブルに置いた。

 院長は震える手でそれを手にし、中を確認して驚愕した。


「こ、これは金貨ばかりではありませんか!?本当によろしいですか?」

「ええ」

「ありがとうございます!!」


 院長は大げさと思えるくらいに頭を下げた。

 しかし、お金だけあっても、子どもたちが食えるわけではない。

 ベアトリスは寄付金とは別のお金で、孤児院に食材を届けさせ、その場で炊き出しを始めた。


 ベアトリスは料理が出来ないので、担当は護衛として連れてきた騎士だ。

 騎士は野営を行うこともあるので、簡単な調理はできるとのこと。

 そこで、大鍋に野菜と肉をごった煮にし、パンを添えたメニューを孤児へと提供した。

 何もしないのはベアトリスの矜持に反するので、配膳を行った。


 これには孤児たちも大喜びで、ほとんどの子たちがお代わりをした。


「おかわり頂戴、お姉ちゃん!」

「ええ、少し待ってね」


 美味しそうに食べる子どもたちの姿を見ると、心が和んだ。

 催促されるおかわりを、快く引き受ける。


 そうして、ベアトリスは余った時間の大半を孤児院で消費するようになった。

 炊き出しの手伝い、子どもたちへの読み書きの教育、孤児院の清掃。

 メリッサがしかめっ面を浮かべることもあったが、気にしなかった。


 訪れるたびに孤児院はきれいになり、破損した部分も補修されていった。

 最初は食べられさえすればそれでよかった子どもたちにも、徐々に欲が出てくる。

 ベアトリスが孤児院を訪れるようになってから一月が経過したころ、ある男の子がベアトリスに一つのお願いをしてきた。


「ねぇベアお姉ちゃん!俺、魔法が見たい」

「ええ、いいわよ。小さいけれど、私が使えるから」

「ええっ!?本当?すっげー!」


 そう言うと、メリッサは驚いたようでベアトリスを見てくる。

 興奮している男の子をよそに、メリッサはこっそり耳打ちしてきた。


「ベアトリス様、魔法が使えたんですか?」

「ええ、小さいものだけど」


 ベアトリスが使える魔法は、火ならろうそくの火よりマシなくらい。

 日常生活では、薪の着火に便利なくらいだ。

 必要とされるレベルですらなかったため、あえて魔法については触れてこなかった。


「いい?使うわよ」

「うん!早く見せて!」


 わくわくと期待した男の子の表情を前に、ベアトリスは指先に魔力を集中した。

 しかし、そのときベアトリスの中で違和感を覚えた。


(あら、魔力が…多い?)


 今まで魔法を使おうと魔力を溜めても、指先にほんの少し溜まる程度だった。

 しかし、久しぶりに使おうとした今、指先にこれまででは考えられないほどの魔力が集まったのだ。


(これはダメね。魔力が多すぎる。少し絞って…)


 集まり過ぎた魔力を、あえて力を抜いて解放していく。

 ほどほどに魔力が減ったところで、ベアトリスは魔法を発動させた。

 その瞬間、子どもの握りこぶしくらいのサイズの火の玉が、ベアトリスの指先に現れた。

 これには子供たちはもちろん、ベアトリス本人も、メリッサも驚いた。


「すっげー!!ベア姉ちゃん、本当に魔法使えたんだ!」

「すごいすごい!」


 子どもたちは大興奮だ。

 一方、ベアトリスは内心首をかしげている。


(やっぱり魔力が多いわね。どういうことかしら。今まで小さい火しか出せなかったのに)


「ベアトリス様、どういうことですか。これのどこが小さいんですか?」


 メリッサの指摘はもっともだ。

 とはいえ、ベアトリス本人にも原因が分からない。

 試しに風を起こしたら強風が起き、洗濯したばかりの洗濯物が飛ばされてしまい、洗い直す羽目になった。


 孤児院から王子宮に戻ったベアトリスは、指先に魔力が集まる感覚に首を傾げた。


(う~ん、やっぱり魔力が多く集まってるのを感じる。どうしてかしら)


 これまでは爪の先ほどにしか魔力が集まる程度の感覚しかなかった。

 しかし今では指全体、いや、手のひら全体に魔力を溜めようと思えば溜められる。

 これで魔法を発動させたら、相当規模の威力になるだろう。


(それはいらないわね)


 手のひらを振り、溜めた魔力を解放する。

 そんなことに魔法を使う気はない。


 しかし、そうなるとベアトリス自身にも欲が出てきた。

 それは、今までは小さい魔力しかないからと諦めていた上級魔法が使えるのではないかという期待だ。

 上級魔法は発動の難しさもあるが、なにより魔力消費が激しい。

 以前に、ヴィンセントがホスティス国の王宮内に転移していたが、あれは相当な魔力を消費したはずだ。


 上級魔法は使える者が限られるが、国家運営において非常に有益でもある。

 つまり、民のために使えるなら、使えるようになっておきたい。

 ベアトリスはそう考えた。


 そこで思いついたのはヴィンセントだ。

 彼は上級魔法が使える。

 少なくとも転移が使えるのは自身の目で確認済みだ。


(そういえば、ヴィンセント王子とはあれ以来会ってないわね)


 あれとは、初日に王子宮を案内してもらった以来だ。

 この2か月、共有寝室で待ち続けているが、相変わらず来ない。

 ついでに言うと、それ以外でも一切顔を合わせていない。

 ヴィンセントとのやり取りは全てメリッサを介しているため、顔を合わせる必要もない。

 という状況だが、殺す相手だからということで、特に気に留めていなかった。

 殺せない状況には焦っても、それ以外はどうでもいいのだ。


 だが、上級魔法に関しては別だ。

 書物においても、上級魔法について記したものは少なく、おいそれと貸し出してもらえるとは思わない。

 なら、使える人間に教えを乞うのが一番である。


 なので、ベアトリスは早速メリッサに、ヴィンセントに上級魔法について教えてもらえないか聞いてもらうことにした。

 メリッサは真顔のまま、でも確実に嫌な気分だけを醸し出しながら、渋々了承した。

 そして翌日。

 ベアトリスとヴィンセントは、二カ月ぶりの対面を果たした。

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