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[連載版]祖国に「死んでこい」と言われた王女ですが今日も敵国で元気です  作者: 蒼黒せい


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第20話

 ベアトリスがソーシアス国に来てから4か月が経とうとしていた。

 その間、ベアトリスはずっとヴィンセントを毒殺する機会を狙っていた。

 父王に言われた通り、寝台で酒に毒を混ぜて飲ませて殺せという命令を律儀に守り続けた結果、肝心のヴィンセントが寝室に来ないというハプニングに見舞われ、暗殺計画は完全に頓挫していた。


 しかし、今日この日、ついにヴィンセントは共有寝室に姿を現したのだ。

 これにベアトリスはその時が来たのだと緊張に顔をこわばらせる。傍目には無表情に変わりが無いので、気付く者もいない。


「殿下、ついにこちらに来られたのですね」


 待ちに待ったためか、「ついに」などと口走っているがベアトリスは気付かない。

 ちなみに今日ヴィンセントがベアトリスと一緒に寝るつもりであることは、誰にも言っていない。本来であれば初夜であるのだが、何の準備もベアトリスにはされていない。いたって普通の寝間着を身に纏っている。


「ああ、なんだかあなたが恋しくなってな」


 ヴィンセントのさりげない言葉は、ベアトリスの耳には入っていない。

 彼女の目は、毒薬の入ったネックレスと、壁にあるお酒と、それを入れるであろう空のグラスを行ったり来たりしている。


(殿下が、グラスにお酒を入れたらそれにばれないように毒薬を…)


 そう頭でシミュレーションしていたら、ヴィンセントはそのままソファーに座らず、まっすぐに寝台へと向かった。


「さぁ寝ようか、ベアトリス」


 布団をまくり上げ、そこに乗り上げると、彼はサッサと寝台に横になり、ベアトリスに自分の隣に来るようにと横を叩いた。

 それにベアトリスは固まってしまう。


(あ、あれ。お酒を飲むはずでは?)


 彼の行動が想定と違う。

 それにあたふたしていると、彼はニコニコと満面の笑みを浮かべながら、ベアトリスに隣に来るように催促した。


「どうした?もう寝るんだろう?」

「………はい」


 ヴィンセントの様子は、全然酒を飲もうという気配がない。

 ようやく訪れた千載一遇の機会なのに、それを活かせない己の不甲斐なさに愕然としつつも、ベアトリスは彼の隣に並んだ。

 ヴィンセントは隣にベアトリスが並んだことを確認すると、布団を丁寧にベアトリスにかぶせ、自分も横になった。


「おやすみ、ベアトリス」


 そう言って彼は枕元のランプを消してしまった。

 あまりに淀みのない一連の動きに、ベアトリスは何か考える暇もなく、真っ暗闇の中で天蓋を見上げるしかできなくなってしまった。


(おかしい)


 そう思うも、しばらくすると隣から寝息が聞こえ始めた。

 もう寝てしまったらしい。寝た以上は絶対に酒を飲まないし、酒を飲まないなら毒薬も飲ませられない。

 ベアトリスは諦めるほかなかった。

 仕方なく眠ろうとしても、これまでと違い、隣に誰かがいるという気配と、わずかに感じる他の人の体温にどことなく居心地の悪さを感じ、結局寝入ったのはそれから数十分経ってからだった。



 それからヴィンセントは毎晩共有寝室を訪れ、そこで眠るようになった。

 その度にベアトリスは毒薬を飲ませるチャンスを狙うも、全く飲まないで寝台に潜り込んでしまったり、飲むと思ったら一口分だけをグラスに注いでサッと飲み干してしまう。

 そして彼は、自分が横になるとベアトリスも横になるように必ず要求してくるのだ。

 ヴィンセントに毒薬を飲ませるタイミングを逃した以上はそうするしかないのだけれど、ベアトリスはだんだんそれにドキドキするようになっていた。


(するわけじゃないのに、それでも緊張してしまうものね)


 ベアトリスとヴィンセントは殺し殺される関係。

 そう割り切っていたため、ベアトリスはあえて考えないようにしていた。

 だが、本来二人は夫婦なのだ。

 そうであれば、そこには世継ぎが必要になる。

 つまり、夜伽を行うのが健全だ。


 今のところ、ヴィンセントにそのつもりはないのか、一切そのような気配はない。

 そのような心配は不要なのだけれど、彼に寝台に呼ばれると、考えないようにしていた夜伽のことが脳裏をかすめるようになってしまった。


「どうした?早く」


 すぐに来ないベアトリスを催促するように、自分の隣を叩くヴィンセント。

 それにベアトリスはおずおずと彼の隣に並んだ。

 無表情なのに、その頬はほんのりと赤く染まっている。

 当人は気付いていないが、隣のヴィンセントはベアトリスの変化をしっかりと確認していた。


 そしてヴィンセントはいつも通りベアトリスに布団をかぶせる。

 しかし、今日はさらにそこからベアトリスのお腹側に腕を回し、自分の方にグッと引き寄せた。

 これにはベアトリスも驚きの声を上げる。


「殿下、どうしたんですか?」

「どうしたベアトリス?」


 しかし、ヴィンセントは何でもないかのように返してくる。

 聞きたいのは自分の方である。


「この腕は何ですか?」

「私の腕だ」

「そういうことではないです」

「では何と?」

「どうして私のお腹に回すんですか?」

「夫婦のスキンシップだ」

「…どうして今更?」

「今だからそういう気になったんだ」

「……はぁ」


(私は、何を聞いたのかしら?)


 結局、ヴィンセントのこの腕の意味が分からない。

 しかも、これまでは隣だけど少し距離があったのに、今では零距離だ。

 こんなに異性に密着されたことなど、ベアトリスの記憶には無い。

 前世の記憶にはもちろんあるけれど、どんな気持ちだったかなど思い出せない。

 ただ、今分かるのは、鼓動が自分の耳にはっきり聞こえるくらい大きく鳴っていることと、この状況が嫌ではないということ。


 結局、ベアトリスは何かを諦めたように、目を閉じた。

 すると、ベアトリスはあっさりと眠りに落ちた。

 初めてヴィンセントが隣に眠ったときは、落ち着かず数十分も起きていたというのに。


 自分の腕の中で、安心したかのようにすぐさま眠りに落ちたベアトリスの寝息を聞いたヴィンセントは、小さく体を震わせて笑っていた。

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