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[連載版]祖国に「死んでこい」と言われた王女ですが今日も敵国で元気です  作者: 蒼黒せい


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第18話

「ん……」


 瞼に光の刺激を感じ、ベアトリスはゆっくりと目を開けた。


(あれ、私、どうして寝てた?)


 どうにも昨日の記憶がおぼろだ。

 それに、身体がだるくて起き上がりたくない。あたまも、うっすら痛い。

 それでも何がどうなっているのか確かめようとして身体を起こしたところ、洗面器をもって入室してきたメリッサとばったり目があった。


「ベアトリス様!お目覚めになられたんですね!」


 彼女は駆け寄ると脇に洗面器を置き、額に手を当てる。

 ひんやりとした手が気持ちいい。


「…大丈夫ですね。もう熱は下がってます。お体の調子はどうですか?」

「だるい。あとは頭が少し痛い」

「そうですか。主治医は、魔法の使いすぎが原因だとおっしゃっておられました。今しばらくは、安静になさってくださいね?」

「……ええ」


 何故だろう、今日はいつにもましてメリッサの圧が強い。

 昨日のことを思い返そうとしても、どうしてかはっきりとしない。

 どれもモヤモヤと朧気で、現実だったのか夢なのか、分からなかった。

 なので、メリッサに聞くことにする。


「メリッサ、私は、昨日どうしたの?」

「…もしや、覚えていらっしゃらないんですか?」

「ええ」

「わかりました。では、私が分かる範囲で」


 そうしてメリッサは語り始めた。

 昨日は、朝の時点ではベアトリスはいつも通りどこかに転移したこと。

 夕方になりそろそろ戻ってくるだろうと部屋に入ったら、そこにはベアトリスが既に倒れていたこと。

 主治医に見てもらったところ、魔法の使いすぎによる脳酷使が原因だ。

 うなされていたベアトリスの看病を、ヴィンセントが一晩中見ていた。

 太陽が昇り、ヴィンセントは今は仮眠を取っており、起き次第また来るとのこと。


 それを聞いたベアトリスは、そっと青ざめた。


(…殿下に、毒薬を飲ませる夢を見たような気がしたんだけど、夢…よね?)


 メリッサが視線を外したタイミングで、ベアトリスはそっとテーブルに乗っていたネックレスを手に取り、宝石部分を外した。


(よかった、まだある)


 丸い丸薬が2つあったことを確認し、ほっと息をついた。

 いや、もし万が一飲ませていれば、もうヴィンセントはこの世にいないし、そうなれば自分もこんな寝台でのんきに寝させたままにならないだろう。

 それ以前に、それこそが本来の目的のはずだ。

 にもかかわらず、本当に飲ませていたら…なんて心配をした自分のことを不思議に思った。


(私、今、何の心配をしたの?)


 自分のことがよく分からない。

 きっと、魔法の使いすぎで変なことを考えているのだと思うことにした。


 大人しく寝ていると、ヴィンセントが仮眠から目覚めたということで、ベアトリスの下を訪れていた。


「ベアトリス、起きたか」

「はい」


 ヴィンセントはツカツカとベアトリスの下へと歩み寄る。

 そして、寝台脇に置いた椅子に座ると、じっとベアトリスを見つめた。

 そして、何のためらいもなくベアトリスの後頭部に自分の腕を回し、彼女の額に自分の額を合わせた。


「……ああ、もう熱は下がったようだな」

「……はい」


 その行為に、ベアトリスの白い肌がぽっと赤く染まった。

 おかしい。

 ヴィンセントは一体どうしてしまったのだろうか。今まで彼からこんなスキンシップをされたことは無い。

 それに、ヴィンセントの自分を見る目も、昨日と違う気がする。


(なんだか、とても目元が優しくて……甘い?…気がするわ)


 昨日までのヴィンセントは、もっとこう…しかめっ面とまではいかないが、きりっとしていたはずだ。

 なのに今はずいぶんと緩み、そんな顔で見られるとベアトリスはどうにも落ち着かない気持ちになった。


「倒れた原因は聞いたか?」

「はい。魔法の使いすぎだと」

「そうだ。だが、それはあなただけのせいではない。すぐそばであなたを見ていながら、あなたの不調に気付かなかった私にも原因がある」

「? それは違います」


 何を言っているんだろうと、ベアトリスは首を傾げた。

 魔法を使ったのは自分で、連日使い続けたのも自分だ。そこにヴィンセントは関係ない。

 だから否定したのだけど、ヴィンセントは悲し気にベアトリスを見返した。


「違わない。あなたが倒れたと聞き、私は自分を責めた。あなたが昨日、朝の時点で顔色が悪かったのに私は気付いていたのだ。その時点であなたを止めていれば、倒れることは無かった。だから、止めなかった私にも責任がある」

「だから違います」


 彼の謎論理にベアトリスは首を傾げたままだ。

 ヴィンセントがベアトリスの異常に気付いていたというのには驚きだけれど、やっぱり彼に責任があるというのが、意味が分からない。

 はっきり言ってベアトリスの自業自得でしかない。

 ヴィンセントには関係ないのだと言っているのに、今度は彼は嬉しそうな顔をしている。


「…優しいのだな、あなたは。だが、何と言おうと私にも責任がある」

「そうですか」


 優しいと言われても事実を言っただけだし、ヴィンセントが理解してくれそうにないことにベアトリスは諦めた。

 どうせいずれ、殺し殺されるのだ。こんな問答を繰り広げることに意味はない。


「理解してくれたようだな。とりあえず、あなたはしばらく魔法は禁止だ。体調が戻るまで、安静にするように」

「はい」


 言われなくてもそのつもりだ。記憶があやふやになるほどの状態に、わざわざ好き好んでなるつもりはない。

 ベアトリスの返事に満足したのか、ヴィンセントは笑顔のまま部屋を出ていった。


「さっ、ベアトリス様。体を拭きますね」


 お湯を張った洗面器をもったメリッサが、汗でベタベタになったベアトリスの身体を拭いていく。

 さすがに病み上がりでお風呂に入れてもらうのはダメらしい。

 新しい寝間着に着替え、水分補給に水を飲み、メリッサに見守られながら、寝台に横になった。


「ふぅ……」


 朝起きた直後よりも、体のだるさや頭痛はいくぶん和らいでいる。

 それでも、酷使した疲れはまだ残っているのか、起きたばかりのはずなのに、ベアトリスから穏やかな寝息が聞こえてきた。

 それを聞いたメリッサは、そっと扉に向かい、「おやすみなさいませ」と言い残して、部屋を後にした。

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