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[連載版]祖国に「死んでこい」と言われた王女ですが今日も敵国で元気です  作者: 蒼黒せい


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第15話

「ふう……」


 ベアトリスはその日の慈善活動を終え、王子宮に戻っていた。

 知らずに口から息が漏れる。

 窓から鮮やかな夕日が差し込み、もうすぐ日の入りとなるだろう。

 それを眺めながら、ベアトリスは椅子に腰かけ、ゆっくりと目を閉じた。


(身体が動きづらい。千里眼も視界が悪いし、どうしたのかしら)


 頭や腕、足だけではなく、体全体が重石を担いでいるかのように重い。

 それに、いつもは視界が良好な千里眼が、今日は視界の端に黒いもやがかかり、その上焦点も合いづらい。

 そのせいで転移もままならず、ベアトリスは少し早めに帰ることにしたのだ。


 部屋には誰もいない。

 少し早めの帰宅で、メリッサはいなかった。

 ベアトリスはコートを脱ぐ気力もなく、力なく椅子に座った。

 椅子に腰かけただけで自然と瞼が落ちていく。


(少し寝れば、大丈夫)


 まだ夕食までには時間がある。

 今日もきっと、ヴィンセントと一緒のはず。

 それまでに起きれば大丈夫だろうと、少し仮眠しようとしたところで、けたたましい鐘の音が鳴り響いた。


「何かしら…」


 重くなった瞼を必死に起こし、体も起こす。

 窓から外を覗くが、鐘の音ばかり聞こえて何が起きたのかが全然分からない。


(千里眼で……くぅ)


 千里眼を発動させようとしたところで、軽い頭痛が走った。

 しかし、鐘の音が鳴るということは、何らかの異常事態が起きているはずだ。

 そんなことを気にしていられないと、ベアトリスは無理に千里眼を発動させ、王城の上空から王都を見渡した。

 すると、王都の一角にある貴族街で、黒い煙と赤く揺らめく炎を見つけた。


(あれは、火事?)


 千里眼でさらに近くを見る。

 屋敷は既にかなり火の手が回っているようだ。

 周囲には人だかりができており、野次馬とそれを近づけさせないようにと衛兵が立ちふさがっている。


(屋敷の住人は、全員外に脱出できたのかしら?)


 すると、何か叫ぶようにしている女性と、それを必死に押しとどめている男性の姿があった。

 女性はすさまじい形相で涙を流しており、必死に屋敷に向かって何か叫んでいるかのようだった。

 千里眼では視界での情報しか分からないので、何を言っているかまでは分からない。

 しかし、ベアトリスはその様子から、一つの可能性に思い至る。


(まさか、中にまだ誰かいる?)


 それなら女性の必死な様子もうなずける。

 立ち上がったベアトリスはコートのフードを被り、すぐさま転移魔法を発動させた。

 すぐさま、自身の視界がさっきまで千里眼で見ていた光景と入れ替わる。

 その瞬間、一際強い頭痛が起き、顔をしかめてしまう。


(うっ……何なのかしら)


 原因不明の頭痛だが、今は後回しだ。

 突然現れたベアトリスに、泣き叫んでいた女性も、それを止めていた男性も呆気に取られていた。

 ベアトリスはすぐさま女性に話しかけた。


「屋敷にまだ誰かいるの?」


 ベアトリスの問いかけに女性はハッとしたように思いだしたようだ。


「そ、そうなの!まだ中には生まれたばかりの子どもが!早く助けないと!」

「無理だ!ここまで火の手が回っているんだ!今行けば君まで死んでしまう!」

「離して!やっと…やっとできたあなたと私の子どもなのよ!見殺しになんて…」


 女性は泣き崩れてしまった。

 それを男性―おそらく夫婦なのだろう―が、抱きしめていた。


(子どもがいるのね)


 すぐさまベアトリスは千里眼を発動し、炎に包まれる屋敷の中へと魔力の目を飛ばす。

 魔力の目は周囲の状況の影響を受けない。火の中でも水の中でも関係なしだ。

 一層強まる頭痛に耐えながら、ベアトリスは屋敷中を見渡していく。


「…見つけた」


 すると、屋敷の一室に籠の中に入った子どもの姿を見つけた。

 幸いにも火の手から一番遠い部屋にいたようで、まだ泣き叫んでいる。生きている証拠だ。

 だが、もう炎は部屋を包み込み始めている。

 一刻も早く救い出さなければ、そのか細い命の火は、無慈悲な炎に飲み込まれてしまう。


「水よ」


 ベアトリスは自分の頭上に自分の頭と同じくらいの水球を発生させ、そのまま落とした。

 水のはじける音がし、コートを濡らす。

 そのまま転移したとき、コートに火が移ることを避けるためだ。

 準備はできたと、転移をする。


「あっ…ぐぅ!」


 次の瞬間には、子どもがいる部屋に転移できた。

 だが、これまでで最も強い頭痛にうずくまる。

 ズキンズキンと痛むが、このままのんきにはしていられない。


(早く、あの子を救い出さないと!)


 強い熱気が喉を焼く。長居すれば、濡れたコートもすぐに乾き、燃えてしまうだろう。

 ベアトリスは泣き叫ぶ子どもを抱きかかえると、そこでハッとしたように思いだした。


(しまった…転移ではこの子を連れていけない。歩いて脱出するしかないわ)


 転移魔法には、自分自身しか転移できないという弱点がある。

 ヴィンセントがホスティス国の王城に単身で急襲を仕掛けたのも、それが理由だ。

 それをベアトリスは失念しており、迫りくる炎を前に立ち往生してしまった。

 部屋には窓があり、そこから外を見た。

 だがそこは3階であり、下までの距離は遠い。


(風魔法で落下の衝撃を和らげる?…いえ、今の私ではそれができるか…)


 さっきから魔法を使っていないのに頭痛が収まらない。

 こんな状態で、繊細な魔法を駆使することは難しく、自分はともかく、腕の中のこの子に大けがをさせてしまうかもしれない。

 そこで、ベアトリスの視界に野次馬が映った。

 そこで、一つの案を思いつく。


(そうだ、彼らに受け止めてもらえれば…!)


 ベアトリスは窓を開け、力の限り叫んだ。


「誰かーーーー!!」


 それに気付いた野次馬たちは、3階から身を乗り出した怪しいコートを羽織った人物へと視線を向けた。

 それを確認したベアトリスは、続けざまに叫ぶ。


「こどもがいます!もう屋敷の中は進めません!ここから子どもを落としますので、受け止めてください!」


 その声を受け取った野次馬たちは、すぐさま行動に移ってくれた。


「おいマジかよ!?」

「急いででっかい布もってこい!毛布でもカーテンでもいいぞ!」

「おい、これ持ってくぞ!」


 どこからか用意された布をもって、階下に男たちが集まった。

 そして、四方八方を掴み、子どもを受け止めるクッションを用意してくれた。


「いきます!」


 ベアトリスは窓から身を乗り出し、その腕に子どもを抱える。

 そして下をしっかり見据え、布めがけて子どもをそっと放した。


(お願い…!)


 子どもが無事に受け止められることを願う。

 すぐにボスンと音がし、子どもは無事に受け止められた。

 男の一人が泣き叫ぶ子どもを抱きかかえ、無事に受け止めたことをベアトリスに見せてくれた。


(よかった)


 緊張の解けたベアトリスは窓枠にもたれかかった。


「おい!次はあんただ!」


 そう言って、下では今度はベアトリスを受け止める準備をしてくれている。

 しかし、ベアトリスの用は終わった。

 なら、もうここにいる意味はない。


「っ!!」


 ベアトリスは特大の頭痛に襲われながらも、なんとか転移魔法を発動させた。

 見上げていた男たちは、ベアトリスの姿が突然消えたことに困惑し、顔を見合わせていた。


「な、き、消えた……?」

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