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[連載版]祖国に「死んでこい」と言われた王女ですが今日も敵国で元気です  作者: 蒼黒せい


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第11話

「14です」

「…当たりです」

「……見事だ」


 ヴィンセントが最初に始めたのは、『千里眼』だ。

 千里眼には直接人を害することはできない。いわば覗き見するだけの魔法だが、敵の情報を筒抜けにするので戦略的価値は高い。


 まずできなくてはならないのは、自分の視界を目とは別に作ることだ。いわば魔力の目とも言うべきものを作り上げる。

 これは視認することができないので、見ていることがバレることはない。


 ソーシアス国には千里眼を使える者がいなかったため、ヴィンセントは魔法書を読み込んで、我流で使えるようになった。それにかかった期間はおよそ半年。『魔法の異端児』とまで称され、魔法の天才と謳われたヴィンセントですら、それほどの苦労を強いられたのだ。


 だが、そのヴィンセントの半年の苦労を、たった1日…いや、1時間で塗り替えた化け物がいる。

 ベアトリスはヴィンセントの語る千里眼の感覚を、見事自分の中に落し込み、あっという間に魔力の目を作り上げたのだ。

 まさかと思い、ヴィンセントはティルソンに、メモ帳に何らかの数字を書き、それをベアトリスの方向からは見えない位置に持ってもらった。

 それをベアトリスに読んでもらったのだが、ティルソンは当たっていると告げた。


 これには散々天才と謳われたヴィンセントは膝から崩れ落ちかけ、すんででこらえた。


(ありえないだろう…!いくら師がいなかったとはいえ、こんなにもたやすく使えるとは。一体、彼女の才はどうなっている?)


 ヴィンセントは師としてのプライドを必死に保ちつつ、ベアトリスへ身体への異常はないか尋ねた。


「問題ありません」


 そうけろりと答えられ、ヴィンセントは顔をひきつらせた。

 彼が初めて魔力の目を生み出した時は、過集中と魔力の過剰流入により魔力不足、そして自分の視界とは異なる視界による酔いで倒れたというのに、問題無いというのだ。



 一方、初めての上級魔法である『千里眼』に、ベアトリスは相変わらず無表情を保っているが、その内心はすこしワクワクしていた。


(これが千里眼なのね)


 自分の目で見ている風景とは別の風景が頭の中に流れ込んでくる。

 これがヴィンセントも見ている光景なんだと思うと、少しだけ彼に親近感がわいた。

 ヴィンセントの言うところでは、魔力の目を遠くに飛ばすほど魔力消費が激しくなり、視界も狭まるという。


(どのくらい見えるのかしら)


 気になったベアトリスは、魔力の目を上に飛ばした。

 自分の姿を、上から見下ろすように見るというのは何とも不思議な感覚だ。

 さらに上に飛ばす。

 徐々に城の全景があらわになり、王都が一望できるようになり、さらに飛ばすと細かい地形が見えなくなり、緑や山ばかりになった。

 もっと飛ばすと、青い何かが緑を取り囲んでいる。緑はひし形に近い形をしており、それを見たベアトリスは、自分が今アイアスピス大陸を一望していることに気付いた。


「わぁ……」


(すごい…本当にこの大陸はひし形の形をしているのね。気付いた人も千里眼を使ったのかしら?ということは、周りの青いのは海なのね。ああ、その先にも大陸があるわ)


 知らず、感嘆の息が漏れる。

 そこに、ヴィンセントは少し消沈した様子ながら話しかけてきた。


「ベアトリス、あなたは今何を見ている?」

「大陸を見ています」

「大陸…?」

「はい。アイアスピス大陸は、本当にひし形なんですね」

「…待った。あなたは今、魔力の目をどこまで飛ばした?」

「わかりません。アイアスピス大陸の形が見えるくらいにまで飛ばしました」


 そう言ったら、ヴィンセントは背を向けてしまった。

 何かブツブツ言っているように聞こえるが、ベアトリスの耳には届かない。

 ただその背中には哀愁のようなものが漂っている気がした。


(疲れているのかしら?)


 見当違いの心配をしつつ、ベアトリスは魔力の目を解除した。

 しばし瞬きを繰り返し、消えた視界との違和感を打ち消していく。

 ヴィンセントのいうような不調は感じない。

 きっと、もっと遠い場所を見ると起きるのだろうと考え、ベアトリスは意識を切り替えた。


「殿下、御指南ありがとうございます」

「……ああ、うむ。無事に習得できたようで何よりだ。不調は無いか?」

「無いです」

「………そうか。だが、後で起きるかもしれない。今日は大事を取ってこの辺にしておこう」

「わかりました」

「では、今日はこれで」


 そう言ってヴィンセントはティルソンと共に庭を去っていった。

 なぜか、ティルソンがヴィンセントの肩に手をのせ、慰めているように見える。


(どうしたのかしら)


 ベアトリスにはその理由が全く思いつかない。

 隅で見ていたメリッサがベアトリスに歩み寄り、声を掛ける。


「お疲れでございましょう、今お茶の準備をいたします」

「疲れてないわ。だから要らない」

「………左様ですか」


 メリッサの顔も引きつっているように見え、ベアトリスは首を傾げた。


(どうしたのかしら。私よりも、みんなのほうが疲れていそうね)


「戻るわ。あなたは休みなさい」

「いえ、私は大丈夫です」

「そう」


 疲れているかと思ったけど、そうでもないらしい。

 つくづく、よく分からないとベアトリスは部屋に戻りながら思った。



 一方、執務室に戻るヴィンセントの足取りは重い。


「…え~と、どうだったの?」


 ティルソンの問いかけに、ヴィンセントの口は重かった。


「……天才だ。私など、足元にも及ばぬほどのな」

「本当?」

「私の半年を、1時間で習得したんだ。あれを天才と呼ばないなら、私は凡人未満になる」

「適性があったとか、そんな話じゃないの?」

「それは私にも分からない。だが、それを抜きにしても、私をはるかに凌駕する魔法使いだ」


 かつて千里眼を習得したとき、ヴィンセントもベアトリスと同じく魔力の目を上に飛ばしたことがある。どこまで飛ばせるか、その限界を試したかった。

 だが、魔力の目は上に飛ばせば飛ばすほど魔力は消耗し、視界はだんだん狭くなる。

 ヴィンセントが見れたのは、かろうじてアイアスピス大陸の輪郭を捉えた程度だ。それもほとんど一瞬で、次の瞬間には魔力切れで昏倒したほどに。

 それが、ベアトリスは平然としていた。嘘を言ったとは思えない。そんな見栄を張る意味が無いからだ。


 ソーシアス国一の天才と謳われたヴィンセントが、足元にも及ばない魔力の量とセンス。

 それがベアトリスだ。

 この才があれば、ホスティス国はソーシアス国などたやすく蹂躙していただろう。

 だが現実は、彼女の才はソーシアス国に来てから開花した。

 それはソーシアス国にとって救いであり、ホスティス国には大きな損害だ。


「ヴィンセントがそこまで言うなら……やるなら今のうちだよ?」


 ティルソンの発言に、ヴィンセントは眉をしかめた。

 それは、殺すなら今のうちということだ。

 ヴィンセントすら上回るなら、それは魔法において彼女の右に出る者はこの大陸にはいないと言っても過言ではない。

 その彼女が、本気でソーシアス国に牙をむけばなすすべはない。

 ティルソンの提案に、ヴィンセントは間髪入れず頭を横に振った。


「いや……それはダメだ」

「じゃあどうする?口説き落とすかい?もう夫婦だけど」


 軽口のように次の提案をしたティルソン。

 ヴィンセントは、ベアトリスの金の瞳を思いだしていた。

 黄金に煌めくそれには、少女の無垢さと王族の気高さの両方が秘められている。

 あの瞳に、ヴィンセントは完全に魅せられていた。

 同じ王族でありながら、自分の方がひれ伏すべきだと思ったほどに。


 そんなヴィンセントに、ベアトリスを排除するという考えはもうない。

 たとえ、彼女がヴィンセントの暗殺を企んでいようと、それを防ぎ、彼女を手に入れる。

 それが、ソーシアス国にとっても、そして自分にとっても最善の道であると思って。


 それなら、ティルソンの提案は尤もだ。

 もう夫婦ではあるが、心は他人のまま。

 いや、ヴィンセントのほうがいくらか傾倒しており、ベアトリスの方はヴィンセントをどこまで想っているかは全く不明だ。


「…そうだな、口説き落とす。そして、彼女を手に入れる」

「わぁ、本気だね」


 ヴィンセントの宣言に、ティルソンは楽しそうだ。

 口説き落とすのはヴィンセントの役目だ。

 まさか、自分より8歳も年下で、魔法の才をはるかに凌駕する相手を、しかも無欲の少女を口説く。

 そんなことを、これまで王子として引く手あまたの自分がやろうとしていることに、ヴィンセントは苦笑した。


「ああ、そうだな。どうやら……思った以上に、私は彼女に惹かれているようだ」

「…もしかしてヴィンセントって、ロリ…いたぁ!?」


 不名誉な称号を付けようとした側近の背中を、ヴィンセントは容赦なく張り倒した。

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