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幸せになりますように。  作者: かめ
ふたりぐらし

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第七話 店長と友人

 秋葉のバイト先は、東町からバスでしばらく、繁華街にある居酒屋である。この辺りでは比較的大きな駅前にあり、まだ若い店長の創作料理が人気の個人店。

 20席ほどしかないこじんまりした店だが、常連も多く楽しく働けるのが気に入っている。


「お疲れ様でーす!」


 お店に入ると、店長が奥のキッチンから顔を出した。


「おう、草苅ちゃんお疲れ。大変だったな、大丈夫か?」


 まだ開店前、店長はラフな格好で、エプロンだけつけている。下ごしらえ中だろうか。


「はい、ご迷惑をおかけしました。大丈夫です」

「迷惑なんてこたないよ。気にすんな。まー…色々大変だろうけどさ。なんかあったら頼っていいから」


 店長は少し言いにくそうにしながら頭をかき、ポケットから封筒を取り出した。


「少ないけどこれ香典」

「そんな……!!!いただけません!」

「いーからいーから。もうすぐ草苅ちゃん辞めちゃうんだしさ、いっぱい働いてもらってこっちも助かったし、本当気にしないで受け取ってよ」


 店長は笑みを浮かべながら、香典袋を秋葉に押し付けた。


「………すみません」

「だーから謝らなくていいの。俺さ、もちっとパソコン作業したいんだよね。草苅ちゃんお通しの準備だけしといてくんない?」

「はい!」


 急遽シフトを休むことになって、迷惑をかけたのに香典までもらってしまい、秋葉は力強く頷いた。そう思うとまた迷惑じゃないと怒られてしまうだろうか。店の奥の店長スペースに引っ込んだ店長に代わるため、秋葉はロッカーでエプロンをつけ、手を洗った。


(今日のお通しは……ごぼうのサラダか)


 ごぼうを茹でて、人参と一緒にマヨネーズで和える人気メニュー。作り方を反芻しながら、秋葉はごぼうを洗いにかかった。これなら恵も食べてみるかな、作ってもいいな、お父さんも好きだったから仏壇に御供えしてもいいかな。


 そんな思いでお通しを作り始めたら、バイトの時間はあっという間だ。



 *



「あれ?恵比寿じゃん珍しいな」


 服の着替えを持ってこいと言われていたのを奇跡的に思い出して、神界に帰ってきた恵を見つけて声をかけてきたのは、鮮やかな金色の髪がよく目立つ男だった。


高日子(たかひこ)か」


 神界には神々が大勢住んでいる。神はそれぞれ得意不得意分野があり、各々の管轄をそれなりに統治しているのが原則だ。

 長い名前を持つ神が多く、お互い好きなように呼び合っている。彼は、いわゆる雷神。雷様と地上では呼ばれている神だった。


「……服を受け取りに来た」

「えーー珍しいね!いっつもボロボロになるまで地上で着古してからしかこないのに」


 暇なのだろう。そもそも神というのは暇なものだ。高日子も一緒に針子屋についてくるのか、恵の隣を歩き始める。


「どうよ、地上は」

「まぁ大きく変わりはないな。お前、最近やる気がある時とない時が激しいぞ」

「えーだってさ、毎回毎回本気で雷落としてたら疲れるんだもんよぉ」


 草履を引きずってプラプラと歩く高日子が、道端の小石を蹴飛ばした。行儀の悪い奴である。恵はため息をついた。


「で?どうしたんよ。何かあった?」

「…………あーーー……」


 一瞬悩んだが、別に隠すことでもなんでもないので端的に話すことにした。


「……世話役の女に着替えろと言われた」

「へー、汚かったか」

「汚くはない。ただまぁ、しばらく共に暮らすことになったから」


 高日子の足が止まった。

 振り返ると、高日子は口をあんぐり開けてぽかんとしている。


「………は?誰が?誰と?」

「だから俺が、世話役と」

「いやいやいやいやだからとか言われても全然分かんねぇし!ますます珍しいじゃんお前〜〜!詳しく聞かせろって。いつも海ばっか見てくそ真面目に人間と距離置いてるお前がさ〜〜。え、どうした?」

「………うるさい」


 高日子は絶対面白がっている様子で、恵の肩に腕を回した。離さない、という圧を感じる。


「ま、いいんじゃないの〜。人間と付き合うのもさ、勉強というか恵比寿に深みがでるかもしれないしな〜。どんな子どんな子?今の世話役、かわいい?」


「……………お前ほんとうるさい」


 高日子の腕を振り払ったが、その様子にますます面白くなったらしい。


「可愛いんか〜。いいなぁ可愛い世話役なんてさ。お前が色気付くなんて面白すぎる」

「色気?馬鹿いうな。人間はすぐ死ぬ。俺はただ世話役が大変そうだから、慣れるまで一旦同居を提案しただけだ。あと風呂が気持ちよかったのと、若い女が夜神社まで通うなんて危ないだろ」

「ふ〜ん?ま、いいけど。どんな子?」

「………難しいが、感情の変化が忙しない。見てて飽きん」

「へーー面白そう。今度遊びいくね!」


 笑顔の高日子に、「絶対来るな」と念押しをするが、無理だろう。興味を持った神のことは、神でも止められない。


「恵比寿はさ、確かにもっと人間と話したり絡んだりしたほうがいいよ。世俗に置いていかれすぎると、役目なくなっちゃうぜ」

「…………そういうのは苦手だ」

「だから今の子がいんじゃん。せめてその子がいる間はさ、他の神みたいに地上で暮らすのもありかもよ」


 確かに、恵は神の中でもかなり人間と一線引いている方だ。高日子もだが、ちょくちょく人間に混じって人間のように生活をする神たちもいる。神だけの世界は面白くない、何も変わらない。人間と遊ぶ(という言い方をされる)ことはままあることだった。


 しかし、なぜだか、自分でもよく分からない。その高日子の言い方に何かが切れた。


「………そんなあっという間みたいな言い方するな」


 そのままつかつかと針子屋に歩いて行く。


「………………え、ガチじゃん」


 高日子は今度こそぽかんと、恵のことを見送った。

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