第十五話 パフェ
「えっ」
「店長と」
『デートした!?』
未来と絵麗奈に店長のことを話すと、二人とも勢いよく食いついた。おかしい、卒論を書くために大学の近くのファミレスにパソコン持って集ったのに、結局は社会に対する愚痴や不安、恋愛や同級生の噂話に花が咲いている。
そんな中でも一番のトークテーマと挙げられてしまったのが店長であった。あぁ、ごめんよ店長。そしてこうなると完全に卒論は蚊帳の外である。
と言っても、さすがに彼は推しの配信者ということは話せないので、当たり障りのない範囲でデートの内容を聞かせると、二人とも感心していた。
「なんか…本当に秋葉のこと好きなんだね」
オレンジジュースのストローに口をつけながらの感想は絵麗奈。
「そうかな〜、なんかつけ込まれてない!?」
とやや心配性な意見は未来である。
「……うーーん、二人の言ってることも分かるんだよ〜」
秋葉もピンとくるようなこないような、すっきりしない部分もあるので相談しているわけだが、やはり世間的に見ても分かれるのだな、と思う。
「私今まで付き合ったのって、こんな感じなんだよね」
手元のコーヒーカップに視線を落とすと、目の前の二人も聞く姿勢に入った。
「好きかもって言われて、デートとかして付き合って、誕生日とか祝ってさ。でもあんまり満たされたことはなくってさ」
「秋葉モテるもんね、可愛いし」
「それが悪い恋愛ではないと思うよ」
「そうなのかな。なんか、不安になったりするっていうかさ。本当に好きな人とか、本当に一緒にいて楽しいとか、そういうの大事なのかなって」
思いの外重い相談になってしまった。目の前の絵麗奈と未来も、うーんと難しい顔をして考え込んでいる。
「秋葉は、店長さんのことすき?」
絵麗奈が優しく微笑んだ。
「少しでも好きなら、付き合ってみていいと思うよ。関係が深まらないと分からないこともあるんだし」
「うんうん!!ダメだったらまた別れればいいよ!男なんてまだまだいっぱいいるし!!」
「もー、未来落ち着いて。……けどね秋葉。好きじゃないんだったら、だめだよ。好きなのか好きじゃないのか、よく考えないと」
「う〜〜〜〜それが難しいんだよう」
テーブルに頭突きをする。ガン!と音がしてヒリヒリと額が痛んだ。
「好きってむずかしい。勿論店長は好きだけど、それが人としてなのか恋なのか分かんないもん。どうやって分かるんだろ」
「秋葉はさ〜難しく考えすぎなんだよ!賢いちゃんだもんね!」
未来はファミレスのメニュー表を見ながら明るく言う。そういえば、未来は未来で明るく社交的で、友人も多いしよくモテる。
「恋はさ、一緒にいたらドキドキしたりきゅんっ、てしたりするから分かるって!そーんな難しく考え込むんじゃなくて、心で見るのよー。Don't Think Feel、よ!」
「なにそれ」
絵麗奈が冷静に未来に突っ込んで、秋葉は笑った。友達と話すのはいい。明るく笑える。
妙に真面目な顔で英語を発音したあと、ころっとパフェたべるー?と未来がメニューを渡してきた。考えすぎているのは分かっているだけに、甘いものが恋しくなっている。
「抹茶パフェにする」
メニューを返してパソコンの画面に目を落とす。結局ほとんど進まなかったが、これが楽しいのである。
*
「ただいま〜」
玄関の方から声がして、恵は起き上がった。もはやこの柔らかい椅子は恵の居所として確立しており、昼間は大抵ここに寝転がって相変わらず人間の願いを聞いたり聞かなかったりしている。
これはまた座り心地がよいもので、これに慣れてしまうと神社の本殿に戻れるかどうか怪しい。
「おかえり」
恵は玄関に迎えにでる。なんとなくそれが日課になっていた。帰った直後の弾んだ白い息と、纏わりつく冷たい空気は比較的好きだ。
大抵買い物をして帰ってくる秋葉だが、今日は朝の荷物と変わりがないように見える。
「今日は何も買わなかったんだな」
「あぁ、えと、ちょっとお腹いっぱいで」
秋葉が視線をそらした。
「友達とデザートいっぱい食べたからお腹空いてなくて、晩御飯はいっかな〜と思って。恵様だけ食べます?ご飯はありますし」
「食べないなんてことあるのか」
驚いて聞くと、秋葉ははいと頷きながら荷物を床に置いた。重いものが入っていそうな、ドサッと音がする。
「それこそ父が死んだ時はしばらく食べ物は喉を通りませんでしたし、今日みたいに友達と外で食べたら家では食べないですね。あ、でも恵様は食べますか?ご飯はあるし、簡単なものなら…」
そう言いながら台所に立つ秋葉は、着ている服の袖をめくった。そこから伸びる腕は細い。思わず手が伸びて、秋葉の腕を掴んだ。
秋葉のそれは恵の指が余る細さで、思わず怯む。あまり強く掴むと折ってしまいそうな気さえした。
「秋葉。お前細いぞ。ちゃんと食え」
「食べてますよう。食べたからお腹いっぱいなんです」
「痩せすぎなんじゃないのか。まるで普段から何も食べてないみたいじゃないか」
「まぁ、最近は風邪もひいたし体重は落ちましたけど。そんなやばいもんでもないですよ」
「そうか?心配になるぞ。大体私は秋葉と夕食を共にするのが楽しいだけだ。お前が飯を食わないのなら別にいい!」
最後は少し乱暴な言い方になってしまっただろうか。
秋葉と過ごす貴重な時間だと思っていたが、向こうは気にもとめていないようなのが腹が立つ。待っていたのに、いらないとはなんだ。
秋葉はぽかんとしたあと、慌てたようにぶんぶんと手を振った。
「あっ、ごめんなさいそうですよね!連絡せずにすみません!」
「……謝らせるつもりはない。とにかく、お前がいらないなら私も不要だ。毎日作ってもらって感謝はしているからな」
楽しい。そう、楽しいのだ。
今まで恵にとって食事というのは、現実世界で実体を得るために定期的にとるものでしかなかった。不味くもなければ旨さもない。
ひたすら、作業のように食べるだけ。
それが、いつのまにか楽しい時間に置き換わっていたとは自分でも意外だった。




