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幸せになりますように。  作者: かめ
秋葉と店長

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第十二話 お粥

登場人物

----草苅秋葉(くさかりあきは)

22歳の女子大生。明るく素直な性格。"居酒屋 たくみ食堂"にてアルバイト中。父が亡くなり、恵の身の回りの世話をすることになる。巧チャンネルのファン。


----十日恵(とおかめぐみ)

恵比寿様の本当の姿。今まで草苅家が世話役として身の回りの世話をしていた。秋葉の家に同居中。


----宍戸拓海(ししどたくみ)

"居酒屋 たくみ食堂"の店長で、巧の名前で動画配信活動もしている。チャンネル登録数10万人。秋葉に好意をよせている。

 

 店長はなんだかこなれていた。

 ふらふらとしている秋葉を、ひとまずソファーに寝かせて毛布をかけた。体温計と、買ってきてくれたポカリのキャップを開けてご丁寧にストローを挿してから渡してくれた。

 甘くしょっぱいポカリが身体に沁みていく。


「水分だけはとらないとダメだよ。薬は?」

「………まだです」

「台所借りていい?お粥くらい作るよ。それから薬飲もう」

「いやいや、そこまで…………」


 遠慮しようとしたが、あまりにも身体に力が入らなかった。そのタイミングでピピッと体温計が鳴った。

 ゴソゴソと毛布の中で体温計を脇から取り出すと、39.4℃。秋葉は自分で感心してしまった。うわぁ、すごい熱だ。


 店長が体温計を覗き込んでくる。


「あらー、草苅ちゃん、すごい熱。いいから大人しくしてて。台所借りるよ」


 そこからの店長はさすが店長だった。知らない台所なのにまるでお店のようにぱっぱと動き、鶏肉とネギと卵を入れたお粥があっという間に完成した。


「いっぱい作ってるからさ、まずはちょっとだけね」


 そう言って、店長は小さめのお椀にほかほかのお粥をよそってくれた。

 スプーンでお粥を少し掬うと、湯気が顔に当たってふんわりと温かい。火傷をしないように少し口に運んだ。だしが効いていて、それでいて味は濃くなく、高熱でも食べやすく、おいしい。


「……おいしい、です」

「そか、よかったー」


 そう言いながら店長は使った包丁やらをぱっぱと洗い

 片付けてくれている。


「お代わりいる?」

「ううん、今は………いいです。あとでもらいます……。本当にありがとうございます」


 店長はにっこりと笑って、お粥の椀も回収して洗ってくれた。正直家事をする余裕はないから、とても助かる。「薬どこー?」と聞く店長に場所を教えると、そこからテキパキと薬を飲まされた。


「店長、すみません…ありがとう」

「気にしない気にしない。病人は大人しく寝てなさい」


 あらかた終わった店長が、タオルで手を拭いて、ソファーにの横に座った。その顔は少し申し訳なさそうだ。




「ごめんね、急に押しかけちゃって。でもあんなことがあったばかりだし、一人だと色々不便かと思ってさ。ほら、俺一人暮らしのベテランだし」


 ははっと笑って、そのあと右手で後頭部をぽりぽりとかく。店長の照れたときの癖なのだろう。


「あと昨日のこともあったから………その、もしかして昨日も体調悪かったかな、ごめんね」


 ぐぐ。実際、昨日秋葉は何ともなかったが、まだ考えきれていない、気まずい話題だったので無言で乗り切る。


「急にごめんね。あんまり言うつもりはなかったんだけど………困らせちゃうよね。でも、本心だからさ、つい出ちゃってね」

「……いえ」

「配信も草苅ちゃんが嫌ならやめるし、でも今草苅ちゃんが忙しいのも分かってるから。ゆっくり考えて、いつか返事聞かせてくれると、嬉しい」


 店長は照れていた。そこまでゆっくり、言葉を選ぶように言うと、照れを振り払うようにぱっと明るくおどける。


「なーーんてね。さてさて、病院は布団でゆっくり寝なさいね。俺はそろそろ帰るよ」

「………はい」


 立ち上がると、そっと店長が背中を支えてくれた。いちいちスマートである。



「部屋はどっち……」



 ふらふらとしながら、店長に支えられながらリビングを出ると。そこには恵が立っていた。

 廊下の壁に身を預けている恵は、どこか不機嫌そうだ。相変わらずいつもの着物を着て、肩まである黒い髪はざっくばらんだ。あまりにもいつも通りの姿で一瞬ギョッとするが、そういえば姿は、秋葉以外の人間には基本見せないようにしていると言っていた。

 きっと店長にも見えていないだろう、と不自然にならないように視線を外す。


「うわっ!!!!」


 そう思ったが、店長がびっくりして声をあげた。

 秋葉にはいつもと変わりないように視えている。そして、店長も視えているようだった。店長は物凄く驚愕した顔で、恵を見ていた。

 もしや、姿を隠していない。


「…………」


 不機嫌そうな恵が、背中に回された店長の手を振り払った。そのまま恵の手が腰に回され、支えられる。


「…………部屋には私が連れていく」


 半ば強引に、恵が秋葉を連れて振り返った。そのまま、自室の方に連れて行かれる。


「………あ、てんちょう。ありがとうございました…」


 それだけ口にする間にも、ずんずんと運ばれるから、店長に聞こえたかどうかは分からない。今度のバイトでなんて誤魔化そう、と思ったが、今は頭が回らない。



 *



 何やら面白くない。

 秋葉の自室に入り、秋葉を布団に寝かせる。熱で朦朧としている秋葉は大人しく布団にくるまって、息が荒い。

 そのまま部屋を出て先ほどの廊下に戻ると、秋葉に想いを伝えたとかいう男が、まだ立っていた。


「…………あんた、誰」


 男は恵のことを睨みつけている。明らかな敵意と警戒感が伝わってきた。

 あまり後先考えずに、ほとんど威嚇のように姿を現しただけだから言い訳を何も考えていなかった。しかし、こういうときに正直に答える必要がないことを、恵は知っていた。


「さぁ?誰だろうな」


 腕を組んで、正面から相対するのも何なので壁に背を預けて視線を外す。


「………親戚か何かか?」

「さぁ。そんなところかもしれない」


 明後日の方を見てそうはぐらかすと、男はさらに苛ついた顔をした。

 恵の中では挑発というより、答えるいい言い訳が思いつかなかっただけなのだが。ただ苛ついていることは確かなので、それを隠すこともしなかった。


「あんたまさか、草苅ちゃんにかわいいとかって言った奴か?」


 思わぬ方向から話が飛んできて、少し驚いた。秋葉が酔っ払った日、思わずそう言ってしまったのは記憶に新しい。


「…………だとしたらなんだ?お前には関係ないだろう」

「やっぱりそうか」


 沈黙。やがて、男が恵を睨みつけたまま言った。


「あんた、草苅ちゃんのこと好きなの?」

「好きだ嫌いだ、人間はいつもそう決めつけるな。俺は今あいつを見守るだけだ」

「はぁ?何様?」


 男が恵の胸ぐらを掴んだ。


「草苅ちゃんが具合悪いのにほっとくだけで、見守ってなんかないだろ。ただ放置してるだけだ」

「……………」



 無言で男を見下ろす。確かに、男は甲斐甲斐しく秋葉の面倒を見ていた。なるほど、具合の悪い人間にはあれが正解なのだろう。

 それに関しては確かに自分の落ち度である。


「…すまなかった。ちゃんと見ておく」


 素直に言うと、男は逆に困惑したようだった。ゆっくりと恵の胸ぐらを掴んでいた手を離す。


「……ムカつくけど、悪い奴ではなさそうだな」

「…………はぁ」


 なんだか勝手に解釈されて、勝手に怒られ、勝手に完結された。やはり気に入らない。


「これだけは言っておく」


 男に近寄った。なかなか整った顔立ちをしている。しかしどこか少年のような、そういった雰囲気の男だった。


「………あんまりあいつを困らせてやるな」

「は?」


 男の空気がまた剣呑になった。


「家族が亡くなってただでさえ心労があるんだ。惚れただのそんな奴に言うことではない。困らせるって分かっているなら隠せ。…ましてや病気で弱っているところを押しかけて部屋にまで入ろうとした」

「いやっ、それはだから…」

「下心など全くないと言えるのか。俺には見える」

「ッ…………」


 男が黙り込んだ。


「…分かったら帰れ。俺が秋葉のことは見ておくと約束しよう」

「…………分かった。帰る」


 不本意そうに舌打ちをした男は、踵を返して玄関へ向かった。靴を履きながら、また口を開く。


「………あんた、偉そうでムカつくって言われないか」

「よく言われる」


 そう返すと、男が笑った。


「またくる」

「遠慮しておく。来る必要はない」

「違う、しばらく来ないさ。俺が言ってるのは」


 扉に手をかけて、振り返った男は笑っていた。


「草苅ちゃんはさ、あんたより俺といた方がたぶん幸せだよ」



 それだけ言って、男は出て行った。

 幸せ。

 秋葉の幸せは願っている。彼女が生まれて捨てられた時から、今でも願っている。そう……あんな人間の男が、秋葉の側で支えてくれた方が、秋葉にとって幸せなのかもしれない。

 秋葉と共に生きて、共に全てを共有できる男が、自分以外に。



「ーーーー」




 そんなの、許せそうもない。

 心がそう言う声を聞いた。




お読みいただきありがとうございます(*´꒳`*)

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