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第9章 初雪の夜
それから数日後。
放課後、空から白いものが落ちてきた。
初雪。
校門の前で空を見上げると、白が静かに降っていた。
スマホが震えた。
《今、校門のところ》
差出人は、水城紗羅。
彼女が待っていた。
マフラーを両手で押さえて、息を白く吐いている。
その姿を見て、時間が巻き戻るようだった。
“練習”という名の、あの穏やかな時間たち。
全部が、雪に覆われていくみたいに静かだった。
「寒いね」
「うん」
短い会話。
でも、もう言い訳の“練習”はない。
この言葉には、責任がある。
彼女もそれを分かっていた。
だから、手が少し震えていた。
俺はその震えを見て、
何も言わずにポケットから手を出した。
ためらいの後、彼女の指に触れる。
その瞬間、心臓の音が耳の奥で弾けた。
「これ、本番?」
「……本番」
「怖い?」
「少し」
「私も」
お互いの声が、雪に吸い込まれていく。
静けさが二人を包んで、時間が止まる。
雪は、やさしく降り続けた。
指先の冷たさと、心のあたたかさが反比例していく。
その不思議な感覚の中で、
俺はようやく、“守ること”と“逃げないこと”の違いを理解した。




