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第8章 再会の音

金曜日の放課後。

昇降口の前で、名前を呼ばれた。


「中嶋くん」


その声が届いた瞬間、胸が跳ねた。

反射的に、何も考えずに振り向いていた。

彼女がいた。

いつもより少し早い時間、夕陽が差し込んで、髪が光っていた。


「久しぶり」

そう言うと、彼女は少しだけ笑った。

その笑みは、“練習”の頃のものに似ていた。

無理に明るくしようとしていない、自然な笑い方。


「元気?」

「……まあ」

答えが短いのは、嘘を混ぜたくなかったから。

元気ではない。でも、元気じゃないとも言えない。

中間の言葉が、今の俺にちょうどいい。


彼女は手を後ろで組みながら、靴のつま先を軽く合わせた。

その動きが、“迷っている”のサインだと分かった。

言葉を探している。

その沈黙の時間が、少しだけ懐かしい。


「ねえ、もう一回だけ、“練習”してもいい?」

“もう一回だけ”の声が震えていた。

“練習”という言葉に、今はもう守られる安心感はない。

それでも彼女は、その言葉を使った。

勇気がいる選択だった。


「何の練習?」

「“好きな人と話す練習”」

俺は答えなかった。

答えた瞬間、それは練習じゃなくなるから。

沈黙を保ったまま、視線を彼女に返した。

彼女は息を吸って、目を細めた。

泣きそうなときの前触れの呼吸。

でも、涙は落ちない。

その代わりに、

「会えてよかった」

とだけ言った。

短い言葉の中に、たくさんの“言わなかったこと”が詰まっていた。

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