7/11
第7章 空席の時間
彼女と話さなくなってから、一週間が経った。
話さない、というより、話せない。
言葉を口にすると、終わりを確定してしまう気がした。
教室では、いつも通りの声が飛び交う。
笑い声。鉛筆の音。
その中に、彼女の声も混じっているのに、俺の耳だけが拾わない。
聞かないことで、日常の形を保っている。
昼休み、ファストフード店の前を通った。
あの日と同じ席が空いていた。
窓から差し込む光も、テーブルの傷も、同じ。
なのに、そこには何もなかった。
空席というのは、思い出を一番強調する形だと知った。
放課後、校舎を出るとき、彼女の後ろ姿を見つけた。
数人の友達と笑っている。
笑顔は綺麗だった。
けれど、その中に“練習で見た笑顔”の形はなかった。
あのときの彼女は、俺を見て笑っていた。
今の彼女は、俺のいない方を向いている。
帰り道、靴の音がやけに重く響く。
歩くたび、何かを思い出す。
ポテトの塩気、紙コップの温度、袖を掴まれた感触。
全部が、日常に混ざってしまっている。
忘れるには、生活が近すぎた。
夜、机に座ってノートを開いた。
白いページの上で、ペン先が動かない。
“好き”という文字を書こうとしたが、手が止まる。
書けば、どこかに届いてしまいそうで。
届かないはずなのに、怖かった。




