【タイトル】 crying heads 第二話:傲慢の影《目覚める断片》
【本文】
——君は、まだ気づいていないだけだ。
朝、目を覚ましたときから、世界が少しだけズレていた。
宗一郎は鏡の中の自分に違和感を覚えた。
目の下に残る浅い影。まるで誰かと戦った直後のように、体が重い。
夢だったはずだ。神社、ユウヒ、右腕の疼き——
けれど、シャツを脱いでみると、右腕の内側に赤黒い痣のような痕があった。
(……まさか)
ドクン、と心臓が強く鳴る。
その瞬間、頭の中に誰かの声が響いた。
——「俺を忘れんなよ、“スサノオ”」
叫びそうになったが、すぐに口を噤んだ。
その声は、自分の中から響いたからだ。
「宗ちゃん?」
登校途中、柚月が宗一郎の顔を覗き込んだ。
「顔、白いよ? なにかあった?」
「……いや。寝不足かな」
作り笑いを浮かべるのが精一杯だった。
校舎の壁、窓ガラス、水たまり、スマホの画面——
あらゆる“反射”が、自分じゃない誰かの影を映している気がした。
教室に入った瞬間、その気配が確信に変わる。
——ガタンッ!
後ろの席の椅子が、誰も触れていないのに倒れた。
クラスの誰もが振り返る中、宗一郎の視界だけが“歪んだ”。
その中で、確かに見た。
鏡越しのように反転した自分が、笑っていた。
不敵で、傲慢で、獣のように目を細めて。
「やっと出られた。お前の中の“檻”、硬かったぜ」
宗一郎の意識が沈み、視界が暗転する。
気がつけば、屋上にいた。
どうやってそこへ来たのか、まったく思い出せない。
「なぁ、宗一郎。“殺した”記憶、いつまで蓋する気だ?」
その声の主は、宗一郎自身だった。
けれど、明らかに“何か”が違う。
「俺は“傲慢”。お前の中でずっと眠ってた。」
白い制服、黒いブーツ、手には血のついたカッターナイフ。
どこかで見た姿——いや、夢で見たか?
「他の“声”も、すぐに起きる。準備しとけよ、“スサノオ”」
その言葉とともに、視界がふたたび揺れた。
目を開けると、保健室だった。
柚月がベッドのそばに座っていた。
「……本当に大丈夫?」
宗一郎は、うなずけなかった。
右腕が、また疼いていた。
【後書き】
第二話、読んでくれてありがとうございます!
宗一郎の中に潜む“八つの声”の一つ、「傲慢」が姿を現しました。
今はまだ断片的ですが、彼の中に眠る“記憶のフラグメント”は、今後どんどん露わになっていきます。
次回は、柚月と宗一郎の距離感、そしてもう一つの人格が……?
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— CROSSOH