8話
とは言え、相手は公爵家。対してこちらは伯爵家なのよね。でも、ユース殿下は王家だけど······。
後から違いました!とは言わないよね!?
「······本当に愛称で呼んでも良いのですか?」
「勿論だ。今すぐ呼んでくれ」
ん~。お兄様が言っていた、女性に対して冷たい態度になるというのは、嘘だったのかと思うくらいの対応だわ。
友人の妹である私が、愛称で呼ぶのを催促される程、この事に価値があるように思えないけれど······。
一番、納得の出来る理由は、シルフィード公爵令息様は一人だけ仲間外れが嫌だった!っということで······。
もう、腹を括ろう!本人の希望で呼んで欲しいと言っているし。
ユース殿下もそうだけど、初対面だが今までのやり取りを見ていたら、呼び方くらいで友人の妹を不敬にする人達ではないだろう。
しかも、期待の眼差しで早く呼んでくれ!みたいにされてるし······。
いや、それにしても本当に眩しい方だ。このキラキラ輝く綺麗な新緑の瞳を見つめると鼓動が高鳴る。
「······アル様」
「リリー」
名前を呼び合っただけなのに、暖かい風がブワッと急に吹き抜けた。風と一緒に何処かの花壇から花びらも一緒に巻き上げていた。
舞い散った花びらの中で照れながら嬉しそうに微笑まれると、一枚の絵画を見ているかのようだ。
こんなに素敵に笑うんだ······。これは今だけ特別なの?
ずっとこの時間が止まれば良いのに。
ユース殿下の時とは違う、グッと締め付けられる感情が込み上げてくる。
何か気恥ずかしいし、絶対顔が赤くなっていると思う。
どうしよう······。自分でも何が何だか分からないが、どんどんアル様に引き込まれているかも······。
「あの、アル様······」
「リリー······リリー······」
名前を呼びながら距離が近くなって、アル様の手は私の頬に触れている。
手の温かさは心地良い春の風に包まれているようで、心もフワフワと風に乗っている気分だ。
お兄様達とはまた違う優しさと温かさについ、甘えてしまいたくなる。
初対面なのに何故こんなに優しくしてくれるのか······。
あぁ、また胸が締め付けられる。この人の事がもっと知りたい。
「······アル様は本当に優しい方ですよね?」
先程、会ったばかりの相手に対して、ここまで優しくしてくれる理由が何か知りたくなった。
だって、あまりにも噂とは違う行動をするから······。
「あぁ、それはリリーの······」
「近ーい!!!!」
「う"ぐっ」
突然大きな声でビクトルお兄様が叫びながら、勢いよく私を抱き上げた。
結構な衝撃だったので、はしたない声が出てしまったのは許して欲しい。
「アルベール殿!!妹に触らないで頂きたい!!」
「······」
無言のアル様と怒りのビクトルお兄様が対峙しているが、私は樽を担ぐかの様になっているので二人が見えない。
それにまだ私は、衝突された衝撃から抜けられずにいるので、ビクトルお兄様の肩でぐったりしている。
「リリスが見当たらなくなって探していたのだぞ!!」
「······それは済まない」
勝手にいなくなったの私です!!アル様は悪くないのに。······痛すぎて喋れない。
「リリス~、お兄様が少し目を離したばかりに······魔獣や男に襲われたらと心配になったぞ!!」
兄弟ですね。セドリックお兄様も同じ様な事を言ってました。少し暴走し過ぎだと思う。
「ビクトル殿。魔獣が来ても俺が仕留めますし、もうリリーに他の男は近付けさせません!!」
「「!?」」
えっ?アル様も自分の家の庭に魔獣が来るとか思ってるんですか!?少し見て歩いてきましたけど、魔獣は出ませんでしたよ!
まぁ、男の人には絡まれましたが······。
「いっ、今······"リリー"と呼んだ······か!?」
いや、そっちの方で反応するの?
あっ、これはヤバいかも······。目に見えて怒っている。(この体制では見えませんが······)
このままでは、公爵家のパーティーでノベトリー伯爵家の者が暴れたなんて、謀反や醜聞になり没落になる処か······お母様にお叱りを受ける。
止めなきゃ!!
「······ぉ······っにぃ······」
駄目だ!まだ回復できてないのに加えて、ビクトルお兄様の圧が強すぎて声が出ない。
お願いだから私を担いだままは止めてぇ~!
「そこまでだ!」
「······っ、ユリウス王子殿下!?」
「ビック兄さん!!」
「セドリック!?」
あぁ~助かった。ユース殿下の一声によって、この地獄の局面を抜け出すことが出来る。
ユース殿下を前に冷静になったお兄様は、私を担いだままで礼をした。
ビクトルお兄様は王国騎士団に所属しており、第一騎士団の副団長をしているので、王族を前にして冷静になれる理性を持っていて本当に良かった。
「ビクトル、顔を上げてくれ」
「はっ」
「兄さん、ここでは暴れないでくれよ」
「セドリック、これは仕方ない事なのだ!兄として殺らねばならない事がある!」
「殺るって何!?こんなんでも一応アルは俺の友人なんだ!只でさえ兄さんは目立つ存在なのに、会場の近くでの威圧は良くないよ!」
「いや!前々からアルベール殿はリリスに対して」
「止さないか!」
セドリックお兄様は真面な事を言ってるけど、こんなんでもは酷いですよ。
アル様は正真正銘セドリックお兄様の友人ですし、何よりも公爵家嫡男ですよ。
あと、前々から?私に対して何?アル様とは今日が初対面でしたけど??
私としてはとても気になる内容の喧嘩だったので聞きたかったけど、話に割って入れる状況ではなかった。
取りあえず、兄弟喧嘩をユース殿下は一喝で止めてくれた。
また、ビクトルお兄様が再燃してしまう前に止まって良かった。
そんな事より、ちょっとまって······。今の状況って······。
冷静によくよく周りを見渡すと、パーティー会場の庭近くを歩いていたようだ。
ちらほら、こちらの様子を遠目から伺う人が数人いた。
嫌だー!!晒し者状態じゃない!!こんなんじゃあ、友人作れないじゃない!!
泣きたい······消えたい······見ないで······。
「ビクトル、副団長がそう簡単に威圧を出すな」
「申し訳ありませんでした」
「次は気を付けてくれ」
「はっ。肝に銘じます」
先程会った時とは違って、ユース殿下が王族らしい態度で驚いた。
その二面性に驚くわ。
そんな事よりも早く、この状態から解放して欲しいのに、何故、誰も助けてくれないの??
「はぁー。今日は休みだろ。堅苦しいのは止めてくれ」
「はっ。分かりました!」
「······本当に分かってる?あっ、あとリリス嬢を下ろさないか?」
「リリス、済まない······」
ユース殿下、私はついでですか?
ビクトルお兄様は焦りながら素早く私を肩から下ろしてくれた。きっと担いでいたのを忘れていたのだと思う。
私は半泣きで顔を手で覆い、周囲の人になるべく身バレしないよう努めた。
「だっ、大丈夫か?痛いところは??本当に済まなかった!」
こんな辱しめを受けるなんて······謝っても遅いです。
いつもより投稿が遅くなって、すみません。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
感想など受付ていなくて、すみません。
4月前後は、メンタルが絹ごし豆腐でして、メンタルと相談しながら感想など受付が出来るといいな······と思ってます。