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7話


 シルフィード公爵令息様は私の速度に合わせて、ゆっくりと歩き進めてくれている。

 私達がいたあの青い花の庭を抜けると、次は青い花ではなく、薬草がたくさん植えられた庭を通った。

 この薬草の庭も丁寧に管理されており、見た事のない薬草もたくさんあった。


 公爵家の薬草の庭を私なんかが通って良いのかしら?


 この国では、どの家門にも薬草の庭を作っており、門外不出の薬草をたくさん持っている家もある。それを取り引きに使ったりする事もある為、結界を張り家の者以外は入れないようにしているくらい重要な場所なのだ。

 ふと、目についた薬草の庭の奥に硝子張りの温室。何か大切な苗でも育てているのだろうかと、気になって聞いてみた。


「あの、シルフィード公爵令息様。失礼ながらお聞きしても良いですか?」

「······」 


 あっ、また眉間に皺を寄せて無言だ。やはり不快な時にする顔なのかな。

 不躾な質問なので、そうなるであろう事は予想していたが、やっぱり聞いてはいけない事よね······。


「もっ、申し訳ございません。聞いても答えられない事でしたよね······」

「······いや、あそこでは苺を育てている」

「えっ、苺?ですか?」

「あぁ、苺だ。年中一定数が収穫出来るようにあの温室以外にも、別の温室と外の庭園でも育てている」

「年中!?すっ、すごい!!」


 意外だわ。シルフィード公爵令息様も私と一緒で苺好きなのかしら?それもただの苺好きではなく、公爵家で栽培する程の熱量だわ。


 シルフィード公爵令息様はまた歩みを進めた。

 薬草の庭に関わる事については、絶対に答えてくれないだろうと思っていたし、尚且つ不快そうな顔をしていたはずだったのに、返答が薬草ではなくて苺だったから答えてくれたのかしら?


 でも、そこで疑問が残る。何故、不快な顔をされたのか······。


 益々、シルフィード公爵令息様の事が分からなくなってきた。


 しかし、苺が年中一定数の収穫が出来るのか······。


「あっ、もしかして······今日のパーティーで出されている苺のタルトに使われましたか!?」


 苺の話をしていたら、パーティー会場で食べて幾らでも食べられると忘れられなくなった、あの苺のタルトを思い出した。


「そうだ。食べたのか?」

「はい!着いて早々、艶かで赤く瑞々しい苺のタルトに目が行き、真っ先に食べました!!苺のポテンシャルも勿論あるんですが、苺に合わせたカスタードとタルト生地のバランスがとても良くて、何個でも食べてしまえると思いました!!また食べたいくらいです!!」


 本当に美味しかったので、つい熱く苺のタルトについて語ってしまった。

 出来るならば、また苺のタルトを食べたいし、何なら苺だけ頬張って食べてみたい。


 思い出したら急に苺が恋しくなった。


「気に入ってもらえて良かった。育てたかいがある」

「えっ!?自ら育てたのですか??食べ放題ですね!!」

「くくっ、そんなに美味しかったのならば、客間でゆっくりと食べるといい」

「えっ!良いのですか?」

「あぁ」


 最高です!!しつこくおねだりした感が否めないが、またあの美味しい苺が食べられると思うと頬が自然と緩む。

 シルフィード公爵令息様も優しく微笑みながら、自分の腕に掛けられた私の手に重ねてくれた。

 

 あっ、また心臓がグッときた。心臓が締め付けられて苦しいけど、ずっとこのままでいたい。


「ありがとうございます。シルフィード公爵令息様!」

「······」


 満面の笑みでお礼をしたのだが、また無言で眉間に皺を寄せている。何がいけないのか分からない。

 シルフィード公爵令息様が分からない。優しくしてくれたと思ったら、声を掛けて不快そうな感じにもなり、私って嫌われてる?

 嫌だな。嫌われたくないな······と思ったので聞いてしまった。


「何がいけなかったのですか!?」

「!?」

「私の発言で何か不快な思いをされたのならば教えて下さい!!」

「······いや」


 シルフィード公爵令息様はとても驚いた顔をしてから罰が悪そうな表情に変わり、二の句を告げれずにいた。

 言えない程の事をしたのかと、嫌わないで欲しいという気持ちが溢れてしまい、泣きながら叫んでしまった。


「嫌わないでぇ~!!」


 あれだけ泣かないとセドリックお兄様に言ったのに、理由は違えど泣き出してしまった。


「きっ、嫌ってなどいない!」

「······え"っ!?グズッ······」

「すまない」

「······いえ、あの······」

「······」


 "嫌ってはいない"という言葉を聞いて、私はとても安堵した。しかし、その発言が本当ならば何故、私が声を掛けた際に眉間に皺を寄せて無言でいたのだろう。


「······嫌ってはいないのに何故、私がお話する時に不快なご様子なのですか?」

「······それは」

「それは?」

「······呼び方が気に入らない······」

「呼び······名?······シルフィード公爵令息様?」

「それだ。ユリウスはユースと愛称で呼ぶのに、俺には堅苦しいままというのが······」


 苺といい呼び方といい意外すぎる。あれかな?ユース殿下と話していた時、仲間外れにされたと思えたのだろうか?

 でも、ユース殿下の呼び方は半ば強引に呼ばされたようなもので、その際にはシルフィード公爵令息様の呼び方の話しにはならなかったから、そのまま呼んでいた。

 何とも可愛らしい理由で拗ねていたのかと思うと、違う意味で目が離せない方だとつい、顔が綻んでしまう。


「では、何とお呼びしたら良いですか?」

「······アルと呼んでくれ」

「······ア、アル様」


 シルフィード公爵令息様は長かったので、"アル様"呼びは短くて呼びやすい。

 何故かお互いに照れてしまう。


「あの······私の呼び方もリリスでも何でもいいので、お好きに呼んで下さい······」

「俺も良いのか!?」

「はい、折角なので······」

「······俺は······リリーと呼びたい!」

「······はい」


 アル様は表情の変化はあまり見られなかったが、何となく照れ臭そうにしていた。


 "リリー"呼びは意外だった。セドリックお兄様と同じ"リー"と呼ぶのかと思っていた。

 私は"リリー"呼びは気に入っている。幼い頃、自分の名前の"リリス"の"ス"が上手く言えなかったので、"リリー"と言っていたので、懐かしさもある。


 それにシルフィード公爵令息様が"リリー"と呼ぶと、にっと笑った口元になるのが特別感があって私は更に気に入った。

 

 でも、いきなり愛称で呼ぶのはいいのだろうか······。

 まぁー。ユース殿下も呼んでいるし、アル様だけを呼ばないとなると、また拗ねてしまうかもしれないわね······。


 何だかそんな事で拗ねてしまうなんて、可愛らしい人だと思ってしまった。




 今日も読んでくださいまして、ありがとうございます。

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