6話
「リック、諦めてアルの言う通りにしようよ~」
「いーや!あんな事があったリーをこのままには出来ない!」
「アルは私とリックに会場へ行かせるって言ったけど~リリスをこのままにはするつもりはないと思うよ~?」
「いや!リーは兄である俺と一緒にいないと、あの恐怖を思い出して泣いてしまう!!」
「······はぁ~。そう言ってるよ~。リリスはどうかな~?」
「「「······」」」
ユース殿下(面倒だという顔)、セドリックお兄様(悲しげな子犬)、シルフィード公爵令息様(綺麗なお顔)の三人が私の方を見て、意見を求めてきた。
「えっと······流石に泣きはしないですよ?」
「リ~!!」
私の言葉を聞いたセドリックお兄様は、泣きながら落胆していた。ビクトルお兄様といいセドリックお兄様といい、いつまでも私をお子様扱いしてもらっては困る。
そんな簡単に泣きませんよ!!
「と言うことで~。アルはリリスを客間で休ませてあげてから会場へ来てね~。リックは私と一緒に会場へ行くよ~。ビクトルにリリスの無事を伝えないとね~」
あっ!ビクトルお兄様の事を忘れてた!!
ユース殿下はサッと仕切って、会場へ向かって歩き出した。取り敢えず、ビクトルお兄様に伝えてくれるようで良かった。
セドリックお兄様は、未練がましくこちらをチラチラ見ながらユース殿下を追いかける。
すると急にユース殿下が止まり、私に向かって質問をしてきた。
「あ、そうだ聞き忘れてた~リリスはどうやってここまで来たの~?」
私は何故その質問をしたのか、その意図がよく分からなかった。
「えっ?自分の足で歩いて······あっ、あと、マカロンくらいの白い光に誘われて······?」
「······ふむ」
「······」
そう言えば、あのマカロン大の光はいつの間にかいなくなってたな······
ユース殿下は少し考えて、シルフィード公爵令息様を見たが、見られた当の本人は私の手を取ったまま何も言わなかった。
何でシルフィード公爵令息様を見るのかしら?言ってはいけない事だったの?
「アル!!リーに何あったら許さないからな!!あと、あんまり触るな!!近寄るな!!喋るな!!俺の妹だー!!」
「じゃあね~リリス」
よく分からない事をセドリックお兄様が元気よく叫んでいた。ユース殿下は叫んでいるセドリックお兄様を無視して行ってしまった。
叫び終えたのか、セドリックお兄様もいつの間にかビシッとして歩いていたので、私と離れても大丈夫なようで少しほっとした。
嵐のような二人(主にセドリックお兄様)を見送りながら、チラッとシルフィード公爵令息様を見るとバッチリ目が合った。
こっそり見るつもりだったが、まさか目が合うとは思わなかったので、不意を突かれて私の顔は赤くなった。
恥ずかしいわ!!
「······シッ、シルフィード公爵令息様!?」
「······」
あれ?表情が険しい?
つい先程までは穏やかそうな顔をしていたのに、また無言で眉間に皺を寄せていた。
眉間に皺が寄っても綺麗な顔立ちには間違いないが、私が不快にさせているという事になるのだろう。やはりセドリックお兄様と一緒に帰った方が良かったのか。
私と二人でいるのが嫌で不機嫌になってしまうのならば、今からでもセドリックお兄様を追い掛けるしかない。
そうならば、ショックだな······。
「では、案内しよう」
「······はい。よろしくお願い致します」
案内をすると言ってくれたので、今更セドリックお兄様を追わずに済むとホッとしたのも束の間、握っていた私の手をスッと離した。
私が予想していた通り、二人でいるのが不快だったのだろう。それでも、仲の良い友人のセドリックお兄様の妹という事で、安心して預けて欲しいという思いから握っていただけだったのだ。
そう思うと何故か無性に悲しい気持ちになり、出そうになる涙を見せないように俯くしかなかった。
「どうした?行くぞ」
シルフィード公爵令息様に声を掛けられたので、グッと涙を堪えて笑顔を作って顔を上げた。
すると、私の手を取り、自分腕に掛けるようにして、エスコートの形になった。
あれ?······勘違いだったのね?
どうやら嫌われてないようだ。未だに眉間の皺が寄る謎は解けないままだが、腕に手を掛けさせてくれるということは、考えていたよりも嫌われていないのかもしれない。
「少し歩くが、体調が悪くなるようならば言ってくれ」
「はい。お気遣い、ありがとうございます」
そう言い、私の様子を心配しながらゆっくりと歩き始めた。
今日の嫌な気持ちや出来事を思い出すと滅入ってしまうが、歩いていると気持ちの良い暖かい風がそよそよと吹く。
そんな中、私の心もこの暖かい風に包まれたかの様に穏やかに変わっていく。
色々な事があって、よく分からない状態になったけど、穏やかでいられるのは、この方のお陰なのかな······。
迷い込んだり絡まれたり、なかなか会う事が出来ない方々とお近づきになったりと、短時間でぎゅっと詰まっていた。
この青い庭に来れたのは、あのマカロン大の白い光のお陰。いつの間にか光は見えなくなったけど、密かにまた会えたらなと願う。
穏やかに吹く風の中に一瞬、遠退く小さな庭の花の香りが混ざっていた。
「また来てね」と言われたような気がして嬉しくなった。