アルベールside20
ノベトリー伯爵夫人はさらっと、俺とリリーが婚約者だと話してしまった。
それなのに後は"頼む"と、そのままこっちに丸投げしてきた。
この人はこんな人だったのか!?それとも、それくらい自分で対処出来ないと駄目だという激励なのか······。
いまいち掴めない人だ······。
「はい。お任せ下さい」
どう考えても、任せて下さいの一択しかないだろう。
リリーにもしっかり学ぶように言い付けて、ビクトルを引き摺りながら帰って行った。
セドリックはまだリリーを誘っていたが、残念ならがらあっさりと振られた。
早く付いて行かないから、ノベトリー伯爵夫人を更に怒らせたのは言うまでもないか。
これ以上邪魔をするならば、本当にアルバディスまで走っていけよ!!
訓練どころでなくなればいい!!と思っていたら、後ろ髪を引かれながらセドリックの奴は行った。
その後を急ぐようにして、ユリウスが騎士団所属のビクトルが一週間不在になるので、その手続きをしに帰って行った。
今回の件の結末は、ユリウスから陛下に報告するだろう。
これで、漸く二人になれた。もう邪魔者はいない。
「······リリー」
「あっ、アル様」
側に居て、ちゃんと名前を呼んでくれる。
遠目からでも、俺の妄想でもない。本物のリリーが俺のすぐ側にいる······。
リリーの握っていた手を両手で優しく包み込んた。
俺なりにリリーとの距離を縮めていきたい。
「······驚いたか?」
「とても······」
「すまない。条件や事情があったから今まで会うことが出来なかった······。何か聞きたい事はないか?」
何か言いたげな様子だが、遠慮しているのだろうか。言い掛けてやめていた。
やはりまだ信頼されていないのか······。
多分、嫌われてはいないのだろうとは思うが······。
しかし、邪魔をされずにリリーの顔を眺められるのは嬉しいな。照れてしまうが、いつまでも見ていることが出来るな。
近くで見るとやはり、この綺麗な瞳に俺だけが写っているというのが、何とも言えない幸福感だ。
駄目だ!あまり近付きすぎると歯止めが効かなくなりそうだな。
見かねたクルトが助け船を出してくれた。
「もうすぐ、リリス様の侍女がこちらにいらっしゃるそうですよ」
リリーの侍女と言えば彼女か······。そう思っていたら、ルクセルが連れてきたのはやはり、ノベトリー伯爵家のリリス付きの侍女レティアだった。
この侍女は昔から知っている。リリーが一番懐いていて、ノベトリー兄弟やリリーに近付く者を排除してきた、鉄壁の侍女だ。
幼い頃、アルバディスで夫人に稽古を付けてもらっていた時、手合わせをした事があった。
かなりの実力者だったが、俺が勝った時の悔しそうな顔を覚えている。
そんな侍女なのでリリーにはおいそれと周りが近付けないのは良いことだと思っていたが······。
「僭越ながら、本当に普段通りで宜しいのでしょうか?」
「······?あぁ、その方がリリーも過ごしやすいだろう」
「では、お言葉通りに致します」
そう言ったレティアはリリーに思い切り抱き付いて、ぎゅうぎゅう締め付けながらスリスリしていた。
くっ、羨ましい。
「話は聞きました!もぉー!ビクトル様もセドリック様も何を考えているのやら!!やはり、私がリリスお嬢様をお守りするしかないのです!!あぁ~いつ見ても可愛いです~私の癒しです~」
今、分かった。この侍女はライバルだと。
だが、俺はリリーの婚約者で、将来結婚するのは俺だ。
リリーは俺のリリーだ。
俺の方がリリーを愛している。
だから、リリーがここでの生活に慣れるためには心許せる彼女が必要だと分かっている。
今は俺が少し引くべきだと思っている。
「······リリー、後でゆっくり話をしよう」
「はっ、はい」
「この部屋はリリーの部屋だから自由に使ってくれ」
そして、もうノベトリー家には帰さないからな。これからはここが君の家だ。
「お気遣い、ありがとうございます」
「少し休んでくれ、また来る」
「はい······」
スッと指先にキスをした。
君は俺のだ。
俺はリリーの部屋を出た後、クルトに叱られた。
「アルベール様は思っている事を口に出して下さい!そうでないと、相手に、リリス様に誤解されてしまいますよ?」
確かに話をしなくてはいけないことがあるのかもしれないが、何から話をして良いのかが分からない。
俺の気持ちを伝えるのか?思いが強すぎて引かれないか?
リリーの為に家具は勿論、小物やドレスなども調査したり遠くから観察して、使っている物や好みそうなものを俺が選んで用意してるなんて言って良いのか?
悶々と考えながら、リリーにもある程度は婚約の経緯を話さなくてはとおもっていたら、両親に夕食をリリーも一緒にしようと言伝てられた。
先程離れたばかりだが、邸の中にリリーがいると、こうも簡単にすぐに会えるのは前の状況と雲泥の差だ。
改めて、近くに居られる有り難さが分かった。
リリーの部屋の前で侍女に会った。お茶の準備をしたいそうなので、クルトに厨房へ案内するように頼んだ。
リリーと二人になる機会が出来た。ドアをノックすると愛らしい声が聞こえた。
「はーい。どうぞ」
俺が入るとリリーは驚いていたが、何事もなく部屋へ入れてくれた。
「アル様!今、お茶の準備を······」
「それなら大丈夫だ」
お茶を心配していたが、侍女に会って、クルトと一緒に準備をしていると伝えるたら、リリーは安心していた。
立ったままではいけないので、リリーの手を取り、ソファーへ誘導して隣に座った。
不足がないか聞くと、少し戸惑っていたので、誰の物でもなくリリーの為に用意したのだと伝えた。
「?リリーの為に用意したんだが、やはり足りなかったか?」
「いえいえ!十分可愛くて、私が好きなデザインばかりで驚いたんですよ!」
そうだろう。君の事を見続けて、調べた中でもリリーに最も似合う物と気に入っている物を同じ店で用意してるのだから。
あぁ······。俺の選んだドレスを着ているなんて、嬉しすぎて誰にも見せないように閉じ込めたい。
ずっと見詰めていると急にリリーが目を瞑ってしまった。
リリー、どうしたいんだ!?
口付け!?それはまだ早いだろ!?
どういう意味で目を瞑ってしまったのだ!?俺はどうすれば良いんだ!?
「目を開けないと、リリーの美しい瞳が見えないな······」
無難な言葉しか出てこなかった。
「む、無理です!」
無理!?
何か嫌われるような事をしたか?言ったか?リリーの為に用意したものが気に入らなかったのか!?
拒否されるのは辛すぎる······。
「······そんなに俺の顔が見たくないのか······」
「ちっ、違います!」
違うのか······。では、嫌われているわけてはないのだな。用意した物も可愛いと言ってくれた。
嫌われていないのであれば、俺の気持ちを伝えるしかない。
そっとリリーの頬に触れた。
リリーはすぐに顔が赤くなり、完熟苺のようになって、可愛らしい返事をしてくれた。
「あっあっぁ······アルしゃまっ!」
まさかの発言。そんなに可愛いい言い方なんて狡い。
初めて会った頃のリリーが俺を呼んでくれたのを思い出す。
あぁ······。君はどこまで俺の心を揺さぶり続けるのだろう。愛おしい気持ちが止まらない。
最後まで読んで下さって、ありがとうございます。
申し訳ありません。ストックが切れましたので、毎日投稿をストップします。
2日に1回は投稿出来たらな······とおもいますので、お付き合いくださいませ。