4話
困惑している私を他所に、王族特有の金色の瞳。鼻筋もスッと通っており、威厳がある整った顔立ちの"煌めきが止まらない王子殿下"は笑顔で声を掛けて下さった。
王子殿下もとても綺麗な方だわ······。
「リリス嬢。堅苦しいのはやめようよ~。君はリックの妹だから、リリスと呼んでもいいかい?」
「駄目です!!」
「えぇ~、リックには聞いてないよ~」
「絶対に駄目です!!」
「リリスがダメなら、リックみたいにリーって呼ぼうかな~?」
「ユース!?何ふざけてんですかっ!!愛称なんて以ての外!!絶対に駄目です!!」
「じゃあ~リリスにしてあげるから、私の事はユースって呼んでね~」
「ユ~ス~!」
「リックじゃないよ~リリスに呼んで欲しいんだよ~」
あれ~?軽い。噂と全く違う~。
話し出したら、煌めきが止まってしまった気がする。一応、セドリックお兄様とはとても仲良しだという事は良く分かったけど······。
こんな話をしてる場合ではなかったはず。二人の仲の良いやり取りだけで、一向に話が進まない。
誰か!止めて~!
「はぁー。ユリウス、セドリックいい加減にしないか」
シルフィード公爵令息様が止めに入ってくれた。口数は少ないが、真面な方がいて良かった。二人の間に入って引き締めてくれるから、この三人はこれで何だかんだ成り立っているので、一緒につるんでいられるのかもしれない。
やっぱり友人って、いいな······。
「お前達は本当に······。済まないな。君の事を考えてやれない奴らで」
そう言って私の左手を持ち上げて、礼をしてくれた。優雅に優しく触れられて、思わず赤面してしまう。
綺麗な顔が近くて、何か恥ずかしい······。
「おい!アル!!リーに触んな!!お前は本当にずっと前からムゴッ······」
「あーあー、余分な事を言うから······」
「本当に済まない。話を続けよう」
シルフィード公爵令息様は、にこりと笑ってくれた。セドリックお兄様はよく分からないけど、急に口ごもって喋らなくなってしまった。
セドリックお兄様ったら、はしゃぎ過ぎて疲れたのかしら。
シルフィード公爵令息様はそんなお兄様を気にせず私の手を取って、更に左手でも優しく包んでくれた状態で話を続けた。
シルフィード公爵令息様に触れられていると、温かい心地になり落ち着くわ······。
「君を咎めるつもりはないから安心してくれ。元々、コイツは何か仕出かすと予想していた」
「そ、そうだったんですか······?」
「そうそう~。彼はね~アルと偽って何も知らないご令嬢に近付いて、しつこく付きまとう事が報告されていたんだよ~」
「で、でも、私があの方を投げ飛ばしたのを見られましたよね!?私、そんな力なんてないのに······」
本当に何の力もない平凡な人間なのに何故、投げ飛ばしてしまえる程の事が出来たのか私は理解できないでいた。
俯く私の手をギュッと握ってくれ、優しく声を掛けてくれた。
「君は全く悪くない。タイミング良く突風が吹いて、アイツが巻き込まれて勝手に倒れただけだ」
「タイミング良く?······勝手に?」
「そうだ。タイミング良く、勝手にだ」
「えぇ~アル······無理やり······」
「ふふ······ふふふ~」
真面目な顔でそんな事を言われて、思わず私の壺に嵌まってしまったので、笑い続けてしまった。
「笑ってくれて良かった」
そう言って、乱れた私の髪をそっと直してくれた。
あぁ~心臓辺りがグッときた。締め付けられた感じがあり苦しい。
病気とかの嫌な締め付けではなく、くすぐったくて、もどかしいが照れ臭い感じの
締め付け。
初めての経験で、どうしていいのか分からない。
「まぁ~取り敢えず、リリスは悪くないからねって事。ただゴミが空に飛んだだけだよ~ゴミって自然と風に飛ばされるよね~」
いや、王子殿下がゴミと言ってはいけないのでは?
「本当に私のやった事ではないんですよね······?」
「ないない!私がそう言ってるんだから、それでいいんだよ~」
王族の方がいいと言っているのを私が覆すなんて有り得ないし、王子殿下は意外と辛辣な方なので、逆らわずに身を任せて従うのが一番良いと判断した。
「分かりました。殿下の仰せのままに」
「違う~!ユース!だよ?はいっ!」
はいっ!って、その話まだ引き摺ってたのね!?
「ユッ、ユース殿下······」
「えぇ~殿下いる?」
「これ以上は······」
······意外としつこいけど、ただの伯爵令嬢ごときが、これ以上砕けた呼び方は出来ないわ。
流石に一国の王子殿下を愛称で呼ぶなんて、いくら兄が友だとしても、今日初めて会った友人の妹なのだから、無礼極まりない。
そう考えていると、先程まで穏やかな暖かい風がそよそよと吹いていたのに、急に寒気のする程の風が吹き抜けた。
「ユリウス」
「う"っ、アル······ごめんって。リリス、殿下を付けていいから」
「······はい」
気のせいだったのかしら?もう風が寒くない。
思いの外、シルフィード公爵令息様の言う事を素直に聞いている。これだと、ユース殿下とシルフィード公爵令息様の関係は逆転しているように見えるわ。
何より、セドリックお兄様と良い友人関係でいてくださっていて、とても有り難いし、楽しそうで良かったわ。
気心が知れた友人関係っていいな~。やっぱり、私も早く親しい友人が欲しい。
それに今回の件についてはお咎めないとの事なので、ノベトリー家も私自身もお叱りを受けないみたい。
絡まれたのは不本意だったけども、何事もなく済みそうなので、取りあえず不幸中の幸いだわ。
今日も読んでいただき、ありがとうございます。