アルベールside2
そろそろ、見えなくなったかな。あの繊細な庭を出て、少し木々がある場所まで来た。
この辺りの木陰でやり過ごそう。
「はぁー······」
ドカッと木陰に座って、先程のノベトリー夫人の事を思い出す。あの様な人には初めて会った。
全て見透かされて、俺の事を分かっているような言い方だったが、だからと言って恐いとは思わなかった。
寧ろ、寄ってくる他人の中で一番好印象な人だと感じたくらいだ。
ザーザー······っと風が吹き抜ける。
心地が良い場所だな······。
ーーガサガサ、ガサガサ。
んっ?夫人が言っていた動物か?
「!?」
ザッと出てきたのは動物。ではなく、小さな女の子だった。
「ひゃあ~。あむっ······もっもっ······」
「······」
バチッと目が合って、じっと見詰め合っているが、大きく見開いた瞳は澄んだ青空を見ているかのようで、どんどん引き込まれる。
何て可愛いい子なんだ。
今までこんな純粋な瞳を見たことがなく、キラキラと輝いている。先程は澄んだ青空かと思ったが、今は去年の夏に父上に連れて行かれた、輝く水面が美しい海のようだ。
どうしよう。この子が欲しい。
自分はまだ五歳だが、こんな気持ちになるのはきっと一生に一度だと思う。
「······ゴックン。おにぃーしゃまだぁれ~?」
いけない、頬張る姿がリスのように可愛くて見惚れていた。さっき何か食べていたな。何を食べていたのだろうか。この子は何処の子なんだろう。
ここに居るということはノベトリー家の子なのか、それとも使用人の子どもなのか······。何にせよ可愛すぎないか?
「おにぃーしゃま?」
「あっ、あぁ。ノベトリー家に招待されたんだ」
「あー!おきゃくしゃま!おかぁーしゃまがいってましたぁー!」
えっ?喋り方か拙くて、更に可愛いんだが。
「君は?」
「りりー」
「リリー?」
名前を言うと、満面の笑みでこちらを見てくれたこの子。実は天使かもしれない。
「おにぃーしゃまのおにゃまえは?」
「アルベール······」
「ありゅべーにゅ?」
「アルベール」
「······あーしゃま」
うん。諦めたな。
「リリーは何してるの?」
「うっとねぇー。おきゃくしゃまでおかしいっぱい!おかぁーしゃまがおにぃーしゃまたちが、りりーまだだめって······」
成る程······。幼いから、まだおもてなしをする側でも出てきてはいけないと言われたのか。可愛いな。
何か食べていたのはお菓子か。ということは、この子はノベトリー家の娘か。
可愛すぎて、可愛いしか出てこないんだが。
「そうか。もてなそうとしてくれたんだな」
「しょーなの!だからいっちょにたべりゅのー!」
手に持っていた、小さなバスケットを差し出してくれた。その中にはジャムが挟んであるクッキーが入っていた。
いや、本当に可愛すぎないか?
「どぉーじょ」
「······ありがとう」
リリーは手渡ししてくれた。これは食べるの勿体無いな。これ持って帰って保存しておきたい。リリーと一緒に持って帰ったら駄目か?
「······たべなーの?」
あぁぁ······やばい。不安そうな顔も途轍もなく可愛い。
「······あーして!」
「えっ!?むぐっ······」
「おいしー?」
天使に食べさせてもらった。ここは天上の国か。
俺が食べて飲み込むのを見て、安心したのかリリーも食べ始めた。
俺が食べるのを待ってたのか。健気すぎて可愛い。
「······美味しい」
「ねー」
初めて食べさせてもらったジャムサンドクッキーは、甘さが控えめのイチゴジャムにサクサクのクッキー生地が合っていて、美味しかった。
ーーサー、サー。
いつも感じる風とは違う、温かく包み込まれるような風を感じた。
「こぇ、りりーもにゅりにゅりしたの」
何!?リリーの手作りだったのか!!そんな可愛い事をしていたのか!
知っていたらもっと大事に味わったのに······。惜しいことをした。
やっぱり連れて帰りたい。
「塗るの上手だったな。美味しかった」
「えへへ~」
照れている姿も可愛い。口元に少しジャムがついているのも可愛い。脱ぐって良いか、寧ろ脱ぐってなめたい。
あっ、リリーが可愛すぎて、段々思考が怪しくなってきた。
「りりーじゃむたべたりゃおこりゃれたのー」
つまみ食いでもしたのか。そんな姿もきっと可愛いんだろうな。
「ジャムが好きなのか?」
「うーう。いちおがすちぃー」
「いちお?······あぁ······苺?」
「そぉー」
苺とリリーの組み合わせなんて最高じゃないか!!可愛い!!見たい!!
「おっきーあまーい、いちおたべたーい」
「そうか」
いつかリリーに大きくて、とびきり甘い苺を食べさせてあげたい。リリーの頬張る姿はきっと可愛いだろ。
ーーガサガサ
「あー!うーたん!」
「うーたん?あぁ、兎」
そう言えば、ノベトリー夫人が"動物"がいると言っていたな。兎の事だったのか。うん、リリーと兎の組み合わせも可愛いな。
「!?」
違う!あれは······兎は兎でも、一角兎だ!!
リリーがあの角で刺されたら一溜りもない!!
「駄目だ!!リリー!!」
「ふぇ??」
あぁ······間に合わない!お願いだ!リリーを助けてくれ!!
ブァワァーー
急に旋風が一角兎に目掛けて飛んでいき、一角兎が遠くへ飛ばされた。
「あれ?うーたん??」
「······な、何が······?」
ーーそよそよ、そよそよ。
『ふぅー、間に合って良かった······』
「はっ?」
『お前ががもっと早くオレの力を借りてたら、焦らずに済んだぞ?』
急に聞こえた声と、十五センチくらいの小さな人間みたいな生き物が浮いて目の前にいる。
ーーこれはシルフだ。
やっと見えた。今までは風が吹くとそれとなくいるのか?とは感じていたが、こうもはっきり見えて、声も聞こえるようになるとは。
「······助けて頂き、ありがとうございます」
『いいよ~。時々あの子の所へも行って遊んでたからな~助けられて良かった~』
「それは······どういう······」
ーーザッ。
「私の出番は無かったようね」
「!?」
「あっ!おかぁーしゃま!!」
駆け寄ったリリーを抱き上げたその人は、ノベトリー夫人だった。
「リリス。お部屋に居なさいとあれ程言いましたよね?」
「はぁーい。ごめんにゃしゃい······」
「無事なら良いのです。カルロス、リリスを部屋へ連れていって」
「はいっ」
名前はリリスと言うのか。
ノベトリー夫人に呼ばれた、カルロスという大柄な男が急に出てきて、夫人からリリーを受け取り歩き出した。
叱られてしょんぼり顔のリリーも可愛い。
「あっ、あーしゃま!あーとぉー!まぁーたーねぇー!」
抱き上げられたリリーは俺に気付いてくれて、パァーっと明るい笑顔になり、小さな手を大きくブンブンと、振って別れを告げてくれた。
その必死さが可愛すぎないか!俺が連れて帰りたかった······。
「リリスを助けて下さり、ありがとうございました」
「いえ、偶然ですから······」
「流石、シルフの力······とでも言いましょうか」
「!?」
これはノベトリー夫人にバレているのだろう。
『あっ、コノ人にはオレが見えてるから······』
「そうなのか······」
『何でか分かんないけど~、どれだけ姿を消しても目で追ってくるんだよ!』
ノベトリー夫人は精霊も見えるのか。俺が見透かされていると思ったのは、あながち間違えではなさそうだ。
「シルフ様、アルベール様。リリスを助けて下さり、ありがとうございました」
とても丁寧なお辞儀をして、ニコッと笑った。パッと見似てはいないが、その笑顔にほんの少しリリーがいるように感じた。
「いえ、俺は何も······」
「······そうですね。まだ、力を引き出せていない点と、制御しきれていない点については今後、鍛えれば良いことです」
「ーー本当ですか?」
この力をコントロール出来るようになれば、いつでもリリーを守る事が出来るはずだ。
最後まで読んで下さって、ありがとうございます。




