3話
ーー今、現在
ーー詰んだ。
このやらかしてしまった状況で、どう足掻いても言い逃れの出来ない姿を見られてしまった。
「あっ、あの、えっと······」
投げ飛ばしたのを見られてしまったし、どう説明していいのかわからないし、拝んでしまいそうだし、ときめいてしまったし。と色んな感情が混雑してて収集つかなくなり、私はちょっとパニックになってる。
デビュタントもまだなのに、先に悪名を轟かせる事になるの!?こんなんじゃあ、友人が作れないわ······。それどころか、社交界から爪弾きにされる!?で、でも、そんな問題よりも······絶対、お母様に叱られる!!
今、絶体絶命の窮地に立たされているような気がする。
「リー!!」
急に大声で私の名を呼び、ズンズンと大股で近付いてきてガバッと抱きしめられた。
「セッ、セドリックお兄様」
今、私を思いっきり抱きしめているのは③顔立ちが可愛らしい!細マッチョ"伯爵令息"こと、私の二番目の兄。セドリック・ノベトリーである。
セドリックお兄様は王子殿下と同年代で幼い頃から仲が良い。私は会わせてもらった事はないけど、プライベートも学園でも一緒にいると話をしていた。
一番目のビクトルお兄様と違い可愛らしい顔立ちをしていて、ゴリゴリのマッチョではなく、見た目は細いが意外と筋肉が程よく付いている細マッチョなのだ。
セドリックお兄様と私は全体的なパーツは似ているが、髪色はオレンジブラウンで、瞳の色も赤なので、セドリックお兄様は私と違って色はお母様に似ている。
私とビクトルお兄様の髪と瞳の色は、お父様譲りなのだ。
「何で一人でいるんだ!何かあったらどうするんだー!!」
もう、何かあった後なんですが······あと、痛いわ······。
抱きしめられている私の体からミシミシと音がする。
セドリックお兄様は可愛いもの好きで、よくクマのぬいぐるみを抱きしめては中の綿が飛び出してしまい、繕ってもらったがダメにしてしまう。
そして毎回、泣く泣く買い直しているのを思い出す。
抱きしめている姿はとてもお似合いなのだけれども······。
「リー!無事で良かった!!」
今、無事ではなくなりそうです······あのクマのぬいぐるみのように私からも綿が出る······。
「リック、リリス嬢を離しておあげよ。大変な事になってしまうよ?」
「はっ······」
鶴の一声でお兄様は離してくれた。私からはクマのぬいぐるみのように綿が出ずに済んだ。
「すみません殿下。つい、可愛い妹がいたので、押さえきれず抱きしめてしまいました」
「いや、いいよ。こうなるとわかっていたから」
セドリックお兄様がシスコンだと周知の事実として理解されていて許された。優しい王子殿下で良かった。そして、王子殿下がお話中はずっとよしよしと撫でられています。
王子殿下は困り顔で、諦めているようだった。
「リー、ビック兄さんはどうした?僕は今日、一緒に居られないからとお願いしたのに!!」
「ごめんなさい。ビクトルお兄様は悪くないの。私が勝手に会場を抜け出してしまって······」
「こんな所で迷子になって、魔獣ならまだしも、男に襲われたらどうするつもりなんだ!!」
もう、襲われた後です。あと、男性より魔獣の方が危ないと思う。それに魔獣だってそう簡単には出てこないし、魔獣が生息している森ではなく、ここは天下のシルフィード公爵家です。セドリックお兄様は色々まちがっている。
そう、男性!忘れてた!この状況を弁明しなくては!!
「「申し訳」ない」ありません」
二人が同時に言った。謝罪をすべく言葉を口にした際、被ったのは今まで一言も発しなかったシルフィード公爵令息だった。
何で?
シルフィード公爵令息は私をチラリと見た。私は彼の輝く宝石の様な瞳と目が合った。この吸い込まれるような瞳をいつまでも見ていたいと思う自分がいた。
正に"美しさで全てを虜にする!"といった感じだ。
今は見入ってる場合ではない!!
「あっあの、私······」
「済まない。その者は俺の従兄弟でアダン・グリストフだ」
「!?」
良かった。やはりシルフィード公爵令息ではなかったのか。しかしながら、公爵家の親戚には違いないので、何かしらの償いはしなくてはいけないのだろう。
お母様のお叱りだけで済まないのは覚悟して、殿下と公爵令息様には話をしないといけない。
お母様直伝の優雅なカーテシーをして、ご挨拶から始めよう。
「マリユス・メヌール王子殿下、アルベール・シルフィード公爵令息様。このような状況でのご挨拶になり、申し訳ございません。私ノベトリー伯爵家の娘。リリス・ノベトリーと申します」
「わぁー!リー!!ちゃんと挨拶が出来て偉いね~!!」
セドリックお兄様が頭を撫で回して、ギューギューと抱きついてきた。痛いから、あまり強く抱きしめないで欲しい。王子殿下の前でシスコンが過ぎるわ。
けれど、そんな兄妹を見てハハッと王子殿下が笑ってくれた。流石だわ"皆の憧れ!煌めきが止まらない王子殿下"の笑った顔は煌めいている。
「ハハハッ······色々と気にしないで~。全部わかってるから~」
ん?どういう事です!?
噂とは違い、急に砕けた感じで王子殿下が話し始めた。