21話
残したデザートを食べたいと思うが、それよりも食事を残すという、勿体無いことをしてしまった。
ノベトリー家では、お母様から命をいただく大切さをかなり厳しく学んだのに、家を離れた途端に守れないなんて······。
しかも苺のデザート。自分が一番好きな苺だったのが許せない。
何よりもアル様が育てた苺を無駄にしてしまった。
大切に育ててくれたアル様の気持ちも一緒に、台無しにしてしまった気がする。
「はぁ······」
「······」
つい、溜め息が出てしまったが、アル様は何も言わずにいる。きっとまだ怒っているのかな?······何に?
そうか!!アル様が怒っていたのは、私がデザートを残したからだ!!
自身が育てた苺を蔑ろにされたから怒っていたのだろう。それは怒っても仕方ない!!
いざとなれば、床に這いつくばってでも謝ろう。
「······あの、アル様。すみませんでした!!」
「······何故謝る?」
「えっと······、私が苺のデザートを残してしまった······から······で、す」
勢いよく頭を下げたが、やっぱり這いつくばらないと許してもらえないのかしら······。
「······そんな事ではない」
そんな事ではない!?えっ!?何??私の考えてる事以外なの??
突っ込んで聞いて欲しくない事でも聞いた?話を流せなかった事とか??公爵家に相応しくない何かがあった??
「えっ??えっ??」
「······っ、言いにくい事なんだが······」
怒る程の事、尚且つ言いにくい事って、私は相当な失態をおかしてますよね。
このままいくと、やっぱり婚約破棄になる?
アル様からバッサリ言われるのは怖いわ。
「······そうだな······苺のデザートについても関わりは······あるが······」
あぁ······やっぱり苺のデザート食べ残しの事ですよね。今から戻ってでも食べる?
いや、それは意地汚いと思われるわよね······。
どうしたらいいの······。
「俺は······「お嬢~様ぁ~!!」」
悶々と考えていると、大きな声でレティアが手を振りながら、とても良い笑顔でこちらへ向かってきた。
公爵様から部屋へ下がるように言われて、部屋へ向かっている時にいないとは思っていたけど······。大声でこちらにこなくても聞こえるよ?
ここはノベトリー家じゃないからね、格式ある公爵家だよ?
「どうしたの?」
「もぉ~お嬢様!置いていかないで下さいよ!!」
「えっ?レティアを置いていったつもりはないよ?」
侍女を置いていく主人だと思われてしまう発言は止めて!寧ろついてきてくれなきゃ!
「私じゃないですよ。これですよ?」
「······あーっ!!」
レティアの手には私が後悔していた、渦中の苺のムースだった。
「お嬢様の事だから大好きな苺のデザートを残したのを後悔していると思ったんですよ~」
いなくなった理由は取りに行ってくれてたのね。言動が突飛な事もあるが、私の事をよく理解してくれてる優秀な侍女だわ。
「ありがとう。心残りだったの······」
「そうですよね~。部屋に戻ったら思い出して泣き崩れると思っていたんですよ~。そんなお嬢様もナデナデして慰めますけど~」
これでアル様も怒りが収まるかな。一刻も早く完食しなくては!
「アル様!こうして苺のムースも手元にきたので、怒りを収めてください」
「······怒る······も何も······」
「お嬢様~。早くお部屋で食べましょう!他のデザートもいくつか持ってきてもらえるようにお願いしましたから~」
「えっ!本当?」
甘いもの食べたかったのよ~。しかも他のデザートまで。
「それと、バラの砂糖漬けも少々分けてもらいましたよ」
「······バラの砂糖漬け!?」
「はい。お嬢様の様子を見るからに気になっていらしたので、お願いしてきました」
「そうなのよ~。初めて食べて、美味しかったの。レティア、ありがとう」
そんな素敵な交渉をしてくれていたなんて、本当に優秀な侍女だわ~。
美味しいは幸せだから、アル様もきっと許してくれるはず。
「折角ですから、アル様もご一緒にどうですか?」
「······」
あれ?まだ表情が曇っている気がする。また何か違っていたのかしら······。
「······アル様?」
「······俺は、自室に戻る······」
「はい······分かりました」
「······」
一緒に食べるのかと思っていたが、アル様はそれ以上何も言わずに行ってしまう。
結局、苺のムースを食べても解決はしなくて、何が原因か分からないままだった。
「お嬢様。お茶を淹れますから、部屋に入りましょう」
「······えぇ、そうね」
一度も振り向かずに去っていく姿を見送り、私は物悲しい気持ちになりながら部屋へ入った。
レティアに美味しいお茶を淹れてもらい、残していた苺のムースを食べた。
「······?」
「どうされました?」
「何でもないわ······」
変ね······。食事の時はあんなに美味しく感じたのに、今はそこまで美味しく思えなかった。
甘いはずのバラの砂糖漬けも、先程よりも甘味が感じられない。初めて食べた感動と二回目でこんなに違うのか······。
でも、他のデザートや甘くて美味しいはずの苺も何か足りない······。何が足りないのか······。
それにアル様は何故あんなに怒っていたのか、悲しそうな顔をしていたのか······。
今日、初めて会ってからアル様には良い印象しかなかった。無口な時もあれば、気遣ってくれていたし。
穏やかな話し方をしながら優しく接してくれていると感じた。
それなのに、急に冷たく突き放されてしまった······。
もしかして、アル様への私の気持ちが煩わしく思われた!?
どうやって接するのが正解なのか分からない。
たかだか十五年しか生きていないが、私の中で今日が一番気持ちがの浮き沈みと、自分の考えが分からなくなっている。
他の人はこういう時どうしているのかしら?
あぁ······こんな時に友人がいたら相談が出来るのに······。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。