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20話



 そのまま食事は続き、最後のデザートが出てきた。

 美味しいそうな苺のムースだった。薄いピンクと濃い赤ピンクのピューレの二層になっていて、上には苺とバラの砂糖漬けとミントが飾られていた。

 今まで、すみれの砂糖漬けは食べたことがあったが、バラの砂糖漬けは食べたことがなかった。

 見た目も綺麗なバラが味も美味しくて、もっと食べたいと思ってしまった。バラの香りに包まれながら、苺も堪能できたので、幸せな気持ちになれた。


「あらあら~、本当に美味しそうに食べるわね~。これは作った側からすると、とても嬉しいわね~」

「本当に美味しいです!苺はアル様が育てたとお聞きしました。苺は勿論なのですが、このバラの砂糖漬けの香りもいいですね!初めて食べました!!」

「······」


 何だかアル様が少し不機嫌に見えるが、大丈夫です。苺はとても美味しいですよ。何を食べても私が一番好きな食べ物は、今も昔も苺ですから。


「バラも気に入ったのね~。そのバラはね~」


 ーーバァン


「遅くなりました!!」


 ノックもなく、勢い良く扉が開かれた。遅くなったと言っていたので、話しに出ていたアル様の弟のベルリック様かな。

 見た目も美人なリアお義母様にとても似ていた。


「もぉ~、ベルリックったら~。可愛らしい女の子の前で端ないわよ~」

「「······」」 

「えっ!?あぁ~!そうだった~。兄上の婚約者さ~ん!!何て呼べばいいの~?姉上~??でも、僕と同じ歳なんだよね~?僕の事はベルと呼んで~」


 この方は見た目だけではなく、喋る勢いなどの中身も、リアお義母様とそっくりだった。

 見るからに言葉も動きも弾ませながら、こちらへ近づいてきた。何かいい香りもする。

 そして、同じ年齢だとは初耳です。


「では、ベル様。リリス・ノベトリーです。よろしくお願い致します。えっと······同じ歳ならば、リリスと、お呼び下さい」

「いや~様もいらないんだけどね~。でも~同級生だからと呼び捨てなんてしたら、兄上に何される事か~。だからリリスちゃんにするね~」

「······はい」


 勢いが凄くて、押しきられた感じになったのは、先程のリアお義母様とのやり取りと同じだった。


「あぁ~、ほら~。兄上の不満そうな顔~。ちゃん付け駄目なの~?呼び捨てでいいの~?」

「······ちゃん付け」

「りょうか~い。リリスちゃんも大変だね~こんなにしっ······」

「ベルリック座りなさい」

「はぁ~い」


 公爵様が怒るわけでもなく一声掛けると、今であんなにはしゃいでいたのにピタリと止めて、空いていた席へ座った。


 本当にリアお義母様とそっくりだなと、クスリと笑えてしまった。


「「~っ可愛~い」」

「「!?」」

「えっ?」


 リアお義母様とベル様が同時に同じ言葉を言って、公爵様とアル様が同じ反応をしていた。


「やっぱり女の子の反応は可愛いわ~」

「兄上はいいな~可愛い婚約者がいて~。僕もリリスちゃんみたいな婚約者欲し~い」


 何か急に褒め殺しが始まった。これはどう反応していいの!?リアお義母様とベル様みたいな美人の人達に褒められた事がないから、どう返せばいいのか分からない

 "ありがとうございます"でいいの?"お二人の方が美しいです"がいい?経験が無さすぎて、何を言えば正解なのか分からない。

 二人は尚も、チュンチュンと朝の小鳥が鳴いているように可愛らしく話をしている。


「え~こんなに可愛い子なかなか見つからないわよ~」

「そうですよね~」


 うぁー!もう私の顔は苺のように真っ赤になっていると、鏡を見なくても分かるくらい火照っている。

 二人の会話を止めて欲しい。


 ーービュッ······


 一瞬冷たい風が吹き抜けた。途端に二人は「「ぐっ」」と押し黙ってしまった。

 私の火照った頬には丁度良いひんやり感だったが、リアお義母様とベル様はガタガタと震えていた。

 そんなに寒いかな?と思い、アル様を見ると無表情なのにゾワッとするくらい怒ってる。

 えー!?怒る所ありましたか??


 何処と無くうちのお母様を見ている気がして、グッと身構えてしまう。


「······アルベール。リリス嬢が怯えてるぞ」

「リリー······」

「だっ、大丈夫です······」


 冷静な公爵様がアル様を嗜めた。お母様の方がよっぽど怖いので、私はそんなに怯えてはいない。アル様は明らかにしゅんと落ち込んでしまった。


 こんな事を思っては何だけど······可愛い人だわ。


 駄目だ······。注意深く見ていると、思いの外、コロコロと表情が変わっている。そういう姿を見てしまうと更に好きになってしまう。

 気を付けようと思ったのに、簡単に揺らいでしまうくらい惹かれている。


 これはどうしようも出来ないのかもしれない······。

 取りあえず、アル様を安心させよう。悲しそうな顔はあまりして欲しくないから。

 アル様に向けて、にっこり微笑んで言った。


「アル様、本当に大丈夫ですよ」

「······リリー」


 すぅーっと、空気感も寒いものから暖かい風に変わった気がする。

 それと同時にアル様の表情も心なしか、ほんわかした顔になったように見えた。


「······ごめんなさい。リリスちゃんありがとう~」

「······兄上。余計な事は言いませんから、許してください······」


 リアお義母様とベル様がまだ、プルプルとしながらアル様に謝っていた。


「ふぅー。私が二人を言い聞かせておくから、アルベールとリリス嬢は部屋へ戻りなさい」

「······分かりました。では、失礼致します」

「はい······」


 ドタバタとした夕食は強制的終わり、公爵様に最後を任せたまま離席した。

 部屋へ戻る途中で、デザートが食べ途中であった事を思い出した。


 苺自体も良かったが、バラの砂糖漬けも良かった。リアお義母様がバラの事を何か言いかけていたので、お会いしたら続きを聞いてみよう。


 でもデザートを残してしまった······。心の中で思いながら部屋まで来てしまった。


 今戻ったら残したの食べれるかな······。






 最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

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