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2話


 赤くキラキラと輝く苺のタルトに手を伸ばしたら、ふわっと風が吹き、マカロンくらいの大きさの白い光の球が目の前を通り過ぎた。

 周りの方は誰も気付いていないのか、気にしていないのか。私も気にせず、再度、苺のタルトに手を伸ばす。


 「えっ!」

 

 今度は目の前でフワフワと浮かんでいたので、気のせいではないようだ。私の周りをくるくると回っている。

 すると、マカロン大の球体が誘うかのように動き出した。私も自然と後を追いかけた。

 

 「これって、ついてこいってこと?」


 パーティー会場になっている庭横の林の小道をどんどん進んでいく。何故、付いてきてしまったのか······と思いながら歩いていると、先程とは違う庭へ出てきた。

 こちらの庭はパーティー会場よりもかなり小さい庭になっていて、ガゼボの周りには小川が流れていた。

 この庭に咲く花々は青に統一されていて、その中に佇む白いガゼボはとてもシンプルで美しかった。


「わぁー素敵。こんなお庭見た事がないわ」


 うち以外の貴族の庭を知らないので、こんなに綺麗な庭があるのかと思いながら、自然と足が進んでいく。

 心地良い風がそよそよと吹き、さらさら流れる小川に掛かる小さな橋を渡り、白いガゼボからネモフィラやデルフィニウム等の青い花々を眺めた。


 あぁ~ここにずっと居たいわ~。


 何もせず、ずっとこの場所に居たいと思える程、居心地が良くて癒される。


「誰だ!お前は!!」


 突然、大声で言われたので、驚いて体がビクッとなった。でも私は、許可なく迷い来んでしまった身なので、謝罪をすべく声のした方を向いて、勢い良く頭を下げた。


「もっ、申し訳ありません······しっ、知らず内に迷い来んでしまいました」


 誰なのか分からないが、ここに居るという事は公爵家関係の方かもしれないので、勝手に彷徨いてしまった事を謝罪しなくてはいけない。


「あー、ガーデンパーティーの招待客か?」

「はっ、はい」

「取り敢えず、顔上げろよ」


 許しが貰えたので、恐る恐る顔を上げてみると、黄色に近い黄緑色の瞳にシルバーを少し暗くした色の髪。十七、八くらいの年頃の男性が立っていた。

 これはもしや噂の②美しさで全てを虜にする!眩しすぎる"公爵令息"ではないだろか。髪もシルバーで、年齢も合っているだろう。

 でも、私が思ってたのとは違って"拝めない"し"ときめきがしない"だった。それなりに整った顔立ちではあるが、噂程の"美しさで全てを虜にする!"とまではいかないかな。

 それよりも相手が公爵令息となると、ひとつひとつの言動を気を付けないと不敬になり、ノベトリー家への影響は計り知れない。


 穏便にこの場が過ぎるように対応しなくては······。


 まずはお母様直伝!優雅なカーテシーでご挨拶をしなくてはいけないわ。


「ご挨拶が遅れて申し訳ありません。ご招待、誠にありがとうございます。わたくしリリス・ノベ······」

「あっ!リリスちゃ~ん。やっぱり可愛いね~」

「!?」


 やっぱり!?私の事知ってるの??

 それより、自己紹介中に言葉を被せられた······公爵令息なのにそれは有りなのかしら!?

 私は呆気に取られて、口が半開きになってしまった。


 いけない!こんな顔をしていたら、お母様からお叱りを受けてしまう!!


 きゅっと口を引き結び、笑顔を張り付けて、何事もなかったかのように振る舞う。

 けれども、相手はグイグイと迫ってきて、肩を抱こうとしてきたのでサッと避けたが、左手首を捕まれた。


「リリスちゃん可愛いから、前から目を付けてたんだよね~」

「いや、あ、あの······私、会場に戻りたいんです」


 何で!?前から??お兄様の友人!?何か、公爵令息様は噂とは違う軽い感じだけど!?

 ちょっ、痛い!思い切り掴まないでよ!!


「いっ······」

「もう、会場には戻らずに、俺とここで仲良く過ごそうよ!」


 どんどんすり寄ってきて、肩にまで手を置いてきた。


 イヤー!!無理無理!!ゾワッとする!!誰か助けて!!


「······あぁぁ······ここ······っ」 


 近くに人がいるようで、声が聞こえた。助けを求めようとしたが、恐怖で声が出てこない。


「い······ぃ······」

 

 何とか距離を取ろうと必死に手を振り払った瞬間、風を巻き上げながら相手の体が宙に浮いた。

 ドーンと大きな音を立てて相手は、大の字になって倒れていた。

一瞬の出来事で、掴まれていた手は離れて相手は気を失っている。

 私はハッとして顔を上げた。その時、視界に入って目が合った。



ーー見ているだけで吸い込まれるようなペリドットの瞳。日差しに反射してキラキラと輝く澄んだシルバーの髪がさらっと靡く。

 自分の鼓動が早くなる音だけが聞こえる。周りの音は一切耳に入らず、その人にだけ集中している。思わず呟く。


「······きれい」


 はっきりわかった。この人がアルベール・シルフィード公爵令息だと。

 私は"拝める"や"ときめく"の意味が漸くわかった。

 サァーっと風が吹き抜けたと同時に我に返った。こんなに引き込まれる人に初めて会った。

 あれ?この方がシルフィード公爵令息ならば······


 この倒れている方は誰!?


 「······リリス嬢?」


 ①皆の憧れ!煌めきが止まらない"王子殿下"が、不安気な表情で声を掛けた。


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