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18話



 冷たいタオルと美味しいお茶で落ち着いたはずなのに、まだ心が乱されている。


 原因は隣のアル様。


 噂通りの「美しさで全てを虜にする!眩しすぎる"公爵令息"」なのだけど「女性に対して冷たい態度の公爵令息様」という噂なのに、前者の噂は本当だったけど、後者の噂は嘘だったのかと思う程。

 無様な姿ばかり見せている政略結婚の私にも優しくしてくれているし、誰もが恐れるお母様とも長く話をしているし、気に入られていた。


 どのアル様も素敵なのだけど、あまりにも眩しい方の量が多いと何も出来なくなってしまう。

 聞きたい事はたくさんあるのに、話が出来ないなんて、態度が悪いと思われてしまわないかしら······。

 どう切り出していいのか······。


「アルベール様。夕食までにある程度お話されませんと、リリス様は混乱されたままですよ」


 素晴らしい助け船!本当に出来た執事だ事!!主人の事も相手の事も気にしての声掛け。

 でも、うちのレティアもやる時はやる子ですから!

 今のレティアはどうやったらこのように美味しいお茶を淹れられるか、一生懸命技術を学ぼうと挙動不審になってるのが面白い。

 私の美味しいの幸せを追及してくれるために必死になれるレティアは、最高の侍女なんです。


「······そうだな。何から話せば······」


 アル様は私に気を遣いながら、言葉を選んで話をしてくれようとしている。

 アル様ばかりに任せるのではなく、私も聞きたい事はきちんと聞いて、見解を述べなくてはいけないと思った。


「······一つお聞きしても良いですか?」

「何だ?」

「えっと······いつから私たちは婚約者なのですか?」

「あぁ、リリーは何も聞かされていないのだったな。そうだな······婚約したのは、リリーが三歳で俺が五歳の頃だな」

「えっ!?そんなに前からですか!?」


 まさかそんなに前からだったなんて······うちの家族も使用人達もよく十二年黙っていられたなと、感心してしまう。


「俺の母上がノベトリー伯爵夫人の事を大層気に入ってな。それが切っ掛けで茶会に呼んでもらったんだ」

「······そうなんですね」


 お母様と公爵夫人の仲良くしたのが切っ掛けなのね。子供同士が良い具合の年齢差だったから、両家が更に仲良くするための婚約······。


「最初は婚約するなんて······とは思ったんだが、色々と条件だったり、約束事もしたのでな······」


 やはり、家同士の強い繋がりの政略結婚。ノベトリー家にとっては公爵家と縁続きになるのだからメリットしかない。

 私はアル様を好きになったのだから、見方によっては恋愛結婚なのではないか。

 それで良いのは私だけ、アル様はどうなのか······。


「······私達は政略結婚なんですね」

「「!?」」


 アル様の口からの「そうだ」という肯定の言葉を聞きたくはないので、耳を手で塞ぎ、顔も見ずに反らして、まだ挙動不審のレティアを見て気を紛らわせる。

 恋愛結婚が許される国なので、いつかアル様に釣り合う素敵な方が現れたら?政略結婚の私は太刀打ちできない。

 まだ見ぬ未来のアル様の恋人に嫉妬してしまうと、胸が急にぎゅっと締め付けられて苦しくなった。


「······」

「アルベール様、些か言葉足らずな点があったように思います」

「······」


 何かぽつりとクルトが言っていたようだが、アル様は何も言わずに固まったままだった。

 政略結婚でも、止めを刺さずにいてくれるのはアル様の優しさなのかもしれない。


「······リリー、ちがっ「お嬢様!」」


 先程まで挙動不審のレティアが自信満々の顔で私の目の前にティーカップを持ってきた。


「······レティア?」

「お嬢様に私の淹れたお茶を、飲んでもらいたいです!!」

「······分かったわ」


 レティアに進められて飲んだお茶はいつもよりも、香りが良く出ていた。

 先程、飲んだクルトの淹れたお茶も美味しかったが、レティアのお茶も負けない程美味しかった。

 美味しいは人を幸せな気持ちに誘ってくれる。


「レティア、ありがとう。美味しいわ」

「リリ「やったー!!」」


 レティアは嬉しそうにクルクルと回って、喜びを表現している。これが出るということは、相当喜んでいるのね。


「······リリー、政略結婚で」


ーーコンコン、コンコン


「夕食の準備が整いました。旦那様と奥様もいらっしゃいます」

「~っ、分かった」


 何かアル様は言おうとしていた?


「あっ!お嬢様、夕食だそうですよ。体調大丈夫ですか?食べられますか?」

「えぇ、大丈夫よ」

「······では、案内致します」

「······」


 クルトを先頭に食事の部屋まで案内してもらう。

 結局、アル様は言わずにいるので、何か言おうとしていたのは間違いだったのかしら。

 この先、アル様に良い方が現れるまでは、例え政略結婚であろうとも、しっかり勤めを果たそう。やっぱり、好きな人には良い恋愛をしてもらいたい。

 想いはなるべく外に出さず、気持ちも大きくならないようにしないと別れは辛くなる。

 アル様は優しい方だから、婚約破棄になっても、悪いようにはしないだろう。


 私はこれ以上好きにならないように気を付けるだけ······。




 最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

 引き続き読んでくださっている方々には、本当に感謝です。

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