赤一色
その時、長年眠っていた日本人の本能はごまかせないトリガーに揺さぶられ重たい体を起こした。渋谷スクランブル交差点、混ぜすぎた絵の具がどす黒い色になるように、混ざりきれない幾多もの人間臭が無作為に屈折しレーザーのように切り裂く鼻先。
視界を遮れば遮るほど虚像のような目玉の矛先はあちらこちらへその刀身を伸ばしかわしきれない者達は切り傷をつけ合いながら肩で接吻をし、唇を噛んでしまったミスがぎこちない血を垂らす。
ボロボロの僕は渋谷スクランブル交差点の中核にいる。飲みきれないドロッドロで固形のような最後のスープ。それを毎日毎日植木鉢に流してきた。溜め込んで溜め込んで、鼓膜を震わせることでその残飯を誤魔化してきたのだ。雑食プレイリストが漏れるヘッドホンが繋いだ五線譜。それを「えいやっ」と高く高く放る。渋谷の真ん中でビルに囲まれながらヘッドホンがその座標を書道の最初の一筆のようにぐしゃり、叩きつけた。
美しい赤。ゲロのように汚い赤。粘膜を通って体内にこそ入れば病気になりそうな赤。綺麗事こそ信じ善とし宗教のように頑張って生きるクソみたいな人間の赤。この色を赤と最初に名前をつけた者に見せつけてやる。赤い渋谷スクランブルを僕はこの筆で描いた。
赤一色である。