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九重さんちの四季折々。  作者: 鳥路
4月:九重家の新生活
13/14

4月5日②:早朝の散歩

志貴の朝食を終えて、洗濯機をセットした後…二人は早朝の公園に向かう。

近所にある公園は広大で、朝の早い時間帯ではあるがウォーキングやランニングにやってきた一般人が集まっていた。


こんな場所だ。志貴はとても目立つ。

車椅子に座った怪我人。嫌でも人目を惹いてしまう。仕方のないことだ。

しかし…。


「ああ、おはよう。九重君」

「おはようございます、今日もいい天気ですね」


「深参君はお友達と朝の散歩かい?」

「ええ。ずっと引きこもっているのは、やっぱり悪いと思うんで」

「私達にできることがあったら、構わず声をかけてね」

「ありがとうございます」


通り過ぎる人々に好意的に接して貰えている深参の姿を見て、隣に立つ響子は唖然とする。


「…貴方、さっきのおじさまとおばさまと知り合いなの?」

「いや、ここで会っただけの人。名前しか知らない」

「まあ」

「元々人付き合いがいいのは知ってるだろ?」

「まあ、分かってはいたけど…ここまでとは思って無かったのよ」

「志貴ってやっぱり人目を惹くし、俺たちだって兄弟とか身内とかそういうオーラじゃないじゃん?事情を軽く話しておくと、変な目で見られずに済むから結構楽だよ」

「まあ、そうだろうけど…」


響子は仕事の関係で、こうして朝の散歩に同行する機会が少ない。

深参は顔見知りができても、響子は一緒に顔見知りと言うわけではないのだ。


「あら、深参君。今日は彼女さんと一緒?」

「ええ。そんなところです」

「熱いねぇ」

「あはは」

「手放しちゃダメよ」

「そうですね。これからも大事にします」

「もう、深参君ったら」


勿論それは周囲からしても異質。

顔見知りの面々から、響子との仲を茶化されつつも、笑顔で応対する。

内心は、深参も響子…お互い全く笑ってはいない。


「…貴方と恋人扱いされるのは心外なんだけど」

「奇遇だな。親父さんに志貴の面倒を堂々と見るって言えないから、人を婚約者に仕立て上げた女には言われたかねえわ」

「仕方ないじゃない…!私が志貴さんとそういう間柄であれば…違ったかもだけど…」

「おかげで俺はお前との仲を鳴瀬家に素行調査された時用の外堀まで作る羽目になったんだわ」


「無駄な労力を負担させてごめんなさいね」

「ま、俺は美味い飯タダで食えるし、割と釣り合っている間柄だと思うぞ」

「…褒めても何もでないわよ、ばーか」

「出ないだろうなぁ。褒めて、この前作ってくれた炊飯器チーズケーキは出てこないもんなぁ」

「気に入ったの?それぐらいまた作るわよ」

「マジで?頼むわ」

「はいはい。他にもリクエストがあるなら言いなさい。遠慮はいらないわよ」


「じゃあ、後でリスト送るわ」

「リストを作れる程度にあるのね…」

「お前の菓子うまいもん」

「貴方のそういうストレートなところ…いいところだけど、なんだか照れるわ…」


何度も言うが、この二人。付き合っていない。

無表情で座る志貴の口角がヒクつく程度にその関係はおかしい。

しかし、二人は気づかない。

どう見ても付き合っている距離感だと指摘する者はこの場にいない。

なんなら周囲は付き合っているものだと思っている。

そう見られるほど、この二人の距離感は近い。

お互い生活を共にしてきて、信頼だけは深め続けた結果がこれである。


「そういえば、親父さんは今度いつ帰国すんの?」

「来月。そのタイミングでお母さんも仕事が落ち着くから、食事をしないかって」

「マジか〜」

「次の食事会では「いい報告」を聞きたいって連絡があってねぇ…お父様もいつも通り、早く深参君をお婿にしてって連絡来るし…。孫抱きたいとかしょっちゅう連絡来るし…。頼むわよ…。後、いつも通り言い訳のネタを…」

「最初に、一馬の体調で目を離せないこと、せめて司が小学校卒業する程度はって条件つけたじゃん。ご両親まだ不満げなの?」

「できれば、早くっていつも…」

「三十前じゃダメな感じ?」

「もうおめでたでも許すから早く深参君を捕まえた報告をしてほしいと言い出しているわ…」

「実の娘になんちゅう事言ってんだあの人は…まあ名門鳴瀬の一人娘の相手がいつまでも結婚に後ろ向きって言うのも、お袋さん的には不安なんだろうけどさ…司が小学校出る頃には、俺たち三十も目前だし、ここまで伸ばしたら逃げらんないだろうなって思うし、お前も本命見つけられるだろ?てか見つけろ」


「探すの面倒くさいし貴方でいいわ。二人で志貴さんの介護しながら過ごしましょうよ」


「割といい案ではあるけど、現実的じゃないぞ…あと妥協すんな。一生添い遂げる相手だぞ」

「いや、もう何年も一緒に過ごして気心とかしれているじゃない?これをまた一から別の人と構築するのを考えると…ほら」

「ぐぬぬ…気持ちは非常に分かる…まあ、もしもの時があれば…」

「どうしたの、深参君」


深参の脳裏に、もしもの光景が浮かぶ。

響子と結婚した未来は今と大して変わらないだろう。

問題は、その先だ。

それを考えたら…必然と…。


「…その時は俺を原因にして養子取ろうな」

「そうしましょう」

「いっそのこと志貴から貰ってくれ。志貴共々俺が養う」

「私も養わせて頂戴。野望を形にするわよ、深参君。病院調べておいて」

「ああ」


二人には見えないところで、志貴の目が泳ぎ出す。

自分の意志ガン無視で色々な事が進んでいる。

流石の志貴も動揺せざるを得ない。


「そういえば、貴方と似てないってなったらどうしましょう」

「大丈夫。金髪の子が産まれても…隔世遺伝かも〜とか言えばいいし」

「そういえば貴方のご両親孤児だったわね」

「身元が分からない分、もしかしたら〜がやり放題だからな」

「貴方と一緒に過ごしていると、本当に気が楽だわ」

「奇遇だな。その点は俺も同じだよ」


晴れやかに笑う二人の顔は春一番。

頭の中も春真っ盛り。

そして志貴の顔も…自分の人生が自分の知らないところで予想外の方へ向かっている困惑こそしているが、一種の期待で満ちていた。

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