36.赤い彗星
「でも、その女性は二〇代前半ぐらいだったって聞いたけど、イツキちゃんは十代だろ?」
「えっ? 私、二七ですよ」
「「「えーーーっ!!」」」
「ぶはっ!」
実年齢を告げると、ステラちゃん、ホクルトさん、リークさんが驚き声をあげた。そして、リュウは吹き出した。食堂にいた人達が何事かと、こちらを凝視している。今更だけど、防音と認識阻害の魔道具をテーブルの上で発動する。今度からは、最初から使おう。
「しぃーっ! みんな見てるじゃん。そんなに驚くことないでしょ?」
「いや驚くよ」
「イツキさん、私よりちょっと上ぐらいだと思ってました」
「まさかの俺らと同年代……」
ステラちゃんが一七歳、リュウ、リークさん、ホクルトさんは同級生で二八歳だった。
「じゃあ、本当に迷い人でオチュードに住んでるんだ」
「そうですよ」
「んだよ。爺様も婆様も言ってくれりゃ良いのに」
「ウチも。聞いてもはぐらかされてた」
「ん? 爺様婆様?」
私が首を傾げると、それに気付いたリュウが聞いてきた。
「あれ? 俺、こいつらのこと説明してなかったっけ?」
「同級生ってのと、確か貴族様だったってことだけ覚えて……る?」
だって、貴族名鑑って分厚いから覚えきれなくて……。まるで歴史の資料集を見てるみたいで、落書きしたくなっちゃう。
「じゃあ改めて、俺はリーク・オルクス。爺さんは、元宰相のハデス・オルクス」
「次は俺ね。ホクルト・トラキア。爺さんは、元騎士団団長のアレス・トラキアだよー」
「えーー!」
まさか、オチュード村のおじぃおばぁの身内だったことに、今度は私が驚いた。
「確かに孫がいるとは聞いていたけど、まさか既に会っていたなんて」
「俺もビックリだ」
「それな」
「オチュードの爺様達に指導されてりゃ強いよな」
「今、冒険者ランクいくつ?」
「まだランクCですよ」
「イツキ、まだ登録して1年もたってねーだろ? それに、この前聞いた時、Dだっただろ」
先日の臨時パーティーでオーク討伐したことで、私の冒険者ランクはCに上がっていた。
「1年もたたずにCって、イツキさん凄い……」
「やっぱ、迷い人は規格外って本当だな」
「確かに」
*****
リュウ達が帰り、今日の食堂の手伝いを終えた私は、いつも通り村へ帰るために東門へ向かう。今日、ステラちゃんは家に帰ると言うので冒険者ギルド前で別れた。
ーー主、つけられてるぞ
ーーん? 本当だね〜。ニ……いや三人かな?
ーー正解。
私の上空を飛んでいる朱雀から念話が届いた。私も歩みを止めず気配を探ると、私を付かず離れずついて来る人間がいる。とりあえず気づいてないふりをして歩く。
東門に来ると、顔見知りの門衛さんと少し話して、差し入れとして焼き菓子を渡す。そして、いつものように潜り戸を通してもらう。潜り戸が閉まった後に、何やら後ろで声が聞こえるがスルー。
ーー主、つけていた男達が地団駄踏んでるぞ
ーーふふふ。そりゃあねぇ〜。
東門は、基本的に緊急時しか通れない。でも、私はシェサール辺境伯様に許可を貰っているから特別。だから、私をつけて来ても東門は通れない。
東門が見えなくなる位置まで来たところで、私はリュックからマウンテンバイクを取り出す。このマウンテンバイクは、バルカン爺ちゃんに作ってもらった。
それは、ある日おじぃおばぁ達とお茶をしている時に、バルカン爺ちゃんから聞かれたことから始まった。
「あっちの世界じゃ馬で移動せんのじゃろ?」
「うん。車とか電車だよ、あとはバイクとか自転車」
「車、電車、バイクは聞いたことがあるし、今でも研究しとる奴がおる。じゃが、自転車とはなんじゃ?」
「んー、なんて説明したらいいんだろ。あっ、ちょっと待って」
私はスマホを取り出すと、ミクちゃんを呼び出し自転車について説明してもらう。
『自転車とは乗り手の力によって駆動し、かつ乗り手の操縦によって地上を走行する二輪車です』
「ミク殿、その自転車とやらの写真はあるかの?」
『ございます。こちらです』
ミクちゃんの出してくれた自転車の写真を見て、バルカン爺ちゃんは興味津々。その後、自転車の構造図などをミクちゃんに見せてもらって何やら頷いている。
そして、一ヶ月後出来上がったのは赤いマウンテンバイク。タイヤのゴムは、スライムで代用したらしくバルカン爺ちゃんは作り方を何やら熱く語っていたけど、営業スマイルでやり過ごした。乗ってみてもタイヤとしての違和感はなかった。空気を入れる必要がないので、パンク知らずだ。
本人が乗るかと思いきや「作っただけで満足じゃ」と言って私にくれた。私は、この赤いマウンテンバイクに“ザク号”と名付けた。だって、赤くて速いときたら『赤い彗星』でしょう?
ザク号を貰ってからは、アドベントゥーラに行くのに毎回使っている。徒歩でかかっていた時間が、ほぼ半分に短縮されたので本当に助かってる。
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