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【連載版】連勤術師の悠々自適な生活  作者: ラクシュミー
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30.虎の威を借る狐

 地道に材料調達を兼ねた依頼を受けながらランクをCに上げつつ、携帯食屋をオープンさせてから三ヶ月ほどたち軌道にのった頃、厄介な客が冒険者ギルドにやって来た。


「お前か? 珍しい携帯食を売っている奴は?」


 偉そうな態度で、購入の為に並んでいた冒険者押しのけて近づいてきた一人の男性。見た感じ四〇代後半で、冒険者よりは良さげな服を着ている。


「あー、たぶん?」

「そうか。では、あるだけ買ってやろう」

「じゃあ、並んで貰えます?」

「何だと!」

「だ・か・ら並んで下さいね。皆さん並んで頂いてますので」


「私は、とある高貴な方の使いであるぞ!! そのお方が、お前の携帯食を欲しているのだ、こちらを優先するのが筋というものだろうが!!」

「それはそれは、ありがとうございます。でも、あなたはその使いなだけですよね? じゃあ、最後尾に並んで下さい。……はい、お待たせしましたー! 今日は、何にします?」


 私は、その男性を無視して並んでいたお客さんを優先する。以前働いていた玩具店でも、威圧的なお客さんはいた。金のゴツイネックレスにロレックス、そしてオーストリッチのセカンドバッグに合わない上下ジャージを着たいかにもな人達。そんな人達にも、順番を守ってもらっていた私にとっては大声を出す男性にも萎縮はしない。


 しかも、こっちで冒険者となってからは、ある程度の威圧にも耐え切れる。さすがにオチュードのおじぃおばぁ達には、未だ勝てないけれど。それに比べたら、雲泥の差だ。


 ブツブツ文句を言っていた男性だが、周りの冒険者達の視線もあり最後尾に並んでくれた。そして、ようやく男性の順番になった頃には、おにぎりが一つだけ残っていた。


「はい、お待たせしました。残っているのはこちらだけですが、よろしいですか?」

「ふざけるな! ここまで待たせておいて、これ一つだと!!」

「はい。今あるのはこれだけです」

「私は、とある高貴な方の使いであるぞ!!」


「ええ、先程聞きましたよ。しかし、私の店では誰であろうと並んでいる方が優先です。聞きますが、その高貴なお方というのは、周りの人を押しのけてでも買ってこいという指示を出すような横柄な方なんですか?」

「何を!! 平民風情が不敬であるぞ!!」


「いやいや、今はその高貴なお方に聞いているわけではなく、お使いのあなたに聞いているのですが? もしかしてあなたも高貴な方ですか?」


 再度、その男性の身なりなどを確認する。確かに着ている服は良い生地を使っていそう、でも履いている靴は使い込まれていてすり傷や汚れもある。貴族の家令や執事であれば、足元まで気を使うとハデス爺ちゃんが言っていた。それを考えると、この男性はせいぜい従者か御者あたり。まぁ、虎の威を借る狐と言ったところかな。


「わ、私は……。と、ともかく、今すぐに新しい携帯食を作れ!!」

「それは無理です。材料もありませんし、ここで作っているわけではありませんので」

「な、なんだと……。材料なんぞ、そこら辺で買ってくれば良いだろうが!」

「ウチの材料は、そこら辺では売ってないですよ。だから、今すぐは無理です。あの、これ買わないなら次の方に売りますけど?」

「ッ! これでいい!」


 男性は、代金を投げつけるように渡してきておにぎりを掴むと足早に冒険者ギルドを出て行った。


「ありがとうございましたー。はーい、今日は完売でーす」


 私が後片付けをしていると、近くで私と男性のやり取りを見ていた顔見知りの冒険者たちが声をかけてくれる。


「さすが、イツキだ! 迷い人の女性はひ弱と聞いていたけどな」

「迷い人で、あーやって啖呵きれるのはお前ぐらいだよ。まっ、他の迷い人は見た事ねーけどな」」

「ホントホント。マジで、スカッとしたぜ!」

「いるんだよな、ああいうの。お前は使いなだけで偉くないだろって奴」

「「「それな!!」」」


 声を掛けてくれたのはランクC以上の冒険者たち。私が絡まれているのを見て、何かあったら間に入ってくれるつもりだったらしい。彼らとは、食堂の手伝いをしている時に知り合った。見た目は、強面だったりチャラかったりするけど皆んな良い人たちばかり。それに、私が迷い人という事を知ってからは何だかんだ世話をやいてくれる。


 ちなみに、私が迷い人なことは別に隠してはいない。最初は、他の冒険者から絡まれることを気にしたギルマスがランクGからのスタートにしたけれど、半年であっという間にDランク。しかも、登録試験後のおじぃ達の乱闘騒ぎや気難しいミャンさんの指名依頼もあって、一躍有名になってしまった。


 髪色や瞳の色のこともあって、わかる人にはわかる。だから、面と向かって聞かれた場合やラシッドとブランカの時のように話すタイミングがあれば迷い人だという事を言っている。だから、アドベントゥーラ冒険者ギルド所属の冒険者のほとんどは知っていた。


 お使いの男性との一悶着があって数日後、また更に厄介なお客さんが私の携帯食屋にやって来た。


 

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