29.携帯食屋オープン
ーープレゼンテーションの翌週
私は、朝からアドベントゥーラの冒険者ギルドにやって来ていた。冒険者の活動時間は、朝が早い。特により良い条件の依頼を受けようとする冒険者達に取っては。だから携帯食の販売は8時からと決めた。
ギルド内の混雑を避けながら、食堂に行くとエドモンドさんがテーブルを拭いていた。
「おはようございます、エドモンドさん」
「おはよ。今日から宜しくな」
エドモンドさんと挨拶をしていると、厨房の方から二人の男女が出て来た。
「紹介するよ。男の方がラシッド、女の子がブランカだ。二人共、この子が昨日話したイツキだ」
ラシッドは褐色の肌に黒髪、顎髭のある男性。ブランカは、オレンジの髪をおさげにした女の子だった。二人と挨拶をした後に、食堂の一角に折り畳みのテーブルを出してテーブルクロスをかける。
そこに、日替わりおにぎり三種類ーー今回の具は、この前プレゼンテーションで出したものーー、BLTサンドウィッチ、唐揚げ棒、アメリカンドッグを並べた。ちなみに、食べ物は全て油紙つまりワックスペーパーに包んである。駆け出しの冒険者は、マジックバックを持っていないことが多いらしく、食べ物をそのまま入れることが難しいと聞いたから。
値段は一律300G。食堂の料理が高くても500Gなので最初は150Gにしようと思ったのに、ガイルさんからは安すぎると言われてしまった。それでも、おにぎりの具材にしては安すぎると苦笑いしていたけど。
「あの〜、これってなんですか?」
「おにぎりは、お米の中におかずが入っている携帯食です。今回の具は、キングサーモンの塩焼き、ジェットブルの時雨煮、ワイルドボアとナスの味噌炒めの三種類です」
「じゃあ……キングサーモンとジェットブルを」
「俺は、ジェットブルとワイルドボア」
「俺、キングサーモンと唐揚げ棒」
「「あっ、俺も唐揚げ棒!!」」
「まいどあり〜。あっ、これオマケね」
「「「ありがとうございます!」」」
初めてのお客さんは、冒険者の三人組の男の子達だった。まだ冒険者なりたてらしく、マジックバックは持っていないらしい。なぜ知っているかというと、油紙に包んだ料理を見て「これなら持って行けるな」と話していたから。オマケには、大阪のおばちゃんのように飴ちゃんを渡した。この飴は、いつものハチミツ飴。
この後、顔見知りの冒険者の人達も買いに来てくれて、お昼前には完売御礼となった。
「ほら、お疲れさん」
「ありがとうございます! ガイルさん」
私が後片付けをしていると、ガイルさんがアイスコーヒーを持ってきてくれた。冷たいアイスコーヒーは、接客していた喉に染み渡り、生き返った気分だった。
「どうだった? 初日は」
「正直、こんなに売れると思わなかったですよ。もっと作ってくれば良かった」
「ガッハッハハハ。まぁ、最初なんてそんなもんだろ。んで、次は明後日か?」
「はい。明日は仕込みに徹しますよ」
「そうか。じゃあ、ともかく昼飯だな。その後は頼むぞ」
週三回、食堂の一角を貸してくれる代わりに15時まで食堂の手伝いをすることにした。私が手伝っている間に、食堂のスタッフは休憩に行ったり夜の仕込みをする。私もお客さんが引いたので、カウンターに入りながら野菜の皮剥きをする。
「イツキ様、手際いいっすね」
「うんうん、とても綺麗に剥けてます」
追加の野菜を持って来たラシッドさんとカウンターでランチをとっていたブランカさんが、私の手元を見て褒めてくれた。そして、なぜかラシッドさんとブランカさんは私を様付けで呼ぶ。
「そうかな? 料理人の皆んなには敵わないよ」
「いやいや、だって貴族なんでしょ? 貴族のご令嬢が料理出来ること自体珍しいし」
「えっ!? 私、貴族じゃないよ」
「「えっ?」」
よくよく話を聞いてみると、私が来る前にガイルさんとエドモンドさんに聞いた説明が雑だったことがわかった。二人が聞いた内容は……。
・大貴族の後見がついている
・世間知らずな未婚の女性
・料理が上手
・誰も考えつかない事を思いつく
・見た目が若い
「あー、そういうことか……。あのね、後見が付いているのは私が迷い人だから」
「「ま、迷い人!!」」
「そっ。だから貴族じゃないよ」
「いやいやいや、普通の貴族より凄いじゃないですか! ってか、なんでこんな所で働いているんですか? 王都に行ったら働かなくても食べて行けるんですよ?」
「落ちた所が魔の森だったし、王都って面倒くさそうじゃない? あっちの世界で社畜だったからのんびりが良いんだ。それに、冒険者としても稼いでいるから携帯食屋は趣味?」
「「はーっ!? 趣味!?」」
その後は、二人から色々と世間話をしてラシッドが同じ年だったり、ブランカが年下だったことがわかり、呼び方もお互いに呼び捨てになった。もちろん話に盛り上がりながらもちゃんと皮剥きを終えて、その後の仕込みもやっていたこともあって二人からは驚かれた。
ちなみに話に夢中になったブランカは、ランチを食べることをすっかり忘れていて時間ギリギリに口に詰め込んでいた。
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