22.魔法省の迷い人
「あー、初めまして。シュンスケ・フウマっす」
「シュンスケ、彼は私の弟のリュウ。そして彼女は、迷い人のイツキ・カワムラだ」
「あっ、マジっすか?えーっと、見た感じ日本人?」
「はい。川村伊月って言います」
「おー、同世代迷い人だー。改めて、俺、風馬俊介」
風馬さんは私の両手を取るとブンブンと音が鳴るぐらいに手を振り、リュウが止めてくれるまで振り続けられた。
「申し訳ない! つい、嬉しくて」
「シュンスケ、モノには限度があるぞ」
「……はい。気をつけます」
風馬さんは、五年前に迷い人として気づいたら王都の植物園のベンチにいたそうだ。
彼の話では、忘年会の後に酔い潰れて帰り道に通る公園のベンチで休憩したのが最後の記憶らしいので、たぶんそのまま寝てしまって凍死したのではないかという。確かに、真冬にベンチで寝たらそうなるかも……。
ちなみに、前職は某有名家電メーカーの技術者だった35歳。こっちにきてからは前職の知識を生かして魔道具の開発をしているそうだ。私も前職のことを話したら知っている会社だと言っていた。
「で? 川村ちゃんのスキルが【充電】ってマジで?」
「マジです。ここにあるのは充電したところです」
「……うわっ、マジで動くじゃん。すげぇ〜。室長、これから色々と研究しやすくなりますよ!」
「そうか。だとすると……カワムラ嬢、魔法省で働かないか?」
「えっ? 嫌です」
「「えっ!?」」
「ぶふっ」
クノン様からのスカウトを即座に断ると、クノン様と風馬さんが同時に驚くのでそれに対して私が首を傾げる。リュウが私達のやり取りを見て吹き出し、肩を振るわせながら笑いを堪えている。いや、吹き出した段階で堪えてないからね。
「何故だ? カワムラ嬢。何が不満だ?」
「そうだよ。川村ちゃん、魔法省はエリートコースだよ。しかも充電できるから、こちらとしても助かるし。ね、一緒に働こうよ。オチュードとかいう村より、王都の方が楽しいよー」
「何故だって言われても、私には冒険者としての仕事もありますし、日々の鍛練やら手伝いやらあるので充実しているんですよ。それに、充電が出来ることでメリットあるのは魔法省で私にはメリットないですよね? 王都にも、別に興味ないですし」
「い、いやいや、カワムラ嬢、王都ならば流行の洋服だって美味しいものだってあるのだぞ?もちろん魔法省の給料も他の仕事より高額だ」
「流行の服とか別に興味ないですし、美味しいものなら村にもありますよ。それに、給料高くても自分のやりたい仕事の方がいいですから。それに、そんなにお金必要ないですし」
「川村ちゃん、日本食! 王都ならあっち世界の料理屋の店もあるよ!」
風馬さんが力説するが、私としても譲れない。
「日本食なら自分で作れますし、社畜だったからスローライフが良いんですよ」
「マジか!? 自炊できる人!? しかも社畜って……」
「まぁ、これでも大学からずっと独り暮らしでしたし、13連勤の後に転移してるんで……」
「あー、確かにあの会社は年末年始ヤバいよね〜。まさか13連フル?」
「もちろんフルです。一応責任者だったんで」
フルとは、開店準備から閉店後の掃除まで。入社説明の時は早番遅番の交代制って聞いたけど、んなこたぁない。それがあったのは一般社員とバイトだけで、責任者なんて人によっては休みでも出勤させられてた。
人員もすくないチームは、残業も半端ない。なのに残業したらしたで、上に怒られるという理不尽な会社だった。年末年始は残業リミット切られていたから、13連勤完了時で残業だけでも100時間超えてましたよ。
「あー。室長、こりゃ無理っす。俺がいた会社よりブラックな会社ですもん」
「そうなのか? シュンスケの前職の話も中々だったが、アレの上をいくと言うのか?」
「上ってか天井越え? 俺のところはまだ遅くても20時前に帰れたっすもん。でも、川村ちゃんって?」
「基本23時過ぎに退社って感じでした。人気のゲーム本体の新作とか発売前日はそのまま徹夜とか?」
「徹夜……もしかして翌日は?」
「いつも通りに23時すぎ?」
「……うん。オチュードで構わない。時々で構わないから充電しに来てくれるか?」
「あっ、それで良いなら大丈夫です」
ということで、今後私はオチュード村在住冒険者且つ魔法省のモバイルバッテリーらしい。
「あっ、風馬さん。スマホあります?」
「スマホ? あるけど? あっ、充電! ちょっ、ちょっと待ってて取ってくる」
そう言うと風馬さんは慌ただしくクノン様の執務室を出て行き、15分後また慌ただしく帰って来た。
「はぁはぁはぁ…こ、これ……」
「大丈夫ですか?」
「う、うん……な、なんとか……。どう? 出来そう?」
「【充電】……大丈夫みたいです。あっ、やっぱり」
「何がやっぱりなの?」
私の言葉に不思議そうに首を傾げる風馬さん。スマホを渡すと立ち上がりを待つスマホをみて目を見開いて驚いている。
「リンゴが齧られてない!? 何で!?」
「私のもそうだったんですよ。でも、私のリンゴは金色でしたけど風馬さんのは銀色でしたね」
しばらくするとスマホが立ち上がる。スマホ画面にあるのは電卓とアルバム、バーチャルアシスタント機能。そして電池は100%に充電されていた。
「俺のはカメラないのか……。残念だけど、でも電卓は助かるわ。そうだ!川村ちゃん連絡先交換しよ! って、電話出来んのかな?」
私達の会話を聞いていたクノン様やリュウに電話のことや電卓のことを説明しながらお互いに連絡先を交換すると、スマホに今までなかった『J』のアイコンが表示されていることに気付いた。
「うおっ!! ジョインが出来るようになった。マジか!?」
「シュンスケ、ジョインとはなんだ?」
「えっと、前の世界のモバイルメッセンジャーアプリ……。あーと、離れた所にいる相手にメッセージを届けることが出来るんすよ」
「魔力レターと同じようなものか?」
「まぁ、そっすね。でも、魔法いらずっす」
魔力レターとは、お互いに認識している相手のみに自分の魔力で送る手紙のこと。私の場合は、その魔力の形が朱雀を模しているが、人によっては蝶だったりツバメだったりする。
でも、ジョインが使えるようになった事で、魔力レターを使わずに風馬さんとは連絡が取れることになった。なので、今まで通り私はオチュード村にいて充電が必要な時に連絡をくれることになった。
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