2.オチュードの村
本日は2話投稿です。
こちらは、1話目です。
しばらく歩くと、周りの家よりも一際大きい家が見えて来た。リュウは、構わず中に入る。
「爺様ー! いるかー?」
「いるぞーい。どーしたー?」
家の奥から出て来たのは、白髪を一つに結び金色の瞳で、白い髭を蓄えたお爺さん。
「ん? リュウ、どちらさんじゃ?」
「魔の森で見つけた。迷い人らしい」
「ほぉ〜迷い人とは、珍しい。しかも、魔の森とはな。まあ、詳しい話は中で話そうかのぉ」
応接室のような部屋通されると、すぐにメイド服を着た家主さんより若いおばちゃんがカートを押して入って来た。そして、私たちに紅茶を淹れてくれる。目の前にティーカップを置かれたので、おばちゃんに会釈をすると、ニコッと微笑んでくれた。
「ワシは、この村の村長をしている、ゼウスじゃ。ここは、ユーピテル王国の魔の森の中心にある、オチュードの村じゃ」
私は名前を名乗り、昨日の出来事を話した。その不思議な話を村長は、何も言わず真剣に聞いてくれた。
「うむ、そうか。して、通常迷い人は王宮で保護されるんじゃが。イツキは、どうしたい?」
「王宮で保護されると、どうなりますか?」
「この国の事を学んだ後、どこかの貴族が引き取るのが一般的じゃ。男の場合は、異世界の知識を元に国の発展の為に働いたり、女は王族や貴族と結婚して暮らしておる」
保護されたからといっても知らない国の為に働きたくはないし、知らない人と結婚もしたくない。しかも、ラノベで良く見る政略結婚ってやつなんてご遠慮したい。例え、自分がアラサーだとしても。
「この村で、このまま生活するのはダメですか?」
「娯楽も何もない所じゃぞ? 村人も20人ほどいるが、ほとんどが隠居したワシのような年寄りだけじゃぞ?」
「大丈夫です! 私、のんびりとした生活が良いんです。……あれ? じゃあ、リュウさんは?」
「リュウでいいぞ。敬語もなしな。俺は、普段は王都の方にいて、たまにここに来ているだけだ。今日も、ここへ来る途中で相棒がイツキを見つけたってわけだ」
「相棒?」
「ああ。ちょっと待てよ」
そう言うと、リュウは窓を開けて、ピィーっと指笛を鳴らした。すると、何かが遠くの方から飛んできて、窓から家の中に入って来た。それは、トカゲに羽が生えている生き物。それが、リュウの肩に止まった。
「ドラゴンのナーガだ」
「ドラゴン……。カッコイイ!! それに、可愛い!!」
「可愛いって、今の見た目は小さいが通常サイズは、馬鹿デカいんだぞ。それを可愛いって……」
『グルルル〜』
「初めまして、ナーガ。イツキって言います。よろしくね」
私が、人差し指を出すとキュッと掴んでくれた。小さな握手だ。
「ワシも長いこと生きておるが、初対面でドラゴンを可愛いと言ったのはイツキが初めてじゃ。しかも、ナーガが威嚇せんとは……」
村長がそう言いながら私を見ていたが、私はリュックの中をゴソゴソと探していた。
「あった! リュウ、ナーガって果物食べる?」
「んあ? 食うが?」
「バナナ、あげてもいい?」
「バナナ……バナーナか。ドラゴンにやるには高価すぎるだろ?」
「へ? 見切り商品で安かったやつだから大丈夫。はい、ナーガどうぞ」
『グルルル〜ン』
皮を剥いたバナナをナーガは、ハムハムと食べてくれる。それが、可愛いくて私はニヤニヤしながら見ていた。それを見ている村長とリュウが、呆れながら見ていたことを気付いていなかった。
その後、村長さんは土地が余っているから私の家を建ててくれると言う。その家が建つまで村長の家にお世話になる事になった。村長の家には、村長の奥さんと使用人が4人。お子さんやお孫さんは、王都で暮らしているらしい。
奥さんのヘラさんは、銀髪に赤い瞳の美魔女だった。とっても気さくなおばあちゃんで、雰囲気が私の死んだばあちゃんに似ていた。
「あら? 家なんか建てないで、ずっとここに居ても良いのよ〜。孫は男の子ばかりで、孫娘が出来たみたいで嬉しいもの〜」
少しの間居候することになった事を村長が説明した時も、初対面の私に優しい言葉をかけて貰えて逆に心配になった。でも奥さんはナーガが威嚇しないのだから悪い子じゃないわと朗らかに笑っていた。
与えられた部屋に案内してくれたのは家令のハデスさんと、先程お茶を淹れてくれた侍女長のルピナさん。2人は夫婦で昔から村長夫妻の元にいたそうだ。
部屋は1階の角部屋で、窓を開けるとテラスになっておりテーブルセットが置いてあった。天気の良い日なんか、ここでお茶したら最高だろうな。
「さーて、これから生活するに何を持っていたっけな?」
行儀は悪いかも知れないけれど、綺麗にベッドメイクされたベッドに腰かけて持ち物の確認する。
「えーっと、カラビナポーチには、除菌アルコールにタバコとオイルライター。リュックには…… 会社帰りだから仕事関係のばかりだな」
リュックの中身は財布、スマホ、文房具類、ストール、タンブラー、ペットボトルの水、空のバナナケースとおにぎりケース、モバイルバッテリー、虫除けスプレー、タオル、エコバッグ。
「あっ、日本酒。晩酌用に帰りのコンビニで買ってたんだった。あとで、村長さんにあげよう。……うわっ、ヤベッ。色々と備品持ち帰って来ちゃってんなぁ〜。バレたら、事務マネに怒られるな」
仕事で使っていた結束バンドと輪ゴム、ビニール袋、そして売り場のコーナー改装をしていたので軍手にゴムハンマー。
この時、私は知らなかった。私の持ち物が、色々と規格外になっている事を。そしてカラビナポーチとリュックが容量無限大に時間停止機能の付いた国宝級のマジックバックになっている事を。