18.解体場
「コレって……」
「おや、知ってんのかい?」
ミャンさんがカウンターに出したのは、80年代に一世風靡したラジコン。もちろん私は、その後の復刻版しか販売していないが、復刻版が発売された当初、上司達が「懐かしい!」「欲しかったけど買って貰えなかった」と騒いでいた。
そして、目の前にあるのは復刻版ではなく80年代に発売されたもの。赤いボディーにゴツいタイヤのオフロードラジコン。某有名模型会社の初のシャフト4WDレーシングバギーだった。
「ポーションを買いたいが金がなかった冒険者が、代わりにとダンジョンで出た人工遺物を置いていっただけで、アタシには不要なもんだからね。いるなら貰っておくれ」
「マジですか!? ありがとうございます!」
カラビナポーチにラジコンを入れて、薬屋を出る。初めての依頼達成したこととラジコンをもらったことで、ギルドに向かう足取りは先程より軽い。
ギルドに戻ると、先程より冒険者の数は減っていた。みんな既に依頼を受けて、外に出て行ったようだ。待つこともなく受付に行くと、ちょうど先程受付してくれたお姉さんだった。
「いらっしゃいませ……って、先程の子じゃない? どうしたの?」
「依頼の達成報告に来ました」
「え? 達成? 受けてから1時間もかかってないけど、放棄じゃなくて?」
「はい、達成です」
私はカラビナポーチから依頼書を提出する。
「……あら、本当ね。依頼達成になっているわ。しかも、あのミャンさんが報酬の増額まで……あなた凄いわね。この依頼は難しい採取と言うより、依頼人が難しい人だから」
「あー、確かに」
「はい、お疲れ様。依頼達成の報告完了よ。……はい、報酬の大銀貨20枚よ。全額持っていく?」
「えーっと、半額で。あと、街に来るまでに狩った獲物の買取りとかはやってますか?」
「ええ、やってるわ。ギルドを出て右に行くとこの建物の裏手に行く通路があるの。奥まで進むと、解体場があるからそこで買取りしてるわよ」
お姉さんに言われた通りに、ギルドを出て解体場へと向かった。ちなみに、この世界の通貨は銅貨、銀貨、金貨、白金貨。これら4種類の硬貨が大小の2種類ずつ計8枚。
小銅貨………1
大銅貨………10
小銀貨………100
大銀貨………500
小金貨………1,000
大金貨………5,000
小白金貨……10,000
大白金貨……50,000
単位はゴルド(G)で、価値は日本円と同じぐらい。つまり、1G=1円。一般的な平民の一ヶ月の生活費は30,000G前後で、普段の生活に使用するのは銅貨と銀貨。
先程、ミャンさんの依頼は日本円でいうと、10,000円。薬草の採取では、かなりの破格値らしい。
「すみませーん。買取りお願いしまーす!」
「あいよ。おっ、見ない顔だな。新人か?」
「はい! さっき初依頼終わったところです」
「そうか、そうか。で? 買取るものはなんだ。ここに出して行ってくれ」
「はい。えーっと……」
私が取り出したのは、街に来るまで狩ったホーンラビット10、ディグピッグ3と、先日森で蜂蜜を取りに行った時のキラービー20。そして、買取りにも必要なギルドカードを提出する。
「「「「「G!?」」」」」
「おいおい、マジかよ」
「一人でこの量って……」
「本当に新人なのか? 再登録じゃなくて?」
いつの間にか、解体場にいる人達が集まってきていた。中には、私が誰かの狩った獲物を横取りしたんじゃないかと疑う人もいたり……。そして、最終判断で呼ばれたのは……。
「はぁ〜、やっぱりお前か」
「あっ、ギルマス。おっはようございまーす」
私を見た瞬間、嫌なものを見たように溜息をつくギルマスに、笑顔で手を振り挨拶をする。それにイラッとしたのか、ガシッと私の頭を掴むとアイアンクローをする。
「お前なぁ〜、俺が敢えてGからにしてやった意味がないだろうが!」
「痛たたた。暴力反対! 頭、潰されるー!!」
「潰すかー! ったく、解体長、コイツの買取りは問題ねーよ。コイツは問題児だけどな」
「ガッハッハハ。そうみたいだな」
解体長と呼ばれた人は、ガタイがいいスキンヘッドで頭から顔にかけて大きな傷跡のあるいかにも親方って感じの人だった。
「もしかして、この子か? この前、飲みながら愚痴ってた」
「あぁ、そうだ。先輩方の秘蔵っ子だ」
「そうか、そうか。じゃあ、この量でもおかしくはないな。嬢ちゃん、ちょっと待ってろ」
「はい。あっ、私、イツキって言います」
「おう。俺は解体長のロックだ」
買取りが終わった後、私はお昼ご飯を食べることにした。
「いただきまーす!」
今日のお弁当は、ヴェスターさんが作って持たせてくれた。BLTとローストチキンのサンドウィッチ、唐揚げ、卵焼き。
「んー、美味い!」
「……あのなぁ〜、ここ食堂じゃねーんだが?」
「あっ、ギルマスも食べます?」
「……貰おう。おっ、美味いな」
「ですよね? あっ、コーヒーと紅茶どっちが良いです?」
「ん? あー、じゃあコーヒーで。……じゃねーよ! 何で、俺の執務室で寛いでんだ!」
「だって、食堂が混んでたんで」
買取りが終わった頃には昼時になり、ギルドの食堂は満員御礼だった。なので、先程お世話になったロックさんにどこかおススメな場所はないか聞くと、ここを教えてくれた。
「あの野郎……。次はアイツの奢りだな」
そう言いながら、どんどん私のサンドウィッチがギルマスの口に消えて行く。なくなるって思いながらも、場所代としてならしょうがないかと諦め、ポーチから魔道具となって中身が勝手に補充されるようになったおにぎりケースを取り出す。
「おっ、今日は高菜明太」
このおにぎりケース、毎回おにぎりの具が違うという優れもの。でも、よくよく考えると私が今まで入れたことのある、おにぎりの具が補充される。つまり、私好みのおにぎりがランダムで入っているのだ。
なんて素敵な、魔道具。あの社畜時代にあったら良かったのにと常々思う、今日この頃の私です。
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