15.おじぃヒートアップ
「どうした?」
私に声を掛けてきたのは、先程、戦闘能力試験でお世話になったミッキーさん。彼の後ろにはお仲間さん達もいた。
「あっ、先程はありがとうございました〜」
「それは良いんだが……アレは?」
「あー、ウチの保護者がなんかヒートアップしちゃって。あははは」
「いや、あはははって……自分の爺さんが心配じゃないのか?」
「あー、確かに心配ですね。あの冒険者の方が」
「「「「はっ?」」」」
そう言っている側から、酔った冒険者の1人がセイドン爺ちゃんに殴りかかったが、何なく避ける。しかも避けたついでとばかりに、冒険者の背中を蹴るので近くのテーブルに激突して伸びてしまった。
「ありゃー、やっちゃった」
「マジか……」
「アイツ、ランクDのヤツだよな?」
「酔ってたからとかでしょ?」
「あの爺さん、何もんだ?」
メンバーが伸びてしまったの見て、一緒に飲んでいた冒険者達も呆然としていたが、それも一瞬ですぐにおじぃ達に我先と殴りかかった。おじぃ達4人、チーム酔っ払いは3人だったのだが、近くに友達がいたようで加勢に3人。つまり、4対7。
「おい、アレはさすがにヤバいだろ」
「あー、大丈夫ですよ」
チーム酔っ払いと友達連合が、おじぃ達に挑むも順に意識を狩られていく私以外のギャラリーは、パカッと口を開けたままその様子を見ていた。
「フンッ。口ほどにもない奴らだったの」
「アイツらのせいで、せっかくのエールが緩くなっちまったわい」
「ワシのウイスキーの氷もじゃ。クロノス、頼む」
「あいよ」
テーブルの周りに冒険者達が伸びているのも構わず、クロノス爺ちゃんがコップの中に氷をカランカランと作っていく。私はその様子を見てため息一つし、ヨイショッとカウンターチェアーから下りておじぃ達の元に歩いて行く。
その途中で何人か冒険者を踏み、足元からくぐもった声が聞こえたが、そこはスルー。
「おじぃ達、そろそろ帰らないと……」
「おう、イツキ! お前も一緒に飲め!」
「そうじゃ、そうじゃ! 飲め飲め!」
「いやいや、もう、時間がーー」
「何じゃ、ワシらの酒が飲めないのか?」
「そうじゃなくて! ヘルメス爺ちゃん、ダイアナ婆ちゃんと予定あるんでしょ?」
「んなもん、今なくなったわい!」
「そうじゃそうじゃ、嫁が怖くて酒が飲めるか〜」
「ちょっと……知らないからね。そろそろ来るみたいだし……」
「「「「何がじゃ?」」」」
と、おじぃ達が同時に首を傾げるが、可愛くもなくイラッともしたけど、私よりイライラしてる方が来た事で、私のイライラは消えた。
バンッ「ヘールーメースー!?」
「ダ、ダ、ダ、ダイアナ!?」ガタガタッ。
食堂の扉を壊れんばかりに開けて入って来たのは、ダイアナ婆ちゃん。かなりお怒りモードらしく、右手には愛用の鞭が握られている。
ダイアナ婆ちゃんを見たヘルメス爺ちゃんは、椅子を倒しながら立ち上がり、オロオロしながらオウル爺ちゃん達に視線を送り助けを求めるも、3人共スッと目を伏せる。
あーあ、だから言わんこっちゃない。今日は、この後、自分達のいた孤児院に出掛けるって行ってたのに。
ダイアナ婆ちゃんは、おじぃ達のテーブルに近づきながら鞭をしならせピシャンピシャンとウィップクラッキングしている。倒れていたチーム酔っ払い達を救助しているスタッフや他の冒険者も、一旦チーム酔っ払いから距離を取っていた。
そして、あの後カウンターで飲みながらこちらを見ていたミッキーさん達も、ギョッとした顔で私を見てきたので私は苦笑するしかない。
「ねぇ〜、言ったわよね? 今日は、この後出掛けるって?」
「は、はい。言っとったです」
「で? コレはどう言う事?」
ダイアナ婆ちゃんは、チーム酔っ払いを顎で指した。
「えっと……その、何じゃ……」
「ふぅ〜。イツキ、見せて頂戴。撮っているんでしょう?」
「は、はいっ!どうぞ!」
私は、こっそりとスマホで隠し撮りをしていた動画を見せる。おじぃ達が、小声で私に「ワシらを売った」とか「裏切り者」と言うが、私は私の身が1番可愛い。
「……何してんのよー!! イツキ、ギルマス呼んできて!」
「あー、さっきからそこに?」
私が指差すのは、食堂のカウンター。そのカウンター奥から、そーっと出て来たギルマスに、ギャラリー達が冷たい視線を送る。
『オマエ、見てたんなら止めろや!』
誰しもの心の声である。
「ん? ダルシムかい?」
「は、はい! お、お久しぶりです! ダイアナギルマス!」
「ギルマスだなんて、元よ元。それより、このバカ共にココで私闘したことのペナルティを」
「えっ!? いや、でも皆さん既に現役を退いておりますし……」
「現役退いていたって、ランクSS揃いよ。関係ないわよ。しかも、ヘルメスに至っては元であれ、ギルマスだったんだからココでの私闘は禁止されているの知っているのよ」
そうダイアナ婆ちゃんがヘルメス爺ちゃんの頭を叩きながら言うと、ギャラリー達が騒ぎ出す。
「ランクSS!?」
「いやいや、それってあの伝説の冒険者?」
「ちょっと待て、今、元ギルマスとか言ってなかったか?」
「あの爺さん達が?」
「いや、あの鞭使いの婆さんもだろ?」
「鞭使いで元ギルマスって、もしかして……」
「あぁ、多分闇ギルドの……」
「「「「「《紅蓮の魔女》」」」」」
何? その、二つ名。超カッコいい、ダイアナ婆ちゃん!
「ダルシム、あんたは今のギルマスでしょ。元ギルマスになんて気を使わなくて良いのよ! 悪いことは悪いなんて、子供でも知っていることよ」
「は、はぁ……。で、では、4人方にはペナルティとして……食堂の後片付けと街のゴミ拾いをーー」
「緩いわね。ダルシム、このバカ共にうってつけのペナルティがあるでしょうよ」
「えっ? まさか……」
「ええ、ギルドで長いこと放置されている依頼を片付けさせれば良いのよ」
後で受付のお姉さんに聞いたところ、どうしても依頼が出てからかなり時間が経っている依頼というものがあるらしい。それは、大体掃除関係だったり、希少な植物の採取だったり、ランクA以上の魔獣討伐だったり、誰もやりたがらない依頼やランクが高くて手が出せない依頼があるらしい。
「あー、やって頂けるなら、コチラとしては嬉しい限りですけれど」
「じゃあ、それ全部やらせたら良いわ」
「「「「全部じゃとー!?」」」
「何か?」
「「「「いえ、何でもない」」」」
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